100年前の大戦編8 魅了
「な、何故、こんな事に……」
呆然と立ち尽くすキュードラ。
「こんなところで俺達の隠し芸が役に立つとはな」
しみじみと呟くナイト。
「忘年会用の声真似芸。練習いっぱいしたからね」
満足そうなリヤ。
獅子王を唖然として見つめるケンマロ……
「あらら、キュードラ伯父さん。後で獅子王ちゃんに絞められるわね」
「あれを食らって生きておるのかの?」
ニトラルは倒れた獅子王を指差す。
獅子王はピクリとも動かない。
「大丈夫よ。回復魔法でダメならリセマラしてもらえばいいんだもの。さすがに獅子王ちゃんは失えないわ」
「厄介な能力じゃな……」
「そうね。だから降伏してもらえないかしら。全ては無駄な抵抗なのよ」
「そうも、いかんのでのう。儂達が大魔王を倒すのを皆が待ち望んでいるんじゃ」
「そう、残念ね。でも貴方は私の魅了に逆らえないわ。抵抗力がありそうなので、じっくり時間をかけたのだから」
「なんじゃと!!」
「妾が無駄なお喋りなんてするわけないじゃない。貴方は既に妾の虜。妾の魅力にひれ伏しなさい。
魅了!!」
「なっ!!!!!」
「ニトラル!!」
「ニトラルさん!!」
「う〜ん……」
「大丈夫か!!」
ナイトがニトラルに駆け寄る。
「爆雷!!」
ニトラルの魔法がナイトに炸裂した。
ズガガーン!!
ナイトが吹っ飛ばされる。
「大魔王様に逆らう者には死を……」
目から光を失ったニトラル。
「ナイト!!」
ナイトの回復に向かうリヤ。
「オーッホッホッ!!妾のチャームは世界一!!さぁニトラルよ、妾を褒めたたえなさい!!」
「ネタギーレン様は世界一お美しい……ネタギーレン様はセクシー……ネタギーレン様はビューティ……」
「ニトラルさん!!目を覚まして!!」
ナイトを回復しながらニトラルに声をかけるリヤ。
唖然とし続けているケンマロ。
「無駄よ!無駄!妾の魅了にかかったら二度と抜け出せはしないわ。おじいさん無しでは欠片も勝ち目はないわよ」
勝負が着いたと見たドーシャはエタールに懇願する。
「エタール様〜。勇者達に宴会芸でも負けてない所を見せたいでごさ〜る」
「……良かろう、ドーシャ。大魔王軍 自慢のアレをみせてやるが良い……」
「はっ」
ドーシャは頭を下げた。
そして前に出た。
「愛〜それはLOVE〜」
ドーシャはグルグル回りながら歌いだした。そしてグルグルを止めてキュードラを指差す。
「愛〜それは永遠〜」
受け止めたキュードラは大きく手を広げて、ケンマロに向ける。
「骨になるまで愛してね〜」
ケンマロがサビを歌い上げる。
「愛〜、一途な愛〜」
ドーシャがグルグル回りながら2番を始める。
「愛〜、それは夢〜」
キュードラは天井から伸びたロープに掴まって、獅子王の所まで飛んで行く。
「…………」
獅子王はピクリともしない。
「死んでもあの世で、愛してね〜」
代わりにキュードラがサビを歌う。
「キュードラは酷いな……」
「そうね」
「骨になるまで、愛してね〜」
サビを繰り返し熱唱するキュードラに、ケンマロとドーシャが駆け寄って肩を組む。
「あ、い、し、て、ね〜〜〜」
3人で肩を組んで熱唱する。
「え、い、え、ん、に〜〜〜」
3人は右に傾く。
「あ、い、し、て、ね〜〜〜」
直立に戻る。
「え、い、え、ん、に〜〜〜」
左に傾く。
「あ、い、し、て、ね〜〜〜」
3人は直立して熱唱する。
「あれ、これはいつ終わるんだ?」
「少しウザいわね」
「あ、い、し、て、ね〜〜〜」
3人で肩を組んで左右に細かく揺れながら、ナイトとリヤを見つめながら熱唱する。
「なんか見てるわよ」
「どうすればいいんだ?」
「……拍手だ……」
エタールがボソッと呟く。
「あ、い、し、て、ね〜〜〜」
3人で肩を組んで左右に揺れながら、ナイトとリヤを見つめながら熱唱する。
パチパチパチパチ
とりあえず拍手するナイトとリヤ。
一礼し、手を上げて拍手に応える3人。
「どうですかな?吾輩の歌声は……」
感想を求めて近寄って来るキュードラ。
「紅炎」
床をぶち抜き舞い上がった真紅の炎が、キュードラを燃やし弾き飛ばす。
床に空いた穴から老人が浮いて来る。
「八賢者が一人、知の賢者ナレジン。参る。」