無限迷宮編4
「謎の怪人が突然中層階に現れて、異様な臭いをばら撒いて誰も近づけないのだよ。
既に汚染により放棄したフロアは8つ。死をも恐れぬ決死隊が排除に向かったのだが、近づく事も出来ずに撤退してしまった。」
「……」
「……」
「……」
「このダンジョンは汚染フロアによって完全に分断されてしまった。上層階の者は入口から脱出出来るが、下層階の者達は完全に取り残されている上に、臭いが急速に広がっているらしくて大パニックになっているらしい。」
誰も一言も口を挟まない、いや挟めない。
「無限迷宮と恐れられたこの迷宮が、まさか謎の怪人によって歴史を終える事になろうとはね。私も予想だにしていなかったよ。
私の階層主の間も放棄フロアになってしまったので、他のダンジョンに引っ越しするべく入口に向かっているところだったんだ。」
「デュラハンはん。このダンジョンは大魔王軍に属しない中立派のダンジョンだったけど、他のダンジョンは大体が大魔王軍系列になっているみたいやで。」
「生きにくい世の中になったものだね。誰にも縛られない生き方を望んでいたのだがね。
ところで皆さんは何をしてらっしゃるのですか?」
「そうや。ワイらはテッ…」ウルフンの肩が引っ張られて発言が止まる。アライブがウルフンを後ろに下げて発言する。
「僕らは謎の怪人の退治、いや捕獲に来たんだ。か、怪人は今、どこら辺にいるんだろうか?」
「怪人は水場から水場へ移動しながら、上層階を目指しているようだ。おそらく50階辺りだと思われるが。
なんなら案内しようかね。」
「いや、怪人はかなり危険なので、我々テッドorアライブだけで向かいます。」
「ならお鼻のデリケートなワイも待ってい…」
「ウルフンはテッドorアライブの一員だからね…」アライブが刺すような目線でウルフンを牽制する。
えーっ、て顔をするウルフン。
「ウルフンさんが居ないテッドorアライブなんて、リーダーの居ないテッドorアライブみたいな物ですからね。」モビーが追従する。
「そういえば英雄テッドが見当たらないが…」デュラハンは怪訝な顔をする。
「リーダーは既に怪人の元に向かっています。我々はウルフン副リーダーと、別ルートから怪人を挟み打ちにする計画です。」ブービーが話しを作る。
「そうだったのか。わかりました。ではこれをお持ち下さい。」デュラハンはそう言って4枚のマスクを前に出した。
「そのマスクは?」アライブが尋ねる。
「このマスクは上層階の主であるリッチのジミーが、魔力を込めて作った安眠マスクです。臭くても眠れるように、臭いを90%カットする優れ物です。
ただ、このマスクを持ってしても怪人には近づく事すら出来なかったので、お役に立つかどうか…」
「そんな事はあらへん。さすがジミーはんや。みんな、全て終わったら感謝の気持ちを込めて、ジミーはんにハムギフトを届けに行こうや。」
「おう!!」3人が同意する。
「行くで!!」ノリノリになったウルフンを先頭に、マスクを着けた4人はダンジョンを下っていった。
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「これで終わりか…」
テッドは、ついにその時が来たのを知った。5本もあった香水が遂に尽きてしまったのだ。
フローラル系、シトラス系、ハーバル系、ウッディ系、オリエンタル系と揃えて来たのだが、途中から匂いの違いがわからなくなってしまった。
いつの間にか敵と遭遇しなくなったので、ブリーフワンは魔力節約の為に休止モードにして、灯に関しては落ちていた魔法電灯を使っている。
「ん?」足音が聞こえる。ここ数日はモンスターとも遭遇せずに静まり返っていた中でドドドと走って来る足音が聞こえる。
ドドドドドドドド…
待ち構えていると、青いワーウルフが涙を流しながら、こちらに襲いかかって来る。
「泣きながら攻撃して来るって何なんだ…」
ろくに食事はしていないので、身体は重いが1匹だけならなんとでもなる…俺は片足立ちをして、ゆっくりと両腕を斜めに上げる。
「あかーん!!お鼻があかーん!!」ワーウルフが叫びながら近づいて来る。
「くっ」体調不良で片足立ちはきつい。バランスが崩れる。
バチーン!!ワーウルフはその隙を逃さずに、俺をビンタでしばいた。
体力のほとんど残っていない俺には、その一撃に耐える体力は残っていなかった。俺は崩れゆく意識の中で仲間達の「リーダー!!」と言う声を聞いて…意識を失った。
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「ん、ここは…」俺は病院のベッドで目が覚めた。窓の外は薄っすらと明るくなっている。どうやら早朝のようだ。アライブやモビー、ブービーは椅子に座って寝息を立てていた。
俺はベッドから半身を起こす。そこで部屋の中にもう一人居たのに気がついた。
「起きはったか?テッドはん。」青い毛のワーウルフが話しかけて来た。
「君は?」
「ワイか? ワイはテッドorアライブ featウルフンのウルフンっちゅーもんや」
「はい?」
「テッド orアライブ feat ウルフンのウルフンや 。宜しく頼むわ。テッドはん。」
ちょっと待って。なんか目の前のワーウルフがわけのわからない事を言っていると思っていると、アライブが目を覚ました。
「良かった。リーダー、目を覚ましたんだね。」
「あぁ、だけど何か、まだ夢の中みたいだ。featナンチャラって狼男さんが言っているんですけど。」
「featナンチャラ? そうかウルフンの事か。ウルフンはリーダーの命の恩人だよ。ウルフンがいなければ、リーダーは無限迷宮で亡くなっていたと思う。」
「そうか。ありがとうウルフンさん。」俺は礼を言って頭を深く下げる。
ウルフンは手を前で振る。
「いや、いや、気にせんでええって。ワイもテッドorアライブ feat ウルフンの一員や。当然の事をしたまでや。」
「そうなの???」俺はアライブを見る。
「そうなんだ。ウルフンはテッドorアライブの一員なんだけど、行商との掛け持ちだから滅多には参加出来ないんだ。だから参加する時は feat ウルフンとしてリーダー待遇でお願いするんだ。」
「そうなんや。ワイはお願いされて参加するからfeatなんや。withや無い。featなんや。大物ミュージシャンみたいなもんや」
「それって大丈夫なの?王様連盟的にも。」
「メガネ君の特別許可が出たから大丈夫らしいよ。あと特別に真紅のドラゴンラブジャケットをプレゼントされたよ。」
「そうなんや。ワイの青い身体に真紅のジャケットが映えるんや。この真ん丸お目々と合わさって、みんなのアイドル的なマスコットキャラ枠に入るんや。
ワイは男や、ヒロイン枠や無いんやで。」
ウルフン、君は喋りは良いけど、顔はモロに狼で怖いんやで。と思うテッドとアライブであった。