ある整備員の独白
私はファイヤーパンツ1号機 ブリーフワンの整備員だ。所属は王国技術部。魔法整備士1級の資格保持者だ。
現在の仕事は、王様連盟 新兵器 研究開発会議 議長直属のプロジェクトに参加している。
このプロジェクトは人類を救う最終決戦兵器の企画、製造、運用を実施しており、王様連盟の中でもごく僅かな人々しか知らない秘密プロジェクトである。
ただ単にパンツの管理をしている訳では無い。
このパンツは魔法繊維に魔術が練り込まれた特製品である。洗濯機の使用は許されない。手桶で希釈したオシャレ着洗剤によって、手揉み洗いしなくてはならないのだ。トランクスタイプとは違うのである。
トランクスタイプは、洗濯機が使用可能であり、7枚1セットとなっている為に、装着者本人による管理が可能である。
一方で、ブリーフタイプはこの世にただ一つの限定品の為、替えのパンツは存在しない。連続装着は各種問題が発生する為に、ここぞのミッションでしか使用出来ない、正真正銘の勝負パンツである。
この事実を知る者は、世界に5人といない本当のトップシークレットだ。
仕事中にいつもパンツを洗っている変なお父さんでは無いのである。
この前も、受付嬢達に、「ご自分で洗われるって偉いですね 」とか言われたが、裏で、
「奥さんは洗ってくれないのかしら?」
「娘さんがお父さんと一緒に洗うのを嫌がっているんじゃないの 」
「というか、職場で毎度パンツを洗っているのってヤバくない 」
とお喋りしているのを聞いてしまった。
ショックだった……
好きで洗っている訳では無いのに……
人類を守る大事な仕事なのに……
ショックを受けて元気を失った私に、議長は配慮してくれた。新しい肩書きをくれたのだ。
王国技術部主任研究員 兼 洗濯部主任洗濯員
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ま、確かに仕事をサボってパンツを洗っているわけでは無いのは証明出来たのだが、
「仕事をサボって、毎度、毎度、パンツ洗ってた訳ではなかったのね 」
「でも洗濯部って初めて聞いたわ?」
「主任洗濯員1名しかいないみたいよ 」
「パンツを洗う以外の洗濯をしているのを見た事がないわ 」
酷い言われようである。
再びショックを受けた私に新しい肩書きが加わった。
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辞令
王国技術部主任研究員 兼 洗濯部 パンツ課 課長に任ずる。
イヤイヤ、私がショックを受けたのは、何を洗っているかの明示が無かったからでは無い。
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「仕事でパンツを洗っていたのね 」
「課長って出世なのよね 」
「でもパンツ課って一人だけみたいね 」
「というか、洗濯部が一人だけみたいよ 」
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「ブリーフワンの調子はどうだ 」英雄テッドがやって来た。
「週末の連日使用でちょっと痛んでますね。もう少し柔軟剤に漬けた方がいいですね 」
「ちょっと匂いも気になるんだが 」
「香り付けのビーズを入れておきましょう。香りは何にしますか 」
「ローズ・・・いやシトラスの香りを強めで頼む。今度の任務も長期戦になるかもしれない 」
「了解です。頑張って下さい 」
「ありがとう。また来るよ 」
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これだけの会話で全ての疲れが取れてしまった。英雄テッドを影で支える。それが私の仕事である。