100年前の対戦編23 剣筋
「騎士王様、よくぞご無事で……」
フロンテ城主が城門まで迎えに来た。とりあえず一安心だ。ナレジン殿の話では大蛇は川の向こうで未だに休んでいるらしい。半日分の距離の差はかなり大きい。
「ランティ! 」
ナイトが駆け寄って来る。隣にはリヤとスケルトンが居る。こいつが噂のケンマロか。
「ナイト、今回は助かった。騎士王様が食われた時は肝を冷やしたぞ 」
ナイトはニヤリと笑う。
「俺達もだ。転移門を出たら口の中た。ナレジン殿の機転で助かった 」
俺はスケルトンを見る。
「彼が噂の無限流のスケルトンか……」
「あぁ、疲れている所を申し訳無いが、ケンマロの剣を見てくれないか? 彼の過去を知る手掛かりになるかも知れない 」
「わかった。地下に修練場がある。そこで模擬戦を実施しよう 」
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「ランティ、ケンマロ。1本勝負だ。木刀とはいえリヤが回復役を務める。トドメは禁止だが本気で頼む
」
ランティとケンマロは互いに一礼し、剣を構えた。
双刀使いか……無限流の中でも双刀使いはほとんどいない。どうしても片手剣に比べて威力が落ちてしまう。威力を上げる為に剣を重くするとスピードとスタミナで不利になる。
すると……
ケンマロは猛スピードで俺の前に突っ込んでくる。
すかさず横薙ぎで払おうとするが、その時には姿が見えない。
下、いや、上か!!
ガチン!!
斜め上に向けて払った剣に衝撃が伝わる。クルクルと回転しながら後方へ飛び去るケンマロ。
「早いな、スピード重視の双刀使いか 」
俺はケンマロに話しかける。冗舌なスケルトンと聞いていたが、奴は黙り込んだままだ。
「高速剣舞 無限刃!! 」
奴は高速で突っ込んで来ると、左右の剣を使い高速で切りかかって来る。
ガンッ!!
ガンッ!!
ガンッ!!
ガンッ!!
「チィッ!! 」
ヤバイ、左右両方からとんでも無いスピードで剣撃が来やがる。
ガンッ!!
ガンッ!!
ズガッ!!
「1本!! ケンマロ 」
ナイトの手が上がった。くそッ、急に角度を変えた剣筋について行けなかった。
ケンマロが口を開いた。
「どうでござるか?拙者の剣筋は? 」
「予想以上だ。これほどとは思わなかった。あのスピードの剣撃に変化をつけられたら、なかなか対応出来る物では無いな 」
「そうだろう。俺もリヤもこいつと撃ち合ったんだ。ランティ、おまえとの模擬戦で似たような技を使われたのを思い出したんだ 」
「あれは、色々な戦い方を教えてやってくれと騎士王様から頼まれたんだ。ただ俺のは形だけで本職とは違う。ケンマロは本物だな 」
「それでケンマロの正体はわかるか? 」
「これほどの剣術を使い、エタールに力を認められた可能性があるのは、剣聖クラスか、かなりの高弟に限られるな 」
「やはり拙者は元剣聖でござるか? 」
ケンマロが目を輝かす。
「双刀使いの剣聖は、遥か昔の3代目剣聖のみだが……天を衝くような巨体だったらしい 」
「違うな 」
「違うわね 」
「可能性が高いのは、10年くらい前の先代の高弟で、小柄だが高速剣舞が得意な剣士だな 」
「それっぽいな 」
「おっちょこちょいの天然、その名はトビマロ。剣舞が得意だったそうだ。先代の剣聖と共に魔王に挑んで行方不明になっている 」
「間違い無いな 」
「間違い無いわね 」
「おっちょこちょい……違うでござるな、残念でござる……」
ケンマロは首を横に振った。
「ところでトビマロ、今後どうするんだ?」
「拙者はトビマロではござら……」
「ランティさん、トビマロさんの家族はどうなさっているの? 」
「……あぁ、国から遺族に対する補償金と年金が出ているはずだ。あとお子さんが無限流で学んでいると聞いたぞ 」
「どうだ?ケンマロ。何か思い出したか 」
ケンマロは肩を落として呟く。
「……何も、何も思い出せないでござる。拙者に残っているのは、この身体に染み付いた剣筋のみでござるよ…… 」