緊急特番 英雄テッド 仕事の作法1
英雄と呼ばれるようにまでなったテッドの、少し未来のお話です。
ほんの少しだけネタバレめいた物はありますが、コメディですので、気にせずに先に読んで頂けると幸いです。
「皆さま、こんにちわ。王国スポーツ特派員のタブロイです。本日の魔法ラジオ『勇者の時間』では豪華なゲストをお呼び致しました 」
司会者のタブロイは会場を見渡す。
「さぁ!!誰か分かる人はいるかな? 」
「ハイ!! 」
「ハイ!! 」
「ハイ!! 」
「ハイ!! 」
「じゃあ、そこの若い女の子、お答え下さい 」
「テッドorアライブの……」
「テッドorアライブの……」
司会者も復唱する……
「モビーさん!! 」
「さぁ!!どうだ!! 」
ダダダダダン!!
ドラムが叩かれる。
「ブッブーッ 」
「残念、モビーさんとブービーさんは次回の出演です!! 」
「えーっ!!」
女の子達から悲鳴が上がった。
「次回は『謎の2人 モビー&ブービー。君たち、名前のイメージが逆じゃな〜い 』をお送り致しま〜す 」
「えーっ、次回来ようかしら 」
「いいじゃない、アライブさんが出るかも知れないわよ、見ていきましょうよ 」
「はい、それでは、そこのモヒカンの人、お願いします!! 」
「テッドorアライブの……」
「テッドorアライブの……」
司会者が復唱する。
「テッドさん!! 」
ダダダダダン!!
「ピンポーン!! 」
「ヒャッハー!! 」
「ヒャッハー!! 」
「ヒャッハー!! 」
モヒカンの集団から奇怪な歓声が湧き上がった。
「勇者を超えて既に英雄。テッドorアライブのテッドさんで〜す!! 皆さま、拍手でお迎え下さ〜い!! 」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!
軽快な音楽が流れ、テッドが拍手の中を歩いて、司会者の元に向かう。
「テッドさん、こんにちは。今日はお忙しい中、来て頂きましてありがとうございます 」
「こちらこそ、こんな素敵な機会を頂いてありがとうございます 」
「テーッド!! 」
「テーッド!! 」
「テーッド!! 」
モヒカンの集団からテッドコールが巻き起こる。
テッドは手でコールを抑える仕草をする。静まり帰るモヒカン集団。熱い視線でテッドを見つめて来る。
彼らの髪は極彩色に染められていた。
テッドは目線を逸らして考える。何なんだコイツらは?何故、極彩色のモヒカン集団がこんな場所にいるんだ?ヤバイだろ。警備員は何をしているんだ?
「それでは、テッドさんの活躍を紹介します。まずは城塞都市防衛戦での活躍ですね。あの都市が陥落したら大変な事になるところでした。えーっと、どうやって敵を倒したんでしたっけ? 」
「尻から火が出て……大回転ーっ!! 」
「尻から火が出て……大回転ーっ!! 」
「尻から火が出て……大回転ーっ!! 」
モヒカン集団が息の合った絶叫を披露する。
「え、えーっと、一応、そういう事になってます 」
そ、それはでっち上げだから……心の中で告白するテッド。
「この活躍によって最優秀新人パーティ賞、最優秀パーティ賞、勇者語大賞の3冠、史上初の3冠パーティとなったんですよね 」
「はい、大変名誉な事だと思っています 」
「僕はその事について重大な秘密を知っているんですよ……知りたいですか? 」
「はい? 」
「ふふふ、僕は尻から火が出て大回転の極秘情報を知っているんです。知りたいですか? 」
ちょ、ちょっと待て、極秘情報をこんな大勢がいる場所で言っていい訳ないだろう。
「ちょっと待って……」
「皆さ〜ん、知りたいですね〜? 」
「ウッヒーッ!! 」
「ウッヒーッ!! 」
「ウッヒーッ!! 」
「わかりました、皆さまの熱い思いが伝わりました!! 」
「ウッヒーじゃ何も伝わんねーよ!! 」
テッドはタブロイを止めようと手を伸ばした。伸びて来た手を笑顔で躱すタブロイ。溢れんばかりの笑顔で口を開く。
「尻から火が出て大回転の記事は、僕、タブロイが執筆したのです!! まさに快心の記事と言って良いでしょう!! 」
「えーっ!! 」
テッドの叫びが寂しく響き渡った。
「あれ、反応してくれたのは、テッドさんだけですか……」
ざわざわと騒めく会場に、微妙な空気が流れる。
「うーん、困りましたね。それでは、そこのモヒカンの貴方、お願いします 」
「ウッヒー!! 」
「そうですね。素晴らしい記事ですね。何々、次の話が聞きたい?
皆さ〜ん、次の話が聞きたいですか〜?」
「ヒャッハー!! 」
「ヒャッハー!! 」
「ヒャッハー!! 」
「ヒャッハー!! 」
「はい、それでは次の話題ですね。テッドorアライブは、その後で様々なミッションをクリアして行きます。キュードラ男爵捕縛、魔王軍特務部隊の暗躍を未然に防ぐ……」
俺の活躍を聞いて静まり返る観客。
記事の件で聞きたい事は山ほどあるが、今はとりあえず置いておこう。
「無限迷宮の解放……北部総督ネタギーレンの討伐など、まさに当代の英雄としてふさわしい実績を上げられました 」
「ウッヒー!! 」
「ウッヒー!! 」
「ウッヒー!! 」
「ウッヒー!! 」
「ウッヒー!! 」
少しずつ着実に増えていく、怪しげな歓声を上げる観客達。
「ただし、テッドさんが唯一失敗したミッションがあります。ビーゴ砂漠の謎の魔王の討伐ですね。あの時は世界に衝撃が走りました 」
「そうね、世界が滅ぶかと思ったわ 」
「俺は、慌てて非常用にトイレットペーパーの買い占めに走ったぜ 」
「俺もだ!! 」
「皆さん、トイレットペーパー等の買い占めはやめてくださいね。
それで、トイレットペーパーの買い占めが起きた事を『テッドのトイレットペーパー事件 』と名付けた記事を書いて好評でしたが、どう思います? 」
「か、勘違いされそうなタイトルは止めて欲しいですね。風評被害を受けちゃいます 」
「うーん、そんな事は無いと思うのですが、皆さ〜ん、どう思いますかーっ?」
「ヒャッハー!!」
「ヒャッハー!!」
「ヒャッハー!!」
「ヒャッハー!!」
「ヒャッハー!!」
「ヒャッハー!!」
「そうですか、そうですよね。大丈夫ですか。テッドさん。大丈夫みたいですよ 」
「ぼ……僕には、ヒャッハーとしか聞こえませんよ 」
「心の目で、心の声を聞けば良いんです。慣れれば簡単ですよ。皆さ〜ん、どう思われますかーっ? 」
「ウッヒーッ!! 」
「ウッヒーッ!! 」
「ウッヒーッ!! 」
「ウッヒーッ!! 」
「ウッヒーッ!! 」
「ウッヒーッ!!」
「ウッヒーッ!! 」
「ほら、ヒャッハーなんて誰も言って無いでしょう 」
「……」