異世界転移 帰還編2
「アーダ君!!」
博士や助手達から悲鳴が上がる。
アーダ君はダラダラと血を流している。
「やはり、こいつは危険だ」
テッドは再び剣を構えながら、モースキ君たちに近づいて行く。
違うんや、悪気は無かったんや!まさかこんな事になるなんて。
「€^々」○<☆」
口吻を抜いて、必死に謝るワイの前にテッドはんが立つ。
「ダ……ダメです。モ、モースキ君を殺させるわけにはいかない……」アーダはんは血塗れの身体でワイを守るようにしがみつく。
「テッドさん!アーダさんが」
ココはんが注意を促した。
「大丈夫だ。アーダ君には当てない」
テッドはんが剣を高く掲げる。
「すまん、モースキ君!!」
そして剣を振り下ろした……
・
・
・
んんん? あれ、ワイ死んでない。ワイの目の前には二人の男達が立っておった。
「アーダ君の大切なモースキ君を殺させるわけにはいきません」メガネをかけたひょろ長い助手が、震えながら発言する。
「コーディ君!!」博士はんが人物紹介のように名を呼ぶ。コーディはんはいい奴や。
「モースキ君は貴重な実験材料。殺すというなら、私を倒してからにして下さい。」フラスコを持った小太りの男が前に出た。
「ドーナン君!!」博士はんが再び名前を教えてくれる。ドーナンはんはテッドはんと戦う気満々にみえるで。フラスコをフリフリしておるんや。
ワイ、ワイは助手さん達に愛されとるんや。新マスコットキャラのモースキ君の爆誕やで。
「テッドさん、無理はしない方が……」
「そうね、無理しちゃダメね」
ココはんとミーネはんも味方してくれる。
「わかった。」
テッドはんが諦めたかのように、目を閉じた。
助かった。とりあえずは助かったんや。元に戻る方法は後から考えればええ。今は新マスコットキャラとして生き残る事が先決や。ワイ (ウルフン) もホワイティはんもいないこの世界で、モースキ君が頑張るしかないんや!!
「*→¥%○+<」
「……なんか、耳障りですな」
ドーナン君がフラスコを振りながら困った顔をした。
「そーだ。口吻を切ってみてはどうでしょう。そのくらいなら命に別状は無いはずです。やはり、その鋭い口吻は危険です。」コーディ君が震えながら発言する。
「〒^<%¥$☆」
ワイはトカゲやないんやで、これは尻尾とちがうん
や!!
「モースキ君、ごめんよ。君を危険なままでは飼ってられないんだ」
アーダ君は涙を流しながら謝る。
テッドはんが再びワイの前に立った。
「すまない、モースキ君。ココさん、切り終わったらすぐに2人の傷口の手当てを頼む」
テッドは剣を高く振りかざす。
もうダメや、ワイの大事な口吻が切られてしまう。口吻の無い蚊なんて、蚊やない。ハエみたいなもんや、ハエみたいなもんなんや……みんなのアイドル モースキ君は、もう終いなんや……
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
突然、四角い機械から警告音が発生した。
博士が機械に駆け寄って画面を確認する。
「テッドさん、口吻切りは中止だ。向こうの世界の私から連絡があった。モースキ君が居るなら返して欲しいとの事だ」
「博士、どういう事ですか?」ココはんが不思議そうな顔で質問する。
「ウルフン君の転移にモースキ君が付いて来た見たいなんだ。それで合体して巨大化してしまった。」
「これ!ウルフンさんなの???」
ミーネはんが目を見開いてワイを見る。
「そうだ。色がウルフン君っぽいだろう」
「色だけじゃない!!」
「まぁ、まぁ。ミーネさんも落ちついて。それで博士、どうすれば元に戻るのですか?」
ココはんが話しを戻す。
「向こうの私が魔法プログラムを修正してくれたらしい。向こうに送り返せば元に戻る。その後でウルフン君だけ、こちらに来てもらえばいい」
・
・
・
1時間後
「はぁ、一時はどうなる事かと思ったで」
「すまない、ウルフン。君の大事な口を切り落とすところだった」テッドは深々と頭を下げる。
「そうや!危うくハエみたいになるところやったんやで!みんなのアイドル モースキ君がハエ男や!!」
するとモースキ君を囲んでワイワイやっていた助手達が、ワイ達の方に注目する。
「そーですよ!テッドさん。僕らの大事なモースキ君に謝って下さい」
アーダ君が怒りの声を上げて、拳を振り上げる。
「モースキ君がどんな怖い思いをした事か……」
コーディ君は震えながら呟く。
「立派な犯罪ですな」
ドーナン君はフラスコを振りながら断言する。
あれ、モースキ君。ワイより人気あるで……
「すまない、モースキ君」
テッドはモースキ君に深々と頭を下げた。
ふぃ〜ん
モースキ君はテッドの頰に止まると、吸血を始めた。
「おぉ!これは仲直りのキス」
ドーナン君がフラスコを振る手を止めて、頰を赤く染める。
「羨ましいですな……」
コーディ君は震えながら熱い眼差しで見守る。
「わかりました。モースキ君が許すと言うのなら許しましょう」アーダ君は拳を下ろした。
「ありがとう。みんな」
テッドはホッとする。
あ、あれ、ワ、ワイの意見は?
パンッ
ココが軽く手を叩いて注目を集める。
「話はつきましたね。それでは助手のみなさん、今後は放し飼いはしないで下さいね。」
「は〜い」
助手達が返事をする。
まぁ、ええ。これで一件落着や。