城塞都市防衛戦3
俺は最後の力を振り絞り剣を振るうが、もう力は碌に入らない。双刀のうちの1本は既に折れている。
それでも渾身の力を振り絞って、緋色魔牛の角を折り、首を斬りとばした。
しかし、その衝撃でもう1本の双刀も砕けてしまう。これでもう武器すら無くなってしまった。
アンジーもダースクも身体中のあちこちを魔牛の角に刺されて瀕死の状態だが、倒れているミーネを挟んで背中合せに仁王立ちして、ミーネを守っている。
カッコいいじゃないか……
あいつら、死んでもミーネを守る気だ……
そこに一際大きな緋色魔牛が、ミーネを守る2人の方に向けて突進してくる。
剣が折れ、力尽きようとも、壁となって一瞬だけでも盾となる事は出来る……
俺はフラフラの身体を緋色魔牛の進路に差し出した。
ここまでか、そう思った瞬間だった。
「アテンション プリーズ!!」という大きな声が響き渡り、何物かが魔牛の群れを飛び越える大ジャンプをして、俺の前に降りたったのだ。
しかし緋色魔牛は速度を落とさずに突っ込んで来たので、謎の男はカウンターのアッパーカットを決めて、緋色魔牛を大きく弾き飛ばしてしまった。
あまりの事に俺も魔牛達も呆然としてしまった。
「もうアテンション プリーズしなくて結構ですよ 」 謎の男がわけのわからない事を言う。
「すまない。意味がわからない 」
「すみません。フラフラで頭に血が回って無いようですね。もう注目しなくて結構ですと言ったのですが……それより回復魔法が必要ですね 」
男は回復魔法を俺達にかけてくれた。アンジーはフラフラしながら立ち上がり、ダースクとミーネは目は覚まさずとも傷口がふさがり顔色が良くなってきた。
魔牛達は未だアテンションしている。
「助かった。礼を言う 」
「気になさらずに。お友達の助けを呼ぶ声が聞こえたので、こちらに向かったのですよ 」
「そうか、パルン。最善を尽くしてくれたんだな……」
「さて、モンクさんも大丈夫そうなので、御二方で眠っている御二人を背負って頂けますか 」
「どうする気だ?」
「ここは私に任せて先に行って頂けますか?」
「あんたの底知れぬ力はさっき見たばかりだが、完全に魔牛に包囲されているぞ 」
「大丈夫です。今から私が血路を開きますので、振り向かずに走り抜けて下さい 」
ミーネを肩に担いだ俺は、ダースクを背負ったアンジーと頷き合う。
「頼む」
謎の男は、城塞都市の方向に向けて大きく口を開き、そして閉じた。
そして呟く。「いけない、いけない、私とした事が同じ失敗をする所でした……」
アンジーと俺は顔を見合わせる。
「では行きますよ!!」
そして謎の男は、腕を真っ直ぐに前に出して城塞都市の方角を指差して、大きく口を開いた。
そして……
口から火を吐き出した!!!
ミーネの極炎極龍波級の極炎が魔牛の群れに襲いかかる。
「ぶぐあぁあぁああ 」
「プギャアアアアア 」
魔牛の群れから魔牛の悲鳴が響き渡る。
「あんた名前は?」俺は、最後に彼に尋ねた。
「通りすがりのただのモブですよ 」
「意味はわからないが、皆の命を助けてくれて、ありがとう。また会おう 」
俺とアンジーは、焼き尽くされた道を駆け抜けて城塞都市へと走り続けた。