テッドorアライブ
王様は悩んでいた。
魔族の襲撃で王国の財政は火の車だ。魔族に対応する為の軍の活動にも金がかかる。
先月は穀倉地帯にドラゴンが現れて、大量の小麦を焼き払われてしまった。
一軍を派遣してなんとか追い返したが、大勢の兵士が怪我をしたり、亡くなってしまった。戦傷者や戦死者遺族に対する援護金が必要だ。
モンスター達の活動の活発化に反比例するように、経済活動は停滞の一途を辿っている。物資の輸送にも傭兵を雇わないといけない現状では、商売が盛んになるわけもない。
無い所から税金を取るにも限度がある。
金が無いのじゃ……
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季節は冬。吐く息も白くなる中で、少年は街の市場に向かって駆け続けていた。急がなくては、僕達の村から巣立った勇者パーティの株式が売り切れてしまう。
顔を上げて遠くを見てみると、見知った顔の男がこちらに向かって来ていた。
「よぉ 坊主。 そんなに急いでどうしたんだい 」
背の高い髭面。馴染みの八百屋さんが声をかけてきた。怖そうな顔だか優しい人だ。寂れた僕達の村のわずかな収入源である野菜を買い取ってくれる。
「こんにちは。 今日はうちの村の英雄テッドとアライブが立ち上げた勇者パーティの新規上場の日なんですよ 」
「おー そう言えば奴らレベル20に到達したのか 」
「そうなんですよ。うちの村からレベル20に到達するなんて、かつてない偉業だって、みんなでお金を出し合って、僕が株券を買いに行く所なんです 」
「おー そうか。 そう言えば市場の方が、えらい混雑してたって聞いたな 」
「そんな大人気なんて、急がないと 」
「それで残念だが坊主……」
「急ぐんで、また今度お願いします 」
僕は最後の力を振り絞って大急ぎで駆け出した。
「あーあ、慌てて行っちまった。 ショックを受けなきゃいいんだが……」
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町役場の隣にある立派な建物。これがこの町の株式市場だ。僕はやっと建物の前まで辿りついた。
シーンとして人のざわめきが感じられない。
「確か、販売所は2階の一番奥の部屋だって言われたっけ」
僕は階段を上がり2階の一番奥の部屋に向かった。 誰ともすれ違わない。やっぱり売り切れて終わっちゃったのか。
僕が焼き芋なんて立ち食いしなければ……
みんなの希望を背負って来たのに……
テッドとアライブを応援したかったのに……
なんか泣けてきた……
いつのまにか一番奥の部屋の前まで来ていた。僕は滲んだ目を腕で拭いて部屋の中に入った。
部屋の真ん中には大きなテーブルがあり、1人の老人がテーブルの向こうの椅子に座って、頬杖をついて目を閉じていた。
眠っているのかな?
僕は勇気を出して声を掛ける事にした。
「もしもし……」
返事が無い。
仕方がない。テッドさんから教えてもらった技を使うしか無い……女性には使っちゃダメだって言われたけど、お爺さんだから……大丈夫だ、きっと。
フ〜ッ……
耳元に息を吹きかける。
「ひいいぃ……」
お爺さんは奇声を上げる。
「なんなんじゃ小僧。セクハラじゃぞ!!」
「ご、ごめんなさいお爺さん。僕は株式を買いに来ただけなんだけど……」
「なんじゃなんじゃ、お客様じゃったか。じゃったら早く言うんじゃわい。 それでどのパーティの株券が欲しいんじゃわい?」
僕は胸を張って答える。
「僕達、マイナー村の英雄テッドとアライブが立ち上げた勇者パーティの……」
「待つんじゃ小僧。まさかデッドorアライブならぬテッドorアライブなんて言うダジャレみたいなパーティに投資をするつもりなんじゃのか?」
「そうだよ。彼らはマイナー村で初めてのレベル20到達者。英雄なんだ!!」
「小僧、お主はテッドorアライブのパーティ構成を知っておるのかの?」
「うーんと、タンク役の戦士テッドとスピード自慢の盗賊のアライブと……モブ2人?」
「うーん、ある意味正解じゃわい。戦士テッドと盗賊アライブと残り2名も盗賊じゃそうじゃ。戦死テッドを犠牲に盗賊3名が生き延びるんじゃないかとか……」
「ないかとか?」
「ただの盗賊団と護衛じゃないかとの話で持ちきりじゃわい」
なんて酷い事を言うんだ。僕は怒りが湧いてきた!!
「お爺さんはテッドとアライブの何を知っているというのさ!! 僕は彼らを知っている!! 強くて優しい二人を知っているんだ!!」
「小僧、勇者株式のシステムを知っているのかの? 全滅したら価値が無くなって紙切れになってしまうんじゃぞ!!」
「でもダンジョンでお宝を発見したり、モンスターを倒して素材をゲットしたりしたら配当( 分け前 )が貰えるんでしょう。盗賊なんて最高じゃないか!!」
「ぐぬぬ……」
「しかもパーティ構成が悪いので、株価が異常に安いんだって。株価100倍、株価1000倍も夢じゃないんだって、みんな言ってたよ 」
「確かにのぅ、今日同時に新規上場した勇者パーティのもう1つは、大人気でストップ高じゃわい 」
「もう1つ? 」
「城塞都市出身の5人組パーフェクトオーダーじゃ 」
「そんなに凄いの?」
「そうじゃ、パーフェクトオーダーは、今まで受けた依頼を全部完璧にこなしているとの話じゃ。
しかもレベル20に到達して、新規上場の申請をして、今日までの一月で更にレベルを上げて、既に30に到達しておる 」
お爺さんは嬉しそうに語っている。
「魔王討伐を果たすのは彼らだと、もっぱらの噂じゃ。ワシもそう信じておるわい 」
「お爺さん……もしかして? 」
「察しがいいな小僧。儂はパーフェクトオーダーの株をゲットしておる。遠からず大金持ちじゃわい 」
「テッドorアライブは?」
「持っておらん」
僕は少し嬉しくなった。お爺さんは何もわかってはいない。
「安値買いこそ株の真理さ。お爺さん、僕にテッドorアライブの株式を売って下さい 」
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僕はついにテッドorアライブの株式をゲットした。
テッドorアライブの株式は、初値が1株が100万Gだったのが、あまりに人気が無くて、ストップ安で50万Gまで値下がりしたらしい。
半額になったので1株購入の予定が、2株購入出来た。株価が上昇すれば儲けは2倍だ。
伝説の投資家の第一歩だ。焼き芋を頬張りながら、僕は家路を急いだ。