100年前の大戦編25 一休み
「そういう事か……」
「うむ、ミズガルノズの大蛇を倒したとしても、エタールのリセマラ能力に対する策を打たねば、何度も戦う事になってしまう可能性があるんじゃ 」
「その為にニトラルが……というのだな 」
「そうじゃ、エタールは首を飛ばしても直ぐには死なず、詠唱破棄で瞬時に魔法を完成させる事が出来る。リセマラの能力と合わさると奴は不死身じゃ……弱点を探るしか無いとニトラルは判断したんじゃが……」
「エタールの弱点探しについては、ニトラルに託すしかないな……」
騎士王は一杯の水を飲む。
「ナレジン殿、ミズガルノズの大蛇については正直な所どう見る? 」
「……この城で、このメンバーで時間を稼ぐのならば可能と見る。ただ奴を倒すのは不可能に近いじゃろ。しかし時間を稼ぐだけなら充分に可能じゃわい 」
「そうか、儂も同じ見立てじゃ。ただし一点だけ気になる事がある 」
「それはなんじゃ? 」
「儂達が大蛇を使い魔で監視していた様に、エタール達も使い魔を使って、戦いと撤退を見ていたのは間違い無いと思う 」
「うむ 」
「奴自身が城から出たがらない性格と言え、何の策も打って来ないとも限るまい 」
「確かにそうじゃ、しかし、あの蛇は敵味方見境なしに食べるから、魔族もうかつには近づけんわい。だから大蛇が元の世界に戻った後が危険じゃと儂は見る。戦いが終わって疲弊した所を攻められると手の打ちようが無い 」
「そうだな……難しい問題じゃな 」
「考え過ぎても仕方がないですぞ。幸いこの城には回復魔法の使い手も多く集まっておる。皆を交代で休ませながら戦えば、イレギュラーにも対応しやすい。それ以上の対策は今は無理じゃ 」
「うむ 」
「儂は鐘が鳴るまで一休みしてくるわい。騎士王殿も休まれよ、まずは大蛇の相手が最優先じゃ。騎士王殿の体調も万全にせねばならぬ 」
「気を使わせて済まぬ。ナレジン殿にはいつも助けられる……」
「なんのなんの、長い付き合いじゃ。儂らはこの戦いで最善を尽くす。あとはナイト達若い世代に任せる。それで良いんじゃないかいの 」
「そうだな。儂も一休みするとするか、少し気が楽になったわい 」
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修練場にて
「なぁ、いつまで剣を振っているつもりなんだ 」ランティは無心に剣を振り続けるケンマロを見ていた。
「拙者に残されているのは、身体に染み付いた剣筋のみでござる。剣から何か思い出すかも知れないでござるよ 」剣を振りながら答えるケンマロ。
「まぁ、良いけどな 」
「ランティ殿も帰って一休みした方が良いでござるよ。拙者は屍、疲れないでござる 」
「ははは、なんかズルイな。まぁ、いいや。
この戦いで生き残ったら息子さん達の所へ連れて行ってやるから、待っててくれ 」
「……」
「それじゃあ、俺は一休みしてくる。またな 」
「……」
他に誰も居なくなった修練場で、ケンマロは一人黙々と剣を振り続けた……
城の一室ではエルフ部隊の幹部達が会議を開いていた。
「リアム様も前衛に出られるのですか? 」
副官が不安そうに口を開く。
「あぁ、恐らくは2日以上の長期戦になる。前衛は交代で戦わざる得ないので人が足りない。私も騎士王達と共に戦うべきだろう 」
「しかし、エルフの長が自ら最前線で戦うなど 」
「それは騎士王も同じだ。それにこの城を死守するのは我々にとっては悪い話では無い 」
リアムはゆっくりと幹部達を見渡す。
「我々エルフは故郷の森を捨てる事は出来ない。ここで騎士王達と大蛇を食い止めるしか無いのだ。その為であれば私の命などは惜しむべきでは無いだろう 」
「しかし、リアム様にもしもの事があれば……」
「私にもしもの事があればウィッテが長となる。
その為にエルフの森に帰したのだ。まぁ、まだまだ未熟なので苦労するだろうが 」
「苦労して成長してもらうしか無いですか? 」
「その通りだ。我々も歩んだ道だ。ウィッテや森に残して来た若い連中に期待しよう 」