作戦本部編3
「テッド様より緊急入電。ファイヤーパンツに不具合発生。至急、替えのパンツを頼むとの事!! 」
ほっとするアライブ。
「不具合とは何なんだい? 」
平然と聞き返すメガネ君。そんな事、聞かないであげてよと思うカシュー。
ドタドタと走りさる音が聞こえる。おそらく聞きに戻っているのであろう。
「テッド様に何かあったら……僕は生きて行けない…… 」青ざめるヤーフル。
ドタドタと戻って来る音がする。
「た、多少、匂う気がするとの事……至急、至急、替えのパンツを求むとの事です 」
ヤーフルの顔色が戻る。
「ふふふ、仕方ないなぁ。僕が持って行って上げようかな 」ニヤニヤするヤーフル。
「すまない、ヤーフルさん。君にはエタール討伐の使命があるし、エルフの隠れ里で兄上が待っておられる 」
「ウィッテ兄さんか……100年前の大戦の時に、まだ幼かった僕をウエスタン大陸に逃してくれた……」
「エルフの長のウィッテさんは、セントラル大陸中の森を移動しながら、大魔王軍に対する抵抗活動をしているんだ。ただ近年は大魔王軍の締め付けが厳しく苦戦しているらしい。ヤーフルさん、君の力を貸して欲しいとの事だ 」
ヤーフルの表情が引き締まった。
「わかりました。命の恩人である兄様の力になれるのならば仕方がない。私はエルフの隠れ里に参りましょう 」
「なぁ、メガネ君。俺たちマカデミアナッツはどうするんだ? 」
「カシュー、僕達、マカデミアナッツは城壁地帯の防衛だ。僕達の役目は最悪の場合にも負けない為の盾なんだ。天の絆があれば、ミズガルノズの大蛇ですら城壁地帯は突破出来ない。僕達の役割は城壁地帯を守り、リヤ様やココを守りきる事なんだ 」
「わかった 」
カシューが頷き、アーモンとヘーゼルが続いた。
ドンドン!!
再びドアが激しく叩かれる。
「どうした!! 」
メガネ君の鋭い声が飛ぶ。緊急事態か?
「テッド様より『早く、早く、パンツを ……パンツの替えを……』との事です 」
「済まない。すぐに手配すると伝えてくれ 」
「畏まりました!! 」
伝達員はドタドタと戻って行った。
「ところでメガネ君、アライブはSランク勇者だし、ヤーフルさんもビーゴ砂漠の謎の魔王だ。強いのはわかる。しかし、たった2人で敵地の真っ只中を向かうのは危険じゃないか。さすがに無理がないか 」
「カシュー、君の言う事もよくわかる。だから強力な助っ人を呼んであるんだ。出発までには間に合うはずだから心配はいらない 」
「強力な助っ人? 」
「あぁ、僕が一緒に旅したいくらいさ。きっと面白い事になるぞ 」
「メガネ君、メガネ君。地、地が出てるぞ 」
カシューが肘でメガネ君の脇腹をつつく。
「すまない。さすがの僕も今回のミッションは大変なんだ。ストレスが溜まってしまってね。つい、地が出てしまった 」
「まぁ、多くの人々の命がかかっておるからの。仕方ない事ではあるわい 」
「ところで……」
アーモンが前に出る。
「わかっている、アーモン……ヤーフルさんとアライブ君の出発は3日後だ。それまでに助っ人は来るはずさ 」
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「ココさん、これを……」
エイマがノートの束をココに差し出した。
「これは……」
「100年の間、多くの人々が天の絆の習得に挑戦して挫折しました。その人達が残した研究の記録です 」
ココは受け取って、古びれた1冊のページを開いた。そこにはぎっしりと文字で埋め付くされていた。
「リヤ様は天の加護を受けた結界の賢者。生まれつきの才能で天の絆を習得されました。
しかし、その後は他の誰も使用出来なかった。リヤ様の前は、更に30年前に亡くなられた賢者様が使われたと記録されています 」
ページを進めるココ。
「もしかしたら天の絆を習得出来るのは、現世に1人だけかも知れません。でも、それでは次の修得者が出る前に国が滅んでしまうかも知れない。だから無理を承知で多くの先人が挑戦したのです 」
ココは一心不乱にページを進める。
「ふふ、私もこのノートを受け取った時は、他の何も目に入らなくなりました。先人の積み重ねた努力は挫折では無くなりました。今、貴女に辿り着いたのですからね……」
エイマは『私の書いたページに着くのはいつかしら?』と思いながら、一心不乱にノートを読み続けるココを見守り続けた。