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100年前の大戦編18 大蛇の一撃

 エイドは前線で自ら戦う騎士王に代わって、結界内の指揮を任されていた。


「化け蛇め、あれだけの攻撃を受けて、傷一つも付かんのか……」


 エルフの長 リアムがエイドの元にやって来る。

「エイド殿、エルフ部隊の指揮は副官に任せて、私も前に出よう。このままでは前線が持たない 」


「しかし……」


「エイド殿、今の生命線は前線だ。

 結界がどれだけ持つかわからぬ以上は、前線を維持出来る戦力を出し惜しみは出来ない 」


「わかりました。後方はお任せ下さい 」


「頼みます 」


 リアムが結界を超えて前線に向かおうとする、その時事態が動き出した。


「エイド様!大蛇が!!」

「大蛇がトグロを巻いて……」

 魔法使い部隊が騒ぎ出す。


「なんだと!! 」

 見通しの良い所に出て様子を伺うエイド。

 大蛇はゆっくりと頭を中心にトグロを巻き出した。


 大蛇の背から離れて遠ざかる人影が見える。四天王やランティ殿達か。

 しかし、大蛇めどうするつもりなんだ?

 顔への攻撃に嫌気がさしたのか。エイドは嫌な胸騒ぎが止まらなかった……




 騎士王は結界内には戻らずに大蛇の右側に位置を取った。あの巨体に弾き飛ばされて多くの人々が亡くなった。距離を取らざるを得ない。


「騎士王殿、どう見ます 」


 勇者ランティがやって来る。


「わからぬ。ただ顔への攻撃は難しくなった。

 迂闊(うかつ)に近づくと逃れなくなるかも知れぬ。奴が動き出すまで、こちらも動けぬな 」


「時間を稼ぐ必要がある我々にとっては都合が良いですが……」


「そうじゃな。ただ焦ったくはあるがな……」






 ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ……


 巨大な蛇ゆえにトグロを巻くにも時間がかかる。八賢者イルスは上空から観察を続ける。


 大蛇の動きが少しずつゆっくりとなってゆく。

  完全な円では無く、1周ごとに折り返している感じだな……ただ単に防御しやすい形になっているわけでは無いのか……




 結界から少し離れた大樹。その大樹の高い枝にリアムは数人の部下と共に登っていた。

 弓を構えて状況の変化に備える。


「リアム様、あの大蛇は何を考えているのでしょうか? 」


「わからない。ただ何かを考えて行動を変えたのであれば状況が急変する可能性がある。

 それに備えるのが我らの使命だ 」


「ダメージを与えられ無くても、一瞬でも動きを止められるのであれば、ですか 」


「そうだ。結界の外では一瞬が生死を分ける。我々が『その一瞬』を作るしか無いんだ。

 私は状況次第では前線に出る。その場合は牽制を頼んだぞ 」


「はっ!! 」


「リアム様!!大蛇が!! 」


 リアム達は大蛇に目線を移す。



 大蛇はゆっくりと尻尾を左右に動かしている。


 そして……


 急に勢いを付けて前面の結界に向けて叩きつけた!!!


 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガーン!!!


 ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキ……


 衝撃で結界に大きなヒビが多数入り広がった。端々が崩れていく……



 結界の内側ではパニックが起きそうになっていた。


「なっ!!」

「け、結界が崩れるぞ 」


 恐慌を発しそうになる魔法使い部隊にエイドの指示が飛ぶ。パニックになったら立て直せない。


「撃てーっ!!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーッ!!!


 大蛇に炎魔法が迫る。気にしない大蛇はゆっくりと鎌首を持ち上げる。


 そこへ複数の光の矢が飛んで来る。


 ガンッ!!

 ガンッ!!

 ガンッ!!


 ガンッ!!

 ガンッ!!

 ガンッ!!


 大樹の上のリアムと部下達の光の矢が大蛇の左目にぶつかって砕け散った。


「撃てーっ!!」

 エルフ部隊の副官の号令が響き渡る。

200名近いエルフによる弓の一斉射撃が始まった。何度でも、何度でも、力の限り打ち続ける。


  ガガガガガガガガガガガガンッ!!!


 大蛇は尻尾を前に立てて攻撃を防いだ。





 騎士王とランティは頷きあった。

 結界を攻撃させるわけにはいかない。


「行くぞ 」

「おう! 」


 騎士王とランティが大蛇に駆け向う。




 聖女ティーダは結界の修復に全力を注いでいた。大蛇の一撃で結界はボロボロになってしまった。

 大蛇にとっては何の事も無い一撃、しかし、それをもう1回喰らえば結界は砕け散ってしまう。


 それでも、それでも逃げるわけには行かない。


 結界が無ければ、その一撃で大勢の人達が死んでしまう。大蛇の前進を止める術が無くなってしまう。皆が死んでしまう……


 二度目の一撃を防ぐために皆が戦っている。


 私は先程から手が震えているのに気がついた……怖い、怖くて仕方がないけれど……私も戦うしかない。


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