外伝 キュードランドの危機編2
「緊急幹部会議? 」
新たに情報通信担当係長を任されたファングー君がやって来た。
「はい、本日15時から第1会議室で開催しますので、メレッドさんも参加して欲しいとの事です 」
メレッドは大事な事を思い出した。
「ダメだよ、ファングー君。15時は営業時間内だ。もしも、万が一、何かの間違いでお客様が来たらどうするんだ。せっかく来た大事なお客様なんだぞ 」
「それは……」
「我々がいなくて、おもてなしも何もあったものじゃない。我々が夢の国、楽しいキュードランドを支えているんだ。それを忘れてしまってはダメだよ 」
ボンっ
メレッドの肩に誰かの手が置かれた。
「ダイジョウブ、ダレモ、コナイ 」
ゴーレム1号が立っている。なぜか微妙に笑顔だ。
「いや……しかし……」
「そうですよ、メレッドさん。こんなぼったくり施設に誰が来ると言うんですか?そんな物好きが居たら見てみたいですよ 」
「ソウダ、ソウダ 」
「何て事を……この楽しい夢の国、キュードランドをぼったくり施設扱いするなんて……」
「メレッドさん、我々が、フォージュリーさんが、大切な魔法具を巻き上げられたのを忘れたんですか 」
「た、確かに……」
「ウフフ、オレ、ボッタクリ、ダイスキ 」
「な、なんて事を……」
「ゴーレム1号さんは金儲けモード中ですからね。仕方ないですよ。それより15時から会議ですから、重大な発表もあるみたいなんで、必ず参加して下さいね。じゃあ、僕はキュードラナイトパレードの衣装の洗濯に行って来ますんで、宜しくお願いします 」
ファングー君は去って行った。
「重大な発表? 」
一抹の不安が脳裏に霞んだ。
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15時 第1会議室
私は万が一お客様が来たらどうしようとの不安を抱えながら、会議に参加する事にした。来てみると既に皆が着席していた。時間ギリギリで着いた私に対して、イカとタコの冷たい視線が突き刺さる。100匹近いイカとタコは会議室の一角を占めている。
キュードラがイカとタコを牽制する様に手を横に伸ばした。
「ウフフ……待っていましたよ、メレッドさん。貴方はキュードランドを唯1人クリアした強者。貴方のアイデアに期待してますよ 」
「アイデア? ……それは一体? 」
ガタン!!
ファングー君が慌てて立ち上がった。
「す、すみません、メレッドさん。この会議はキュードランドの経営危機に対して、幹部皆がアイデアを持ち寄って議論するんです。ビートゥールさんの新しい衣装の洗濯に気を取られて……」
ザワザワとイカとタコが騒めきだした。血の気が引いて青ざめるファングー。多数のタコとイカがゆっくりとファングーに近づいて行く。ファングーはワナワナと震えて、頭を押さえながら座り込んだ。
くっ……元上司として助けなくては……しかし、タコ課長とイカ課長から半端ない重圧が来る。足が、足が震えて……
「タコ課長、イカ課長、待つのですな 」
ビートゥール博士が椅子から空に飛び上がった様に見えた。博士の下には黒い雲の様な物がある。
「ムシ、イッパイ 」
そうか、あの黒い雲は虫の大群……ビートゥール博士は黒い雲の上で正座をしている。
「ファングー君は私の衣装を洗濯する為にミスをしてしまいました。申し訳ありません 」
黒い雲の上で土下座するビートゥール博士。床から伸びた黒い雲はゆっくりとタコやイカの方に向かって行く。
ビビったのか退くタコとイカ。
「ふふふ、皆さん、席に戻って下さい。会議を始めましょう 」
キュードラが会議の開催を告げた。