100年前の大戦編4 ミズガルノズの大蛇
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
それは上空の扉を破壊し現れた。雷が鳴り響き、空が黒く染まる。
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
端から端までの長さは見渡せず、胴回りだけでも50mはあろうかと思われる大蛇。
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーン!!!!!!!!
落下し大地が大きく揺れる。
ミズガルノズの大蛇が顕現した。
その大蛇は戦場のど真ん中を端から端まで突き破るかの様に現れた。その落下地点にいた者は全て圧殺された。周囲にいた者は吹き飛ばされた。
両軍は戦闘を停止して、計り知れない巨大な蛇を見守った。誰も動く事も話す事も出来なかった。
そして巨大な蛇はゆっくりと目を開き、ゆっくりと鎌首を持ち上げた。その前にいたのは戦場の東端にいたリザートマンの中隊である。
「こ、この巨大な蛇は、エ、エタール様の呼び出した物か……」
一際大きなリザートマンが呟く。
「た、隊長。ならば大魔王軍の勝利は間違い無いですね」
「そ、そうだな。ワッハッハ、我々の勝利だ」
「ワッハッハ」
シュルン!!
大きく開いた口から巨大な舌が飛び出して、50人規模の中隊を飲み込んだ。
人族も魔族も魔物も、その場にいた者は全て理解した。ここに居たら食われると……
「撤退だ!!」
「総員、退避!!」
周囲の隊長が撤退の指示を出す。
その場に居た全員が蜘蛛の子を散らすように逃げだした。
ミズガルノズの大蛇は、眼を左右に動かして様子を伺う。そして身体を震わせる。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
その身震いは地面に数百メートルの痕跡を残し、数千の兵士を弾き飛ばした。
騎士王は大蛇の中腹から少し離れた場所にいた。剣を上段に構えて闘気を込める。
「破壊せよ!!剛剣 断破斬!!」
ズガガガガガガガガガガ!!!!
強力な斬撃が蛇の中腹に突き刺さり煙を上げる。
「駄目か、傷一つ着けられんとは……」
「騎士王殿!!」
白い長い髯を伸ばした老人が騎士王の前に現れる。
「おぉ、知の賢者 ナレジン殿か」
「遅れて済まぬ。敵の黒魔術師部隊と戦っておったのじゃが、奴らも逃げ出したので、こちらに向かえた」
「構わぬ。それで、この大蛇は?」
「この大蛇はミズガルノズの大蛇じゃ。」
「ミズガルノズの大蛇?」
「そうじゃ。いくつもの世界を滅ぼしてきたとされる神話の世界の魔物。全てを喰らい尽くす蛇じゃ。
ある世界は三日三晩で全てを食いつくされたそうじゃ」
「敵味方見境い無く食っているようだが、どういう事じゃ」
「ミズガルノズの大蛇の巨体を顕現させ続けるには、膨大なエネルギーと魔力が必要じゃ。故に奴は全てを喰らい尽くそうとするのじゃ」
「エネルギーと魔力が尽きれば、元の世界に帰るのかの?」
「可能性はあるわい。エネルギーと魔力が尽きるまで戦いを引き伸ばせば……世界は生き延びる事が出来るかも知れぬ」
「もう一つ聞きたい、どうやって倒せば良い?」
「わからぬ。かつてダメージを受けた事があるのかすらわからぬのじゃ。」
「騎士王様、ナレジン様。目、目なら硬い外皮も無いのではありませぬか?」
若いエルフのウィッテが前に出てくる。
「一般的には蛇の目は透明な鱗で覆われておるんじゃが……」
「顔には目もピット器官もあります。どうでしょうか?」エルフの長リアムが賛意を示す。
「しかし顔を狙うという事は、大蛇の視界に入るという事じゃ。非常に危険じゃ」
ナレジンは顔を顰める。
「しかし、大魔王も敵味方関係無しの怪物を召喚して、どうするつもりなのでしょうか?」
メガネの従者が疑問を呈した時だった。騎士王一行の周囲が暗くなった。上空を巨大な何かが通り過ぎて影が出来たのだ。
「あ、暗黒竜ブラドラ!!」
ウィッテが飛び去って行くブラドラを指差す。
ブラドラを先頭に、10匹の暗黒竜が編隊飛行をしている。左右に何か大きな白い物を吊り下げていた。
「あれは何じゃ?……千里眼」
ナレジンは千里眼を唱えて暗黒竜達を確認する。そしてエタールの作戦を理解した。
「ナレジン殿、あれはいったい?」
メガネの従者が聞いてくる。
「ブ、ブラドラどもは、水陸両生クラーケンを餌にして、人族の領土に大蛇を引き込むつもりじゃ!!」