100年前の大戦編9 生きる屍
「ナレジン様!!」
「待たせたな……というか待ちくたびれたわい。こちらに来たら、怪しげな出し物が始まったのでな 」
「ニトラルさんが魅了されて……」
リヤが目の光を失ったニトラルを指差す。
「大丈夫じゃ、奴の妻は我が妹。本当の愛の力を見せてやるかの 」
「うふふ、駄目よ、もっとお爺さん。ニトラルちゃんは妾の虜」
ナレジンはニヤリと笑う。
「ならば、確かめるとするかの?おーいニトラルよ、おまえが愛してるのは誰じゃ?」
「儂はネタギーレン様を愛……グギャアアアア!!」
愛を語ろうとしたニトラルの全身に激痛が走る
「愛グギャアアアア?」
リヤが復唱する。
「どうじゃ?ニトラル。大事な事を思い出したかの?おまえが愛してるのは誰じゃ?」
「わ、儂が愛してるのはネタギ……グギャアアアア!!」
「大丈夫かの?ニトラル 」
「はぁ、はぁ。死ぬかと思ったわい……」
ニトラルの目に光が戻った。
「ニトラル!!」
「ニトラルさん!!」
ナイトとリヤが駆け寄る。
「妾の魅了から逃れるなんて、どういう事かしら?」
ニトラルの元に向かうネタギーレンをナレジンが遮る。「貴様の相手は儂じゃ。儂には貴様の魅了は効かんぞい 」
「ふふふ、男性である限り妾の魅了からは逃れられないのよ、跪け!魅了!」
「ふふふ、効かぬのう 」
「あなた!……まさかお婆さん!!」
「違うわ!!こんな長いあごひげのお婆さんがどこにおる。当てて見るがいい 」
ガタッ!!
エタールが立ち上がる。
「……わかったぞ……余の目はごまかせぬ……」
エタールがニヤリと笑った。
「おぉーっ、さすがエタール様〜」
「……貴様は、身体は男、心は女……八賢者ナレジンだな……」
「違うわい!!」
ナレジンとネタギーレン達が対峙する中、ナイト達は周りに聞こえないように小声で話しあう。
「ニトラル、大丈夫なのか?」
「あぁ、大丈夫じゃ」
「でも、どうやって魅了を解いたの?」
ニトラルは左手の結婚指輪を見せる。
「これは?」
「結婚指輪じゃが、不倫防止機能付きみたいじゃの。死ぬかと思ったわい 」
「あら、良いわね 」
「……」
「……」
「まぁ、おかげで正気に戻れたわい。リヤ、回復を頼むわい 」
「わかったでござる!!」
手を上げるケンマロ。
皆がケンマロに注目する。
「ご老人、お主は拙者と同じでござる……」
「……どういう事だ……」
首を傾げるエタール。
「拙者は剣のみに生きる屍。愛を捨て、心も捨て、涙も枯れ果ててござる。ご老人、お主も感情を捨てた生きる屍でごさるな 」
「違うわい。というか、お主、先程まで楽しそうに肩を組んで歌っていたではないか 」
皆がケンマロに注目する。
「『愛してね〜』とか歌っておらんかったか?こんな楽しそうな屍は見た事が無かったわい 」
「……」
ケンマロは沈黙した。
「お待ちなさい、もっとお爺さん。あなたは嘘をついているわね 」
ネタギーレンが前に出る。
「はっ!!」
ケンマロに生気が戻る。
「ケンマロちゃんが楽しそうに歌っていたのは事実よ。でも貴方は下の階の部屋に居たはずよね。見たのは嘘ね 」
「切れる奴もおるようじゃな……あまり教えたくは無いのじゃが……嘘つき呼ばわりされても困るしの。窓の外を見てみるんじゃ 」
「窓の外?」
皆の視線が窓の外に集まる。
窓の外を見ると、遠くに鳥のような物が見える。
「ん?鳥さんでござ〜るか?」
「儂の使い魔の梟のフー君じゃ。儂はフー君の目を通じて……」
ナレジンはケンマロの方を向く。皆の視線がケンマロに集まった。
「肩を組んで『愛してね〜』とか楽しそうに歌う骸骨を見ておったのじゃ。フー君もビックリしておったぞい 」
「……」
ケンマロは再び沈黙した。
「なぁ、ニトラル。俺達は加勢しなくていいのか?」
「これを見るんじゃ 」
ニトラルは左手を前に出す。
「真っ黒な紙ね 」
「そうじゃ、これは魔法の手紙じゃ。さっきナレジン殿から受け取ったんじゃ 」
「何も書いて無いぞ 」
「こうするんじゃ 」
ニトラルはパクパクと食べてしまった。
「どういう事?」
「大量の情報を食べる事によって一気に伝達する事が出来るんじゃ……」
「どうだ?ニトラル 」
「どうなの 」
「ち、中央平原の主力は、ミズカルノズの大蛇の召喚によって壊滅。ミズカルノズの大蛇は西進し人族の領域に向かう模様。騎士王様達は人族の領域を守る為に撤退。儂らを連れ戻す為にナレジン殿が来たんじゃわい 」
「急いで戻らないとみんなが危ないわ 」
「そうだな。リヤの結界魔法が必要だろう 」
「待つんじゃ、こちらの白い手紙に情報を送信していくわい 」
白い紙が黒く染まっていく。
「これは?」
「儂らの得た情報をこの手紙に詰め込んだんじゃ。これをナレジン殿に食べてもらう。その後で最善手を考えるので、ナイト、リヤ時間を稼いでくれるかの?」
「任せておけ 」
「わかったわ 」
「ドーシャもケンマロちゃんは感情豊かだと思うでござ〜る 」
「そうね。ケンマロちゃんは寂しがり屋だし、キュードラ伯父さんに嫉妬してるし……凄く感情が豊かだと思うわ 」
「ご、誤解でござる。せ、拙者の本質は空虚な抜け殻、屍でござるよ。感情など微塵も残ってござらぬ。99%骨でござるよ 」
「ケンマロちゃんは思い付きで格好良さそうな事を言ってるだけ、だと思うでござ〜る 」
「失敬でござる。拙者は屍。また流離うでござるよ 」
「残りの1%は何なんだい?」
ナイトとリヤがケンマロ論争に参戦した。




