100年前の大戦編5 四天王
「大蛇の頭は人族領土の反対側を向いております。まだ時間が有ります。大蛇が我々の領土に来る前に先に戻りましょう」リアムが前に出て提案する。
「うむ。伝令チームは各部隊への撤退指示の伝達を頼む。全滅を避ける為にルートは各部隊に任せる。生き残る事を最優先にせよ」
「はっ!」
十数人の伝令担当者が散らばって行った。
「後はナイト達にどう伝達をするか……」
「領土防衛の為に3人の力は必要です。特にリヤの結界魔法が必要になるかも知れませぬ」メガネの位置を直しながら従者が発言する。
「儂が行こう。儂なら飛べるので時間はそうは掛からぬ。着いたら3人を魔法で転移させれば良い」
ナレジンが前に出る。
「大魔王を倒せば、大蛇は元の世界に戻るのでは無いでしょうか?」ウィッテがおずおずと発言した。
「ウィッテよ。最優先すべきは人々を守る事だ。エタールを倒す事で解決する可能性が無いわけでは無いが、不確定な推測に賭けるには時間が無いし、リスクが大きすぎる」
リアムはウィッテを見つめる。
「私が死んだらエルフや人族を守るのはおまえの役目になる。どんな厳しい状況下でも絶望せずに、少しでも確率の高い手を一つずつ確実に積み重ねて行くんだ。忘れないでくれ 」
「はい、兄上様」
ウィッテは強く頷く。
「よし、では儂は大魔王城に向かうとしよう。エタールを倒せそうなら倒してしまうわい。騎士王殿、みんな、大蛇は任せたからの 」
「うむ、こちらは任せておけ。ナレジン殿。3人を頼んだぞ 」
「わかったわい。ではさらばじゃ 」
ナレジンは空高く浮かび上がり大魔王城の方に飛んで行った。
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「……余は、余は満足じゃ……、余は本当に満足じゃ……」歓喜の涙を流しながら、ナイトと剣をかわすエタール。
ガチン!!
ガチン!!
ズバッ!!
ナイトの剣がエタールの左肩を切り裂く。
「エタール様〜、涙を流しながらだと負けてしまいます〜」リヤとニトラルに押され気味のドーシャ。
「……儂はもう飽きた……もうバトルポイントもいらぬ……四天王を呼べ……」
「はい〜!!四天王の皆さ〜ん、お出番で〜す!!」
ドーシャが目を輝かせて大声を出した。
バンッ!!
大魔王の間の扉が開いて、4人の魔族が入って来る。
巨大なワーライオンが前に出た。
「俺は四天王筆頭の獅子王。大魔王様に逆らう奴には死んでもらう 」獅子王は大きな牙を剥き出しにして告げる。
右横から妙齢の美しい女性が出てくる。
「妾は西部総督ネタギーレン、吸血姫よ。可哀想だけど死んでもらうわ 」
更に横から二本の刀を持ったスケルトンが現れる。
「拙者はケンマロ。剣の道を究めんとして幾百年。大魔王様の力により頂いた永遠の命。報恩の為に死んでもらう 」
更に横から青白い顔の男が出てくる。
「吾輩はキュードラ伯爵である。大魔王軍の総参謀長を任されておる。大魔王軍随一の知将とは何を隠そう吾輩の事よ。恐れおののくが良い 」
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セントラル中央平原北東部 上空
「さぁ、大蛇はん。美味しい美味しい生イカやで」暗黒竜ブラドラとブラドラ編隊は、ミズガルノズの大蛇の遥か上空を旋回していた。
「隊長。こんなんでホンマに釣れるんでっか?」
部下の一人が語りかけてくる。
「当たり前や、あの大きさの蛇なんやで。小さな獲物じゃ満足できんやろ。10m級の生イカやで。痺れるブレスで痺れておるが、生イカや 」
「キュードラ伯爵の作戦と聞いたのですが、大丈夫なのですか?」
「ワイも味方の犠牲が前提の作戦なんて嫌やで。ただそのまんまにしといたら、どっちみち全滅や 」
「キュードラ伯爵の作戦は失敗続きと聞いたのですが……大丈夫なのでしょうか?」
「ワイもそこは心配やけど、大魔王はんの裁可を得た作戦やから大丈夫やろ。作戦を成功させてお宝がっぽり頂くんや 」
「しかし食いつきが悪いですな。もうちょっと高度を下げませんか?」
「駄目や!!安全第一や。ワイ達も十数メートル級やけど、あの大蛇は数千メートル級や。二桁違うんや。油断すると命に関わるで 」
ブラドラ編隊はグルグルと上空を旋回し続けた。
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騎士王達は戦場を離脱し、人族の領土を目指して西へ西へ向かっていた。
「騎士王殿!!」
ドワーフの一団の中から一際大きな男が向かって来る。
「ドワーフ王殿、無事だったか!!」
「俺は無事だったが、部下の半数は戦場で倒れた。残りの半数もボロボロだ。それでも生きているだけましだな。あんな怪物が出てくるとはな 」
「全てを喰らい尽くす蛇、ミズガルノズの大蛇というらしい。我々の被害も甚大でな。一刻も早く領土に戻って防衛線を整えねばならん 」
「俺はオリハルコン鉱山の地底国家に戻る。流石にあの大きさでは地底には潜れまい 」
「そうか。お互いにこれからが大変じゃな 」
「あぁ、死ぬなよ。騎士王。そなたはこの大陸に生きる者達の希望なのだ。生き延びて次の世代に希望を繋がねばならぬ 」