無限迷宮編2
「ところで、テッドはんに何が起きたんでっか?」先頭を進むウルフンが聞いてきた。
「それは……アライブは当時の出来事の説明を始めた。
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「ここはボスの部屋なのか?」テッドは部屋を見渡して疑問の声を上げた。大広間の奥の壇上にはグランドピアノがあり、トロンボーンや竪琴などの立派な楽器が複数置いてあった。
「まるで楽団のステージ見たいですね 」ブービーは目を輝かせながら楽器を調べている。
ギィイ……
すると横の扉が一人でにかってに開いた。僕達は引き込まれるように入って行った。
部屋の中には、アンデット化した高位のマジシャン リッチが待っていた。リッチは光を失った目を向けて言い放つ。「我が静謐の邪魔をする者め、永き眠りを! ダークネス クラウド!!」
リッチの指先から漆黒の闇が湧き出してくる。
「なんかヤバイ!!ブービー頼む!!」テッドがブービーに指示を出す。ブービーは口から黄色の閃光を吐きだす。
ジャワっ !!
黄色い閃光が漆黒の闇を切り裂くと、闇は雲散霧消した。
「何……」地味に驚くリッチ。
「今だ!!くらえ 新必殺技 」テッドが剣を水平に構える。迅雷を発動し剣に纏ったテッドは高速でリッチに接近する。
「迅雷剣 極みX!!」
胴体に、高速の2連撃を刻まれたリッチは、胴体にXの傷跡を残して倒れこんだ。
「リーダー、今のは?」僕は今の技についてリーダーに聞いた。
「今のが、新必殺技の迅雷剣 極みXだ 」テッドは笑顔で説明を始めた。
「ファイヤーパンツは別として、俺自身の必殺技が迅雷剣しかなくて困っていたんだ。なんか、いつも迅雷剣ばっかりだってマスコミが騒いでいるんだ 」
「知ってる。僕も疾風剣ばっかりだって言われてる 」
「それで街に買い物に行った時に思いついたんだ。お歳暮やら高級肉やらお刺身なんかだと、最上級品に極みとか、雅とかが多いんだ 」
「確かにそうですね 」ブービーが相槌を打つ。
「全く新しい技を開発するのは難しいけど、今ある技にちょいと価値を加えるのは、そんなに難しくないんだ 」
「どう言う事だい?」僕はテッドに問うた。
「名前が先にあって、価値は後で付けたんだ 」
「ん?」
「極みの名に相応しいアクションを後から考えた結果、斬りつける瞬間にひねりを加えた2連撃を叩き込む事によって敵は大ダメージを食らうんだ 」
「おおっ 」ボビーが目を輝かせて聞いている。
「これこそ、当に迅雷剣の究極系。極みに相応しいゴージャスな技だと思わないか?
因みに、この方法で迅雷剣シリーズの新技を次々と開発する予定なんだ 」
「どんな技を計画しているんですか?」ボビーは興味津々みたいだ。
「例えば、匠とか雅とかで、なんかそれっぽい技を作ろうと思っているんだ 」
ガタン!!
音のした方を見ると、先程のリッチが消滅しそうな身体で立ち上がっていた。「お、おのれ…そんなふざけた技に負けるわけにはいかん……」
それに気がついたテッドは、片足立ちして斜め上に両腕を伸ばした。そして手先を内側にクイッと曲げる。
当に羽ばたく鳥のようなポーズである。「く、変なポーズを取りおって……」リッチは怒りで手が震える。
「くらえ!迅雷剣 雅!!」大きくジャンプしたテッドは回転の捻りを加えてリッチに迫る。
ズバッ!!
着地と共に袈裟斬りを決めたテッドは、回転の勢いを殺さずに両手を斜め上に伸ばす。そして手先を内側にクイッと曲げ、「雅!!」と最後に高らかに告げる。
再び大ダメージを受けたリッチは、消滅の瞬間に最後の力を振り絞って呪文を唱える。
「お、おのれ。戦いの作法を知らぬ愚か者め…ダンジョンの果てに飛ぶがよい。 ワープ……」
テッドの頭上に光輝く輪っかが現れる。輪っかはゆっくりとテッドを包み込みように降下し、地面に届いた時にはテッドの姿は消えていた。
「こ……これで引き分け。私はあんな恥ずかしい技には負けていない……」リッチはそう呟くと消滅した。