100年前の大戦編11 リッチ
「作戦とな?」
ナレジンがニトラルを見る。
「作戦というほどの物では無いのかも知れぬが、次につながる手を打たねばならんのじゃ」
「どういう事じゃ?」
「儂の親友の魔法使いジミーを覚えておるかの?」
「優秀だが、神経質で地味な奴じゃったかな」
「そうじゃ、そのジミーじゃが……無窮の魔導を極める為にリッチになる事に成功したらしい」
「……何が言いたいんじゃ……」
鋭い目付きでニトラルを睨むナレジン。
「儂もリッチになろうと思うんじゃ……」
「何を馬鹿な事を!!人を捨てて闇に生きる怪物になるというのか!!」ナレジンが激昂する。
「リッチになってエタールの側近に加わって弱点を探るしかないと思うんじゃ。このままでは永久に勝てはせぬ……」
「このままでは勝てはしないのは同意するわい。しかし奴の側近になれるのか?」
「アイツらを見てみるんじゃ 」
ニトラルがケンマロ達を見る。
「ケンマロちゃん!もっと早い、凄く早い踊りが見てみたいでござ〜る 」
ドーシャが囃し立てる。
「もっと、もっと早く、スピードの先を超えた世界へ、行くでござる!!
ヒュン!!
グルグルグルグルグルグル
超高速で回転するケンマロ。
「……見事なりケンマロ……」
立ち上がって拍手するエタール。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
皆が拍手して応援する。
「あ奴らはアホにしか見えんぞ。ケンマロのボケが止まらぬ 」
「エタールの本質はボケじゃ、そして側近供もボケしかおらんのじゃ。だから収拾が付かずに延々とボケが続くんじゃ 」
「否定は出来ぬな 」深く頷くナレジン。
「儂はボケもツッコミも高いレベルで使いこなす事が出来る。状況をコントロールする事が出来るんじゃ。ボケにはツッコミが必要なのは世の真理じゃ。必ず側近になってみせるわい 」
ナレジンは暗い顔で首を振る。
「主の家族が……妻や子や孫達が悲しむぞ。二度と会う事も、真実を伝える事も出来んじゃろう 」
「このまま行けば世界は滅びるんじゃ。儂の家族もな。それを救う、もしくは遅らせる事が出来れば充分じゃわい 」
「二つ聞いてよいか。生前の人格や知識は保たれるのか?また連絡手段はどうするつもりじゃ 」
「生前の人格、記憶が保たれる保証は無い。しかしケンマロやジミーは保たれているとしか思えぬ。
ナレジン殿の使い魔のフー君と、儂の使い魔カメレオンのレオン君を連絡手段に使うと同時に、記憶障害がある場合の手助けをしてもらおうと思うんじゃ 」
「わかった。そこら辺の細かなフォローは儂の仕事じゃな 」
「そうじゃ。ナレジン殿は死ぬ事は許されぬ。ナイトとリヤを送り届けた上に、儂がリッチとして奴の側近になるまでは、外部からフォローして貰わねばならんのじゃ 」
「儂はそろそろ寿命っぽいお年なんじゃがな。皆を助けてカッコ良く死ぬつもりじゃったんじゃが 」
「カッコ悪くても、皆に批難されても生きて貰わねばならぬ。誰にも言わず耐えてもらうしか無いわい 」
「お主に比べたら大した事では無いわい。わかった作戦に協力しよう 」
「これは作戦計画書じゃ。これを食べてくれ 」
ニトラルは魔法の手紙を差し出した。
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「剣は舞、剣は華、剣は夢……」
ケンマロは歌を口ずさみながら剣舞を披露していた。
「ナイト、リヤ。待たせたな 」
「ニトラル、ナレジン殿!! 」
「転移門 」
ナレジンの後方に扉が現れる。
「ナイト、リヤ。この扉は騎士王様の所につながっておる。騎士王様と共にミズガルノズの大蛇を止めるんじゃ 」
「ニトラルさんとナレジン様は? 」
「儂らはもう少しだけ残る。あと少しでエタールの謎が解けそうなんじゃ 」
「ダメよ。戻る時は一緒よ 」
「リヤ、行こう。ミズガルノズの大蛇を止めるにはリヤの力が必要だ。どっちも死地だ。違いは無い 」
「すまぬ、ナイト。リヤ。皆の家族を、人族を守ってくれ 」
「……そうはいかぬ……」
エタールが椅子から立ち上がる。
「拙者がこの扉を通さぬでござるよ 」
高速移動したケンマロが扉の前に現れた。