100年前の大戦編22 震天の擲穿
ヒビの入った結界の上に、ヒビを埋めながら新たな結界が急速に上掛けされた。
「おぉーっ!!! 」
森の方角から歓声が湧き上がる。
再び尻尾を振り始める大蛇の上空に八賢者イルスと、イルスに掴まったナイトが現れた。
「異界の怪物よ、去れ!!」
イルスが急降下して大蛇の顔面に向かう。
大きく口を開いて迎え撃とうとする大蛇の眼前に、ナレジンが現れて、紅炎魔法を放った。
「紅炎!! 」
慌てて口を閉じる大蛇の顔に、イルスから高速で離されたナイトが突き刺さる。
「秘剣、震天の擲穿!! 」
ドガガガガガガガガガガガガガーン!!!
天地を震わす衝突音が響き渡る。
ナイトは衝撃で弾き飛ばされるも、大蛇も衝撃で勢いよく頭を下げる。
弾き飛ばされるナイトを空中で掴むイルス。
「イルス殿、助かります」
「どうです? 手答えは……」
「硬いです。しかし衝撃は伝わったはずです 」
結界を張るリヤの元にエイドが駆け寄って来た。
「リヤ殿、リヤ殿!!ナイト殿が大蛇に頭を下げさせましたぞ!! 」
「先程の大きな音はナイトの攻撃だったのね…… 」
リヤは皆を見渡して口を開く。
「みんな、ありがとう。大丈夫、一度手を離して 」
リヤに魔力を吸い上げられていた人々が疲弊した顔で手を離した。
「リヤ殿、結界はどうだ? 」
モンク長のバリアズが頭を掻きながらリヤに聞いた。
「大蛇の1〜2撃は防げるでしょう。しかし3撃目には破壊されてしまいます。そこに新たな結界を貼り直すしかありませんが……」
「貼り直す度に膨大な魔力が必要になると言う事ですか……」
聖女ティーダが話しに入る。
「はい、維持する魔力に比べて、貼り直す魔力の消費は膨大です。あと何度貼り直す事が出来るのか……でも、ナイトが、前衛の皆が戦っている限り私は結界を貼り続ける 」
バリアズが頷いて皆に檄を飛ばす。
「後衛はそれでも前衛よりはマシだからな。みんな!死ぬ直前まで魔力を流し込むぞ!! 」
「おう!! 」
「はい!! 」
ナイト……死なないでね。リヤは目を閉じて彼の為に祈った……
大蛇は叩きつけられた頭をゆっくりと上に上げる。
そして森に背を向けてスルスルと川の方に向かって行く。
騎士王は川に向かう大蛇の様子を黙って見つめていた。
「騎士王殿! 」
ナレジンが騎士王の横に降りたつ。
「ナレジン殿、どう見る? 」
「もう日が暮れる。何時間戦ったんじゃ 」
「朝から晩までじゃな 」
「大蛇も嫌気がさしたのかの? 」
「そうあって欲しいものだな……」
「それで、どうする? 」
「大蛇が川を渡りきるのを待って、我々も休もう。ナレジン殿、使い魔に蛇の監視を任せられるかの? 」
「ふふふ、既にしておるわい。儂のフー君は優秀だから、何かあればすくに連絡が来るわい 」
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大蛇が川を越えて遠くに去ったのを確認してから、騎士王は主要メンバーを集めて、食事をしながら今後の方針を検討する事にした。
騎士王が皆の前で立ち上がる。
「まずは皆に感謝を申し上げる。ミズガルノズの大蛇の進行を1日に渡って止めた。それによって多くの人々の避難を進める事が出来た 」
騎士王は皆を見渡す。
「大蛇の進行速度を考えると、あと3日、あと3日あれば多くの人々の避難に掛かる時間を用意する事が出来るらしい。そこで、この場で戦うか?更に西進してから戦うかを決めねばならんのじゃ 」
モンク長バリアズが手を上げて発言する。
「今日の成果は上出来だ。奴にダメージは与えられずとも、こちらも死亡者ゼロだ。しかし、結界は何度も崩壊した。リヤ殿達が間に合わなかったら俺達は全滅していただろう 」
「紙一重といったところじゃな 」
ナレジンが頷く。
「もし、騎士王国の城壁地帯まで戻る事が出来るのならば、かなり有利になると思うのですが……」
聖女ティーダが溜息を漏らした。
「最悪のシナリオの場合の最終防衛線ですな。城壁地帯の守備部隊が準備を進めておりますが、いかんせん、ここからでは遠い 」
「はい、ですので。可能な時に距離を詰めた方が良いのでは無いでしょうか? 」
「……騎士王様、いかが致しましょう? 」
「ここは辺境、ここらの人族は既に西進しておるか……ならば、ここを死守する必要は無いな……」
「騎士王殿、辺境地域防衛の要の城まで西進するのはどうでしょう 」
八賢者イルスが勢い良く立ち上がった。
「城壁地帯ほどでは無いにしろ、防衛設備は整っているはずです 」
「フロンテの城ですな。ここからの距離は半日程度です。あと1万近い兵が詰めているはずですな 」
「半日戦い続けた兵は疲労しているが、ここで休息を取るよりフロンテ城の方が良さそうですな。疲労の比較的少ない回復魔法部隊とモンク部隊が行程のサポートをしましょう 」モンク長のバリアズが騎士王を見る。
皆も騎士王を見つめる。
「わかった。フロンテの城へ向かおう 」