氷の魔王編3
後ろからの足音に気づいて、慌てて右手を動かすフリーチェ。振り向きざまに魔法を放つ。
「空黒く、大地は凍てつけ!!氷雪魔法!!氷の大地!!」
「くっ!! 」
一瞬転びそうになったテッド。しかし地面を滑るように走ってくる。
「ば、馬鹿な、私の必殺魔法が…… 」
唖然としているフリーチェを、テッドの剣が大きく切り裂いた。
血が溢れだし、倒れこむフリーチェ。ピクリとも動かない。
「僕たちは獣の皮を重ねた滑氷用の靴を履いている。その魔法は通用しない 」
倒れ込んだフリーチェに近づくアライブとテッド。
「思ったよりあっけなかったな 」
「村人たちの情報のおかげだね 」
「くくく……やはり、貴方達は人間…… 」
「『なっ!!! 』」
フリーチェから跳び離れるテッドとアライブ。
「知らなかったのですか?魔王には形態変化があると…… 」
フリーチェの身体の血が止まり、傷が急速に回復していく。
「最終形態になると、魔法が使えなくなるのが残念ですが、貴方達はちょこまか動いて当てにくいから、まぁ、いいでしょう…… 」
傷が回復したフリーチェは立ち上がった。
「なんだ?何も変わらないじゃないか 」
「ふふふ、これからですよ…… 」
フリーチェの右腕が、バンと巨大な丸太のように膨れあがる。
「えっ? 」
目を疑うアライブ。
次は左腕、胴体と次々と膨れあがるフリーチェ。そのボディは筋肉でムキムキである。
「ふふふ、これが私の最終形態。人呼んでマッスルボディ。格闘戦に特化したスタイルです。一度この姿になったら丸1日この姿です。逃げられませんよ 」
「頭は? 」
「大魔王になったら大きくなるみたいですよ 」
「足は? 」
「中魔王になったら大きくなるみたいです 」
「足元がお留守ですよ〜!! 」
テッドがスライディングキックで滑りこむと、慌てて避けるフリーチェ。
バランスを崩して、ドーンと倒れた。衝撃でビキッビキッビキッと凍った湖面にヒビが入る。
「くっ、足が細くて立ち上がれない 」
倒れたままもがくフリーチェ。湖面のヒビがドンドン広がっていく。
「どうするテッド 」
「行こうアライブ。小魔王には永遠に湖面の下で眠ってもらうんだ。それでみんなの魔法も解けるだろ 」
「お、お待ちなさい!!……私を助けてくれたら、貴方の欲しかった、木こりをあげますよ 」
ニヤリと笑うフリーチェ。
「……木こりなんていらない 」
首を振るテッド。
「え??? 」
「ノット クール」
「わ、わ、私の大切な木こりはクールだ!! 」
ガンッ!!
怒りのあまり、思い切り凍った湖面を叩くフリーチェ。
衝撃で湖面の氷が砕け散った。
「逃げるぞ、アライブ!! 」
「うん!! 」
「ま、待って…… 」
崩れゆく湖面の氷に巻き込まれて沈んでいくフリーチェ。自らの体温の低さで回りの水が凍りついて更に沈んでゆく。
岸辺にたどり着いて湖を見つめるテッドとアライブ。
「恐ろしい相手だったな 」
「そうだね。でも、強力な能力を活かしていない感じだったね 」
「ノット クールだな 」
「うん 」
以後、テッドとアライブはマイナー村の英雄と呼ばれるようになった。ただ小魔王フリーチェの仲間が復讐に来る可能性を考えて、この事実を知るのは村民達だけとなった。
世界を救って英雄と呼ばれるかも知れないのは……だいぶ先の事である。