100年前の対戦編16 化け物め
ブラックドラゴンのブラドラとブラドラ編隊は人族の領土を目指して、西に向けて飛行を続けていた。
「隊長〜っ、やっと国境に近づいて来ましたね 」
「そやな、あの蛇はん、途中で度々お食事タイムに入るんやからな。思ってたより時間がかかったで 」
「あまり見たくは無かったですけど、美味しいイカより目の前のですかね 」
「そうやな、厄介な化け物やで。早く騎士王国とやらに送り届けて、はよ帰りたいんやで 」
ゴロゴロゴロゴロゴロ
南側の空は暗く、たまに稲光を発している。
「ずーっと南側だけ悪天候ですね 」
「騎士王国とやらの中心部は、もう少し南なんやけど、あの雷雲の中を飛びたくないんやで、このまま街道沿いを真っ直ぐ行くで 」
「おっ、国境の大河が見えて来ましたよ 」
「気をつけるんや、あの大河を超えたら敵の領土やで、大蛇はんは無敵やけど.ワイらはそうでもないんやで 」
ブラドラ編隊が大河の真ん中ぐらいに差し掛かった時だった。
ピカッ!!
大河の先にある森の所々が光った。
「て、敵襲や!!左右に 回避!! 」
多数の光の矢が弾幕の様に、風を切りながら接近してくる。
ブラドラ編隊は真ん中から左右に分かれて飛んで、回避飛行を取った。
「ぐわっ!! 」
「うげっ!! 」
複数の矢が2匹のブラックドラゴンに突き刺さる。スピードが落ちる2匹のドラゴン
「しゃーない、突破は無理や。クラーケン落として全速で上昇や!! 」
「大丈夫なんですか?? 」
「連れて戻ったら大蛇はんも戻って来るで、今なら対岸の敵の大群に惹きつけられるやろ 」
「わかりました!!クラーケン投下!! 」
ヒューン、ボトン!!
ヒューン、ボトン!!
大河に投下されたクラーケンは深い大河に潜って全速で逃走を開始した。ブラドラ編隊も全速で上昇する。
そしてミズガルノズの大蛇が現れる。大河の岸に現れた大蛇はピット器官で対岸の様子を伺う。対岸の森の中に多数の熱源を見つけた大蛇は、舌舐めずりをしてから大河を渡り出した。
森から光が溢れて、多数の光の矢が飛び出した。光の矢は風を切りながら大蛇に向かう。
そして、川を堰き止める様に巨体をせり出して渡る大蛇に対して、多数の光の矢が降り注いだ。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガン!!
降り注ぐ光の矢を弾きながら前進する大蛇。一切気にする様子は無い。その大蛇の上空に八賢者イルスが現れて、魔法の杖を振り下ろす。
「光量子爆撃!!」
圧縮された眩い光が雨あられと降り注ぐ。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
降りかかる攻撃を一切気にせずに前進する大蛇は、大河を渡りきって森に近づいて行く。
「化け物め 」
八賢者イルスは自らの最強の攻撃魔法が一切効かなかった理由を理解した。八賢者と言えどミズガルノズの大蛇と比べると魔力量の桁が数十桁、いや数百桁違うのだ。
「撃てーっ!! 」
森の中からエイドの号令が響いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーッ!!!
森の中から魔法使い部隊の炎魔法が一斉に放たれた。イルスは目を凝らして観察する……やはり大蛇の魔力に阻まれて魔法攻撃が届いていない。
「魔法が効かないとなると、物理攻撃しかないか……」
イルスの呟きに合わせたかの様に、森の左手から騎士王が、森の右手から勇者ランティが大蛇に向けて駆け向かった。
大蛇は両目を別々に動かして二人の動きを追う。そしてランティに向けて、巨大な舌を放った。
しゅるん!!
「チィッ!!」
予想を上回る舌の速さにランティが捕まりそうになった瞬間。
ズドン!!!
エルフの長 リアムの放った光の矢が大蛇の左目に衝撃を与えた。
すかさず舌から離れたランティ。
騎士王はその隙に大蛇の顔を駆け上った。上唇の辺りに鱗が無い隙間がある。
「これがピット器官か 」
騎士王は剣に全身の力と闘気を込める。
そして思い切り振り下ろした。