外伝キュードランドの危機編3
「それでは、私、イヤービが発表させて頂きます 」
資料の束を抱え込んだイヤービ君が立ち上がり、そして座った。イヤービ君はゆっくりと皆を見渡して口を開いた。
「私はキュードランドに足りない物を考えて来ました。皆さん、わかりますか? 」
足りない物?このキュードランドに足りない物などあるとは思えない。何を言っているんだイヤービ君は……
シーンとして誰も答えない。
「ふふふ、誰もわからないようですね。ゴーレム2号さんお願いします 」
イヤービ君はそう言うと、ゴーレム2号に向けてリモコンの様な物を向けた。ゴーレム2号の口が開いて、スクリーンの方に向けて光を飛ばすと、真っ白な壁に映像が映り出した。
皆の視線が壁の映像に向かう。
壁に映った映像の中に1人の男が現れた。ゴーレム2号の口から知らない男の声が聞こえてきた。
「俺はバンパイヤハンターQ。真祖では無いが真祖を超える力を持つという偉大なるバンパイヤ キュードラに会いに来た……」
男はぶつぶつと独り言を言いながら、深い森の中を進んでいた。
「くっ……この深い深い大森林で迷い続けて一月余り。真祖を超えたヴァンパイア、キュードラが住むという夢の国、楽しいキュードランドはどこにあるのだ……」
男はフラフラしながら暗い森を前進する。しかし、その足取りが段々と覚束無くなる。
「お腹が空いた……ノドが乾いた……もう限界だ……」
それでも男は前に進む。命の灯火を削りながら。しかし力の尽きた男は倒れこんだ。そんな男の遥か前方に光が見えた。
「な、なんだ?あの神々しいばかりの光は……まさか、夢の国、楽しいキュードランド!! 」
男は最後の力を振り絞って立ち上がり歩きだした。いつの間にか男の隣には、水色の衣で大量の黄金虫引き連れた三つ目の年老いた魔族が歩いている。しかし男の目には前方の光しか映らない。
「キュ、キュードランド……夢にまで見たキュードランドが……」
フラフラと大きく揺れながら前に進む男。
「誰もが憧れる夢の国、楽しいキュードランドにやっと、やっと、辿り着く。やっと、やっと辿り着くんだ!! 」
男は遂に大森林を踏破した。目の前には巨大な建物。真新しい巨大な看板に『ようこそ!夢の国、楽しいキュードランドへ 」と書いてある。
「はぁ、はぁ……着いたぞ。やっと着いたんだ 」
入り口には2体の笑顔のゴーレムが待っている。『ようこそ、夢の国、楽しいキュードランドへ』の看板を掲げている。
男はゴーレムの前に立って、静かに告げる。
「大人1人 」
「アトラクションコースカ、オショクジ、オンセンセットコース、ドチラ? 」
「お食事、温泉コース……」
これで尽きかけた体力も回復する……生き延びた、俺は生き延びたんだ……
「10000Gニ、ナリマス 」
男が懐から財布を取り出そうとした時だった。
ボーン、ボーンと何処からか鐘の音が鳴り響いた。気にしながらも震える手でお札を取り出す男。
くるっ
ゴーレムが看板を裏返す。
「えっ……」
看板には『本日の営業は18時まで、明日のお越しをお待ちしております 』と書いてある。
「ぐふっ!! 」
男はショックのあまりに口から血を吐き出した。口に手を当てて血を止めようとするが、溢れ出す血が止まらない。
ダメだ……
意識が遠くなる……
俺の旅路もここまでか……
男はゆっくりと倒れて、そして死んだ。
「カワイソウ……」
ゴーレム1号がポツリと呟いた……
完
ゴーレム2号が口を閉じて映像は消えた。イヤービは勢いよく立ち上がった。
「どうですか?皆さん、これが、これこそがキュードランドの闇なのです!! 」
静まり返り誰も一言も発しない。仕方ない、私が確認するしかないか……
「ちょ、ちょっと待ってくれ。闇とか以前に、今の映像は何だったんだ。何が言いたいのか、全くわからないぞ 」
「この映像は、事実を元にした再現映像です。かつて、1人のヴァンパイアハンターが、夢の国キュードランドを探し求め、そして力尽きて亡くなったのです 」
「いや、いや、いや、あんなわざとらしい奴が実在したわけないだろう 」
「ふぅ 」
イヤービはため息を一つついた。
「仕方がありません。ゴーレム2号さん。続きをお願いします 」