100年前の大戦編19 紅炎
大蛇の意識をこちらに引き付ける。
前衛で戦う者達の共通認識。
部下に指示を与えたリアムも結界内から飛び出して、大蛇の元に走り向かう。
騎士王は真っ先に蛇の顔にたどり着いた。大蛇の巨大な舌が迫る。大きく跳んで舌を躱した騎士王は、三度ピット器官の前に立つ。
「唸れ!!天槍 赤雷 」
騎士王は頭上で槍を高速回転させる。
「喰らえ!!三層刺突」
ドドドドドドーン!!!
ガキーン!!
またも弾き返される天槍。
大蛇の舌が騎士王に迫る。
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
リアム達の光の矢が目に当たった隙に、大きくジャンプして舌から離れる騎士王。
大蛇は衝撃を気にせずに、大きく口を開いて騎士王を追う。
「なんじゃと!! 」
空中で身動きの取れない騎士王を射程に収めた大蛇は、その大きな口を閉じた。
「騎士王様ーっ!! 」
エイドの絶叫が響き渡り、魔法使い部隊では腰を抜かして倒れこむ者が続出した。
「くそっ!開けろ!開けやがれ!! 」
大蛇の左目に剣を叩きつけるランティ。大蛇は視線を向けるも動かない。
騎士王四天王が大蛇の背を駆け上り、大蛇の顔の前に到達した時だった。
「紅炎 」
大蛇の口から轟々とした真っ赤な炎が溢れだす。
大蛇の口が開き、八賢者ナレジンが飛び出した。その左手にはリヤを抱えたナイトが、右手には騎士王が、そして右足にはケンマロが掴まっていた。
「騎士王様!! 」
「ナレジン様!! 」
「ゆ、勇者達が戻って来たぞ!! 」
「ウオォオオーッ!!! 」
結界内に向けて飛び去るナレジン達。ランティ達も頭を振る大蛇から離れて行く。
入れ替わりに大蛇の首を走り登るリアム。ピット器官の前にたどり着いて、弓を構える。
「至近距離から叩きこんでやる。光瀑布!! 」
リアムの光の弓の連射がピット器官に叩き込まれる。
ガガガガガガガガガガンッ!!!
大蛇は大きく頭を左右に振ってリアムを振り落とそうとする。バランスを失いそうになったリアムを、八賢者イルスが抱えて飛び去った。
「イルス殿、助かりました 」
「リアム殿、大蛇の奴、少し苦しそうでしたな 」
「まだ戦えますね 」
「勇者が、勇者が帰って来た。我々はまだ戦えます。それに奴も生物ということがわかりました 」
「それは? 」
「生物の舌には味覚などを感じる為に多くの神経があり、それが表層に出ています。だから奴は熱さを感じて口を開けたんです 」
結界内に移りエイド達の元に着地したナレジン。
「ナレジン殿。助かりましたぞ 」
騎士王は深く頭を下げた。
「いや、よくぞ耐えて下さった。遅くなって申し訳無い 」
「ナイトとリヤもよくぞ戻って来てくれた……ところでニトラルはどうしたのだ? 」
「ニトラルは儂らを逃す為に……」
ナレジンが下を向く。
「そうか……わかった。ニトラルの意思は我らが継ごう。力を貸して欲しい。地下施設などへの避難が完了するまで時間を稼ぎたい 」
「了解じゃ、それで戦況はどうなんじゃ? 」
「遠距離攻撃部隊を結界内に置いて、儂たち近接戦闘部隊が大蛇のピット器官や目に攻撃を繰り返しておる。しかし桁違いの魔力と大きさでかすり傷一つついておらんのだ 」
エイドが話に参加する。
「ただ口内の紅炎は熱かったようですな 」
「ダメージが与えられたかは判らぬ。しかし奴にも神経があり痛みを感じる事はわかったわい 」
「それで私達はどうすれば良いのかしら? 」
リヤが修復中の結界を見つめながら発言する。
「リヤはティーダ殿達の元に行って結界の修復を頼む。ナイトは儂と共に近接戦闘じゃ。ナレジン殿はイルス殿と共に空中から前衛のフォローに回ってくれ。」
「拙者は? 」
気配を消して後ろに隠れていたケンマロが前に出る。
「なんじゃ、お主は? 」
「拙者はケンマロ。大魔王軍 四天王の一人で剣の道を究めんとする屍でござる 」
「なんだと!! 」
騎士王の側近達が剣を抜く。
「待ってくれ。こいつとは休戦中なんだ。それに気になる事がある 」
ナイトが側近達とケンマロの間に入る。
「気になる事ですと?」
エイドが怪訝な顔をした。
「ランティ、勇者ランティは何処にいる 」
「ランティ殿は前線で戦っていますよ 」
「そうか、こいつの、ケンマロの剣術はランティと同門の無限流だ 」
皆の視線がケンマロに集まった。




