マッドマキシマム結成編1
中央大陸セントラル。広大な面積と豊富な資源により多くの人族、魔族が多様な文化を築き上げる豊かな大地であった……100年前に大魔王エタールがほぼ全域を征服するまでは、である。
騎士王率いる人族連合軍は、大魔王エタールに敗れて大陸西端の半島に逼塞した。それ以降、エタール支配地域の住民は辛酸を舐め続けて来たのである。
10年前〜
「シルヴァン、私はエタール様に拝謁して来る。この日照りと大地震で南部地域は壊滅状態だ。至急、救援が必要だ 」
「しかし父さん。エタール様への直接の意見具申は危険です。何人も処罰されていますよ。
父さんは今まで魔族と人族の間に入って問題を解決して来ました。父さんに何かあったら取り返しがつきません 」
若き日のシルヴァルト。
「旧人族領代理総督エグゼ殿、財務卿の私、法務卿のドーア殿を筆頭にエタール様支配地域の人族の代表10名の連名だ。エタール様と言えど無碍にはしないだろう。
我々はエタール様の支配に協力をして来たんだ。国民から恨まれながらね。それはこういう時の為でもある。ここで動かねば我々はただの裏切り者だ 」
「しかし……」
「南部の問題は一刻の猶予を許さない。シルヴァン、お前は長男だ。皆を頼んだよ 」
・
・
・
・
大魔王城 謁見の間
「次の者、参れ!! 」
ハデダスが次の謁見者を呼び入れる。
10名の男が前に出て片膝をついた。
「エタール様配下 旧人族領代理総督エグゼ、財務卿フィナン、法務卿ドーア他閣僚7名、エタール様に上申の件があり参りました 」
エタールは玉座から謁見者達を見渡した。
「申せ!! 」
「南部都市サウザー近郊て起きた大地震と、南部地域で半年以上続く日照りの為に疫病や飢饉が発生しております。どうか一刻も早い救援を願いたく……」
エタールは額に出てを当てて考える仕草をした。
「……救援の物資はどこから出るのか……」
「はっ、旧人族領各地から南部への救援物資を用意致します。魔族領にはご迷惑はおかけしません。何とぞ御裁可を頂きたく 」
「……ハデダス……どう思うか……」
「はっ、旧人族領から救援物資を出せるのなら構わないかと……」
「エタール様……」
細身で背の高い一つ目の悪魔が前に出た。後ろに3つ目の悪魔を2人従えている。
「……フォージュリーか……」
「魔界秩序管理局 長官フォージュリーは、この者達を横領と破壊行為で起訴致します 」
「なっ!!我々は長きに渡り、エタール様に忠誠を尽くして来たのだ。馬鹿な事を言うな!! 」
法務卿のドーアが激怒の声を上げる。
「怒るのが怪しいですな……」
ニヤリと笑うフォージュリー。
シルヴァルトの父、財務卿のフィナンが立ち上がる。
「フォージュリー卿、我々は国民に嫌われてもエタール様に定められた役割を果たして来たのだ。それが平和の為だと信じてな。それを一方的に否定された上に犯罪者扱いされたら怒って当たり前ではないか 」
「図星を指されたから怒っているのでしょう。私は多くの犯罪者を見てきました。皆、私は違うと言うのです。貴方達は図星を指されたから怒っている 」
法務卿のドーアが反論する。
「証拠も示さずに犯罪者扱いは納得がいかん。卿も法に携わる者ならば証拠を示せ!! 」
「怪しいなぁ君達は。証拠は救援物資だよ。何でこんなに出せるんだい。それに証人ならいるんだ。旧人族領 整備開発卿のディストーレ君。証言したまえ 」
「はっ、はい〜っ。そ、総督エグゼ卿以下9名は、し、私腹を肥やし、裏で南部地域への破壊工作をしておりました……」
下を向きながら発言するディストーレ。
唖然とする9人。「な、何をデタラメを……」代理総督エグゼが震えながら声を絞り出す。
「ほらね、君達は犯罪者だ。一族もろとも皆殺し。処刑反対派も炙り出して処刑しましょう 」
「そうだ!! 」
「そうだ!! 」
「生意気な人族どもに天罰を!! 」
謁見の間の魔族達が騒ぎ出す。
「ちょ、ちょっと待ってくだされ 」
ハデダスが前に出る。
「旧人族領を魔族の総督に任せてダメだったから、人口の多い一部地域を人族に任せたはずじゃ。彼らは以後、彼らなりにエタール様の期待に応えておった。わ、儂は処刑に反対しますぞ!」
「う〜ん。ハデダス君はリッチの癖に人間臭さが残ったままなんだよね。ただ問題はもう一つあるんだ。
この世の全てはエタール様の物。それを大量に隠し持つなんて……許される事では無い 」
「こ、この救援物資は……多くの者達が自らの生活を切り詰めて…… 苦しむ同胞の為に……」
財務卿のフィナンの声が霞む。
「……わかった……」
エタールが玉座から立ち上がる。
「……この世の全ては余の物である……処分は……フォージュリーに任せる……」
「お、お待ちを……」
エタールの元に駆け寄ろうとするハデダスの前に、フォージュリーの部下の3つ目の悪魔が現れる。
「凍り付け!!!!! 」
3つ目の悪魔は口を大きく開けて息を吐きかけた。息はハデダスを包み込んで……
「なっ……」
ハデダスは凍りついてしまった。
「ふふふ、ハデダス君、君は1週間ぐらい凍りついていてくれ。目覚めた時には全て終わっているはずさ……」