大蛇再臨3
テッドの頭の上に、長く白い髭を生やしたスケルトンが着地した。
「う〜ん、我ながら見事な着地でござる。そうは思わぬかテッド殿 」
馴れ馴れしく話しかけてくる髭骸骨に、テッドは厳しい顔を返す。
「世界は既にXに埋め尽くされている……」
テッドの言葉に合わせて、小さなXが髭骸骨の周りを周回する。テッドはゆっくりと右手を上げる。
「さらばだ。天に還れ、長き白髭の骸骨よ 」
テッドが右手を降ろそうとした時だった。
「テッド!!ちょっと待ってくれ 」
テッドが声のする方を向くと、4つの紙飛行機の様な何かが飛んで来る。紙飛行機の下にハンドルの様な物があり、見知った顔が見えて来た。
「その骸骨は無限流 最高師範のケンマロ様だ。俺の師匠で味方なんだ。多くの人々を救ってきた英雄なんだ…… 」
それぞれのハンググライダーに乗ったパーフェクトオーダーの4人。ライル、ダースク、アンジー、パルンが現れた。
テッド達よりも更に北方。避難民達の最後列よりも更に北方の上空に、それは突然訪れた。雲一つ無かった空が急速に真っ黒に染まってゆく。
暗闇は広がって、南下する避難民達の上空も覆い尽くした。
「なんだ、なんだ 」
「空が急に暗く……」
騒めく避難民達。
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
「隊長……」
1番隊副隊長のリッキーが震える声で、隊長に呼びかける。
「あぁ、遂に来やがった……」
黒く染まった空を見据えるモヒー・カーン。その視線の先には、大理石で出来た扉があった。予想通り街道の北側。避難民を餌に騎士王国に誘導するルートだ。
「あの位置なら落下による被害は出ねえな。リッキー、1番隊親衛隊。俺は今から切り札の準備をする。5分だけでいい、時間を稼いでくれ 」
頷くリッキーと100名の親衛隊員。
モヒー・カーンは、その場で足を組んで座りこんだ。目を閉じて精神を集中する。持てる魔力の全てを覆面に注ぎ込むのだ。モヒー・カーンの心は深い深い精神の奥へと向かって行った。
リッキーと親衛隊はモヒー・カーンの前面に位置を移して、上空の扉の様子を見守る。
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
それは上空の扉を破壊し現れた。雷が鳴り響き、空が黒く染まる。
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
端から端までの長さは見渡せず、胴回りだけでも50mはあろうかと思われる大蛇。
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ガラガラガラガラガラガラガッシャーン!!
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーン!!!!!!!!
落下し大地が大きく揺れる。
ミズガルノズの大蛇が顕現した。
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「副長!!北側の空が暗く……」
「遂に来たか……第3隊全部隊に魔法連絡。北部巡回中の第1から第3飛竜騎兵隊は全力で北方に向かう。目標ミズガルノズの大蛇 」
3号は針路を変えながら伝令兵に伝える。
「中部、南部巡回の各飛竜騎兵隊は第1種警戒体制。敵飛空部隊から避難民を守れ。遅れる者は置いて行く。行くぞ!!」
「おう!! 」
死に急ぐなよ、1号。俺たちは15分もあれば着く。飛竜騎兵隊であれば、大蛇であろうと牽制で時間は稼げる。待ってろよ
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大蛇はゆっくりと鎌首を上げて周囲を見渡した。そして目の先に大勢の獲物がいる事に気がついた。シュルリと舌を出した大蛇は前進を始める。
「リ、リ、リ、リッキー副隊長。た、た、た、大蛇がこちらに……」
震えながら報告する隊員。
「あ、焦るな。し、親衛隊は砲撃準備だ。モ、モ、モ、モヒカンをずらせ!! 」
黙ってモヒカンをずらす親衛隊員。
「モ、モ、、モ、モヒカンを外せ!! 」
モヒカンを外す親衛隊員達。
「あぁ!!外れねーよ!!」
手が震えて上手く外せない奴もいる。
「ちょっと待て。ほら、捻りが足りねーんだ。慌てるんじゃねーよ 」
仲間達がフォローし合ってモヒカンを外してゆく。
「構えて待機!! 」
片膝をついてモヒカンを長銃のように構える親衛隊員達。
リッキーと親衛隊員達の前にミズガルノズの大蛇がゆっくりと近づいて来る。視点は完全にリッキー達を捉えて離れない。
「リ、リ、リ、リッキー副隊長。お、俺たちをじっ、じっと、見てますよ 」
「お、お、お、俺を信じろ。お、俺が合図を出すまで、た、た、た、待機だ 」
震えながらも皆一歩も動かない。そして大蛇が大口を開けてリッキー達に襲いかかった。




