外伝 キュードラ 愛の詩11
「ふふふ、良くここまで辿り着きましたね」
ブランコに座り、高みより見下ろすキュードラ。
メレッドはキュードラを睨みつける。
「キュードラ!!貴方は何故に魔界の秩序を乱すのです。エタール様がそんな事をお望みとお思いですか!!貴方は……貴方の存在はエタール様や、私達を苦しめているのです!! 」
……キュードラの口角が上がり嬉しそうな表情になった。
「メレッドさんでしたね……人生が甘いだけではつまらないでしょう 」
「何を馬鹿な 」
「ふふふ……美しき薔薇には雨が……苦悩する詩人には痛みが……徹夜明けには苦いコーヒーが……スイカには塩が救いとなるのです…… 」
ブランコから飛び降りるキュードラ。メレッドの目の前に降りたキュードラはパチンと指を鳴らす。
燕尾服を着た細身のゴーレムが現れた。
「キュードラサマ……」
「例の物を……」
「カシコマリマシタ…」
ゴーレムの頭がパカっと開くと、そこには白い皿に乗ったふた切れのスイカがあった。ゴーレムは手を伸ばし皿を取り出す。
「ドウゾ……」
「メレッドさん、貴方はキュードランドを初めてクリアした強者です。このキュードラが育てた最上級のスイカを食べる資格があります 」
「き、貴様が作った物など……」
「ふふふ、怖いのですか? 」
「ちっ!! 」
メレッドはスイカを一切れ掴んで口に入れた。口の中にまろやかな甘みが広がってゆく。
「う、美味い。こ、こんな美味いスイカは初めてだ……」
「ふふふ、まだまだですね 」
キュードラはメレッドの後ろから肩に手をかけて、スイカに塩を振りかけた。
「どうぞ……」
馬鹿な……塩など振りかけたら、せっかくの甘さが台無しになってしまう……
メレッドはキュードラの横顔を見る。キュードラは優しく微笑んだままだ。
「えーい、ままよ!! 」
パクリとスイカを口に入れたメレッド。
「あ、あ、あ、あ、あ……甘い……さっきよりも甘くて美味しい……」
メレッドは涙を流しながら座り込んでしまった。
「ふふふ、時には辛味が、時には苦味が人生のスパイスになるものです 」
キュードラは優雅に手を差し伸べる。
「メレッドさん、貴方をキュードラ 愛の使徒に加えたいと思います 」
「し、しかし、エタール様を裏切るわけには 」
「大丈夫ですよ。エタール様は非常なお方。されど面白い事を何よりもお望みです 」
「お、面白い事? 」
「いや……我々には計り知れぬ事かも知れません……イヤービさん!!ファングーさん!! 」
キュードラは手を叩いて2人を呼んだ。
「お待たせいたしました……」
メレッドの後ろから声がした。振り向いたメレッドの表情が固まる。
フリルのついたメイド服を着た2人が微笑んでいる。
「え??? 」
「キュードラ 愛の使徒、掃除長 イヤービとお呼びください 」
頭を下げるイヤービ。何故か耳が赤い。
「キュードラ 愛の使徒 、洗濯担当 ファングーとお呼び下さいませ 」
深く頭を下げるファングー。
「キュ、キュードラ殿、これは一体? 」
慌てて振り向くメレッド。
微笑むキュードラの左右には、ピンクのメイド服の2人のメイドがいる。
「ええ??? 」
「キュードラ 愛の使徒、自然環境保護担当 兼 夜間警備担当 兼 キュードラナイトパレードのダンサー 兼 昆虫のお世話担当のビートゥールです 」
頭を下げるビートゥール。耳が真っ赤だ。そして虫まみれである。
「キュードラ 愛の使徒、ガヤ担当のフォージュリーです 」
頭を下げるフォージュリー。
「ええぇーっ!! 」
思わず大声を上げるメレッド。
ゴーレム1号と2号がやって来る。
「ふふふ、人材が揃って来ました。これでやっとキュードランド海の工事に入る事が出来そうです 」
「キュードランドシー、タコトカ、イカガ、イッパイ 。オレ、ハッピー 」
「ふふふ、キュードランドは魔族と人族の間に奇跡的に生まれた唯一の緩衝地帯。ここが成功すれば終わり無き争いの世を終わらせるキッカケになるかも知れません 」
「ソノタメニハ……」
ゴーレム1号がキュードラに近づいて行く。
「そう、ここを世界一のテーマパークにしなければなりません……ゴーレム1号さん、もっとお金が必要です 」
ゴーレム1号の肩に優しく手をかけたキュードラは頭のつまみを素早く右に回した。
「カネ、カネ、カネ、カネ、モット、クレヨ 」
「ふふふ、我々キュードランドは混沌の中に生まれた一雫の奇跡。人族と魔族、ゴーレムが共存する世界……」
「ムシ、タコ、イカモ、イッパイ 」
キュードラは皆を見渡す。
皆が頷いた。
「さぁ、皆さん、参りましょう。誰も知ることの無い遥かなる未来へ……」