100年前の大戦編14 勇者とは旗
ナイトの泣きそうな顔を見ながら、リヤもニトラルの言葉を思い出していた……
『リヤ、お主にはナイトを支えてやって欲しいんじゃ。ナイトは真面目な男ゆえに背負い過ぎておる 』
『そうね、最近、何か暗いわね 、暗過ぎるわ 』
『エタールの正体が見えないんじゃ。奴は周辺国を制圧し、魔族をほぼ統一しているにも関わらず、情報がほとんど出て来ないんじゃよ 』
『それは確かに怖いわね。能力がわからない相手とは戦いたくは無いわ……でも戦わざる得ないんだから、仕方がないじゃない 』
『ナイトは恋仲のお主を連れて行きたく無いんじゃ。正体のわからぬ敵の所にな 』
『それは彼の優しさだけど……エタールを放置する事は出来ない。私達が戦うしかないわ 』
リヤが真剣な目で見つめて来る。
『そうじゃな、その通りじゃ。ナイトも理屈ではわかってはいるんじゃ……しかし感情が答えを出せておらぬのじゃ 』
『彼を一人で死地に送る事は出来ない。死地ならばこそ隣にいるわ 』
リヤが断言する。
『そうじゃ、儂らで支えるしかない。勇者とは旗なんじゃ 』
『旗?』
『そうじゃ、勇者とは人々の希望を支える旗なんじゃ。そこに勇者が立っているだけで、旗が立っているだけで人々は希望を持ち続ける事が出来る。儂らは戦うだけでは無い、人々の希望になり続ける必要があるんじゃ 』
『戦うだけじゃないって、大変ね 』
『相手がある事じゃ、完璧などありはせぬ。人事を尽くして天命を待たざる得ないんじゃがな。ナイトは人事を尽くしておる。これ以上は背負い過ぎじゃ 』
『わかったわ。私から、それとなく話してみるわ 』
『助かる。お願いするわい。ナイトもお主も、時として逃げても構わぬのじゃ、最後に勝つ為にはの……
お主らで難しい事は儂や騎士王様達が何とかするわい。それが年嵩の者の責任じゃ。遠慮なく押し付けるんじゃ 」
笑顔になるリヤ。
『ありがとうニトラルさん。私も少し気が楽になった気がするわ 』
『年の功じゃよ。良い物も悪い物もたくさん見てきたんじゃ……戦いの結果については保証は出来ぬ。
しかし、どんな状況でも最善を尽くす事は出来る、そう信じておるんじゃ 』
ニトラルの言葉に、リヤは強く頷いた。
時は少し遡る。
人族と魔族の領域の境には幅数百メートル、所によっては幅1kmを超える大河が流れていた。騎士王一行は、川を渡った人族領側で大蛇を迎え撃つ事にした。
「ここに集結する事が出来たのはざっと2400人ほどですな」メガネの従者エイドが騎士王に報告する。
「10万を超えた大軍が……」
「いや、別に逃げた者も多いはずだ。他の場所にも船や橋はある」
「北に向かえば川幅は狭くなるし、南側にも狭い箇所は複数ある。魔族領域に一時隠れている者達も多いかも知れんぞ」
他の側近達が騒めく。
「構成はどうなっておる ? 」
騎士王が問うた。
「騎士王様の近衛が300騎。他の騎士王国の戦士が700人、リアム殿のエルフ兵団が200人、王様連盟の援軍が500人。魔法使いが300人。回復系職種の者が200人。義勇兵その他が200人といった所です 」
「SやAランク以上の者はどれほど残っておる? 」
「Sランクが6名。騎士王様、リアム殿、八賢者のイルス殿、モンク長のバリアズ殿、聖女ディータ殿、義勇兵の勇者ランティ殿。
Aランクが18名の計24名となります 」
側近達のざわめきが止まる。
「エタールの元に向かったナイト殿、リヤ殿、ニトラル殿、ナレジン殿は別にして……Sランクの八賢者ソラン殿、リスキー殿、ガイアズ殿の3名は死亡確定。
将軍格8名死亡確定。5名は生死不明。Sランク勇者9名が死亡確定、8名は生死不明。勇者パーティ所属のA、Bランクの者達、約1000名が生死不明となっております 」
死亡者、生死不明者のあまりの多さに、誰もが息を飲んだ。
「他の者達を守って一緒に逃げる道を選んだ者も少しはいるかも知れませんが、多くの者は戦って亡くなったと考えられます 」
エイドは苦しげに報告を終えた。
騎士王が頷く。
「最終作戦会議じゃ。幹部を皆を集めてくれ。」
「畏まりました。騎士王様 」