作戦本部編2
ヤーフルはカバンからカードケースを取り出すと、テーブルの上にカードを広げた。
「ほら、見てくれよ。遠慮は要らない。これはプレゼン用のカードだからね 」
「プレゼン……」
アーモンが低い声で呟く。
「ふふふ、テッド様の素晴らしさを人々に伝える活動の事さ……見てくれよ。この『尻から火が出て大回転 極みXのカードを。誰に予想が出来ると言うんだい。まさか、こんな事になるなんて……」
『尻から火が出て大回転 極みX 』のカードを唖然として見つめる面々。
「どうやら気に入って貰えたようだね……」
「え……」
「でも駄目なんだ。そのカードは僕の宝物なんだ。いくら金を持って来られても譲る事は出来ないんだ。許してくれ 」
悲しい顔をするヤーフル。代わりのカードは無いかと探しだす。そして1枚のカードを見つけた。
「そうだ。アライブ君、君がテッド様を肩車しながら、二人で尻から火が出て大回転をしているカードなら……」
マカデミアナッツの3人の視線がアライブに突き刺さる。
「ぼ、僕はそんな事した事ないぞ!! 」
「これなら30枚ほど持っているんで、1枚、1枚だけなら譲ってあげるよ。テッド様にヤーフルは良い子だと伝えて欲しい 」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。僕はテッドを肩車しながら『2人で尻から火が出て大回転』なんてした事がないぞ。なんでこんな写真が……」
「知らないのかい、アライブ君。これは来たるべき未来図なんだ 」
「来たるべき未来図? 」
カシューが確認を求める。
「うん、勇者チップス販売プロジェクトがテッド様の全面協力の元に、魔法AIを開発したんだ 」
「魔法AIとは何なんじゃ? 」
「ふふん、魔法AIとは魔法で出来た頭脳が、自律的に膨大な情報を学習して仮説、検証、修正を加えながら進化していく頭脳の事さ 」
「どれくらい凄いんじゃ 」
「勇者チップス販売プロジェクトでは、現在、当代最高の天才と呼ばれるノーミズ博士の知能の100倍。ズバリ100人分のノーミズ博士の知能を達成したらしいんだ。正に超天才。100%の未来予測だ 」
「そ……そんな……」
肩を落とすアライブ。
「その魔法AIは、アライブ君がテッド様を肩車しながらの、2人で『尻から火が出て大回転 』でミズガルノズの大蛇を倒すと見ている ……」
ヤーフルは強い目で皆を見渡す。
「これは避けられない未来なんだ。そして、その姿を魔法CGで実写バリのリアルに描いたのがこのカードだ 」
「す……凄いな 」と言いながら、いや、そんなんで倒せるのかいと思うカシュー
「ぼ、僕は……こんな技で神話の怪物に挑むのか……未来の僕は何を考えているのだろう ……」
アライブは青ざめた顔で1人立ち尽くしていた……
黙って話を聞いていたメガネ君がついに動いた。
「みんな、聞いて欲しい。その予測は100%間違えていると思う 」
皆の視線がメガネ君に向かう。
「すまない、アライブ君。ピスタチオ君がテッド君とウォレン君の暴走を止められなかったみたいだ。
その予測にはテッド君とウォレン君の願望が混じっている上に、元の知能の判断基準や、入ってくる情報も偏っているのだろう。結果、とんでもない結論に至ってしまった 」
「そ、そんな……楽しみにしてたのに……」
肩を落とすヤーフル。
「待ってくれ、メガネ君。予測が正しい可能性も少しはあるんじゃないか 」
余計な事を言うカシュー。
「いや、無いんだ。アライブ君とヤーフル君の2人はエタール討伐隊なんだ。ミズガルノズの大蛇の相手はしないんだ 」
「そ……それは本当なのですか、メガネ司令 」
アライブが縋るようにメガネ君に駆け寄る。
「うん。今回の戦いの作戦の責任者は僕だ。僕は肩車して「尻から火が出て大回転 」でミズガルノズの大蛇を倒すような作戦は立てない。いや、立てられるはずが無い 」
「そうか、良かった。僕はこんな技で神話の怪物に挑む様な事はしない。しないんだ ……」
ドンドン!!
その時、客室のドアが激しく叩かれた。
「なんだい?そんなに慌てて 」
声を掛けるメガネ君。
「テ、テッドorアライブのテッド様より緊急入電」
「な……」
アライブの顔から血の気が引いた。