大蛇再臨11
テッドはゆっくりと回転しながら急上昇してゆく。当然、両腕は斜め上に掲げて、手先をクイッと曲げたままである。
そして、大蛇が豆粒の如きに見える遥か高みに到達した。テッドは両腕を掲げたまま動きを止めた。
「テッド様、本当になさるのですか? 」
「あぁ、ブリーフワン、お前も見たはずだ。大蛇の頭部の魔力は先ほどの一撃で吹き飛んだ。今なら奴の防御力は低下している 」
「はい……しかし……テッド様のお身体が…… 」
テッドは俯いて、そして笑顔で顔を上げた。
「……俺はお前のおかげで英雄と呼ばれるまでになった……だから……英雄らしく戦いたいんだ。俺の、いや俺達の持つ全ての力を大蛇にぶつけるぞ 」
「畏まりました。ブリーフワンも全力でサポート致します」
「うん、ありがとう 」
「はい、テッド様 」
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3号とモヒー・カーンは大蛇から離れて様子を見ていた。
「3号、大蛇の野郎、フラフラじゃねーか。今がチャンスじゃねーのか? 」
「あぁ、さっき2号が怪しげなポーズのまま、大蛇の上空に向けて急上昇していった。恐らくは何か起きるだろう 」
「そうか、俺がくしゃみをしていた間にそんな事が……」
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「行くぞ!!ブリーフワン!!」
「『迅雷剣!雅 改!!』 」
テッドは尻から火を出して回転を始めた。そして回転のスピードをドンドンと上げてゆく。
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全速力で大蛇から逃げていたリッキー達は、空が赤く染まっていくのに気がついた。
「なんだ?なんだ? 」
「また、空が真っ赤になっているぞ 」
「なんだ?赤い竜巻? 」
「あ、赤い雲が渦巻いてる …… 」
遥か天高くを見ると、炎が雲を巻き込んで渦巻いている。リッキーは、何か危険な事が起きると確信する。
「みんな!!急いでここから離れるんだ。また何か起きるぞ!! 」
その瞬間。真っ赤な雲の渦から、燃え盛る何かが猛スピードで炎の渦を巻き込みながら急降下を始めた。グングンと加速する何かは、超高速で大蛇の頭に突き刺さった。
轟音が天地に響き渡り、爆風が周辺の全てを吹き飛ばして行く。大蛇の頭は地に縫い付けられたかの様にピクリとも動かない。
「テ……テッド様…… 」
意識を失ったテッドは爆風に吹き飛ばされてゆく。ブリーフワンは雅 改と衝突の衝撃からテッドを守るので、エネルギーがほぼゼロになってしまった。この高さから墜落したらテッド様が死んでしまう。
「ダメで……す……エ、エネルギー……が…… ………… 」
エネルギーが尽きて沈黙するブリーフワン。尻からの火が止まり急降下を始めるテッド。猛スピードで地面に近づいてゆく。
ガシッ
落下するテッドの手を誰かが掴んだ。
「けっ、世話がやける野郎だ。この1号様に感謝するんだな。せっかく大蛇を倒しても死んじゃー意味ねーぜ 」
3号の後ろで飛竜に乗っているモヒー・カーンがテッドを掴み上げた。
「なぁ、3号。大蛇を倒した勇者を助けた俺こそが、真の勇者だろうぜ 」
「ば……馬鹿な……」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは 」
「ギィヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア 」
耳をつんざく奇声が響き渡り、頭の右半分が潰れた大蛇が頭を上げた。
「……信じられん……あれだけの一撃を食らっても生きているのか…… 」
3号は飛竜を操り大蛇から距離を取る。
爆風に吹き飛ばされて倒れていたリッキー達は、大蛇の耳をつんざく奇声に目が覚めた。フラフラとしながら立ち上がるリッキー達。
そして絶望的な光景を目にする。大蛇がこちらに向けて進んで来ているのだ。フラフラの体で必死に逃げるリッキー達。
しかし、あっという間に大蛇はリッキー達に追いついた。リッキー達を囲い込むように身体を動かして、大きな口を開け、鎌首を持ち上げる大蛇。
「え……」
大蛇の胴体に囲まれて逃げ場を失ったリッキー達。
絶望に顔が青く染まる。逃げ場が完全になくなってしまった。
「終わった……」
倒れこむ隊員達。隊員を常に鼓舞し続けて来たリッキーですら声が出ない。ゆっくりと迫る大蛇の舌。
誰もが終わったと思った時だった。
「心配ご無用でござ〜る!! 」
天地を震わせて響き渡る神々しい声。
ガシャン、ガシャンと大きな足音が響き渡り、大蛇は足音の方を振り向いたが、何もない。
「全ての想いを一つに、今、全てを断つでござる 」
上空から響き渡る神々しい声に、大蛇が頭を上げた時だった。
「神話チョップ!! 」
上空から落下して来た超巨大骸骨inケンマロのジャンピングチョップが、大蛇の頭に炸裂した。