撤退開始編1
マッドマキシマムの救援に北部地域に向かう事になったテッドとミーネは、北に向かう街道の上空を全速力で飛行していた。街道沿いには大勢の避難民が溢れていた。
「テッドさん、すごい避難民の数ね 」
「うん、予想では30万を超える避難民が南下しているって、アライブが言ってた 」
「マッドマキシマムさん達はどのくらいいるのかしら? 」
「ウエスタン大陸にいた時は500人、今は各地の抵抗軍を吸収して2万人を超えているらしい 」
「それでも数百キロの道のりで避難民を守るのは大変なわけね 」
「2時の方向に敵発見 」
パンツの報告が入る。
「退治しよう 」
「ええ 」
二人は進路を右に60度曲げて前進する。前方から大きなトンボがたくさん飛んで来る。人間の体長を超えていて、大きな顔の口がカチカチ音を出している。
「デスドラゴンフライか!! 」
「なんか、恐いわね 」
ミーネが小さく呟く。
テッドは剣を抜き、火の出力を上げ加速してトンボの群れに突っ込んで行く。ミーネは魔法の準備に移る。
「もらった!迅雷剣 」
トンボに急接近して間合いに入ったテッドは、トンボの胴体を真っ二つにするべく剣を振った。
「何? 」
確実に切ったはずの剣が空振った。トンボが垂直に急上昇したのだ。瞬間移動の様に瞬時に方向を変えるトンボ達に囲まれるテッド。
「ふふん、囲んだくらいて勝てると思ったか。迅雷剣の新必殺技を喰らうがいい!! 」
ニヤリと笑ったテッドは、空の左手を前に、剣を持った右手を後ろに動かした。
「くらえ!!迅雷剣奥義……」
ドカドカドカンとトンボ達に火球が当たり燃え上がる。垂直に急下降しても火球は追尾して行く。逃げるトンボ達も追尾する火球に巻き込まれて燃えてゆく。
「え……」
「テッドさん、ごめんなさい。ピンチなのかと思って……」
「大丈夫。計算通りだ 」
笑顔で答えるテッド。
何がなの?と思いつつミーネは話題を変えた。
「ところで……そんなには敵が来ないわね 」
「うん、最初に獅子王軍を倒したのが大きいんじゃないかな、ただ……」
「ただ? 」
「だからミズなんとかの大蛇を召喚しやすいのかも知れない…… 」
「確かに……上手く行く事もあれば、裏目に出ることもあるって事ね……難しいわ 」
「仕方がないよ、状況は動いてるんだ。放置して傍観しているわけにも行かないんだ 」
「そうね。私達がいま出来る最善を尽くすしかないわね 」
「うん 」
二人は速度を上げて前進を再開した。
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マッドマキシマム本陣〜
「1号に会ってきたぜ 」
覆面マスクに金色のモヒカンの男、モヒカン3号、又の名をドラゴンライダー3号が前に出る。
「ご苦労だった。どうだ?奴は 」
マッドマキシマム総帥のシュラオンが立ち上がって迎える。
「ちょっと神経質になっているな。強がっている様に見えたぜ 」
「仕方がない。奴は先陣として最前線を進み、撤退戦の今は最後方だ。一番危険な場所に居るのは奴だ 」
「殿は『任された 』って言ってたぜ 」
「うむ。この重責を任せられるのは奴しかおらん 」
「そうだな……ところで、敵の襲撃が明らかに減って来ている様に見えるぞ。第3隊の巡回時に敵と会う事が、ここ数日は大幅に減っている。本来ならば増えるはずだ 」
「うむ、空からの襲撃はあるが、地上からの襲撃は殆ど無くなったと報告が来ている。あってもゾンビ系のモンスターだけだと……」
「どう見る、シュラオン 」
「遠からずミズガルノズの大蛇が来るだろう 」
「お前もそう思うか 」
「うむ、他に考えようが無い……作戦本部と共に策は立ててはある。ただし時間を稼ぐ必要がある 」
3号はシュラオンの目を見て答える。
「わかった、俺たちはお前を信じるぜ 」
「聞かぬのか? 」
「言う必要があるのならお前は言うだろう。今は言えないのであれば、仕方ないさ 」
「すまぬ。今言えるのは、少しでも来るのが遅れて欲しい。そして2号にも早く来て欲しいと言う事だ 」
「2号はどうなんだ? 」
「作戦本部からの魔法通信だと、すでにこちらに向かっている。敵と戦いながらにしろ、数日中には着くだろうとの事だ 」
「わかった。大蛇はどこら辺に現れると見る? 」
「恐らくは、殿付近だ 」
「理由は? 」
「大蛇には膨大なエネルギーが必要らしい。故に100年前は陸生クラーケンを餌にして、人族領に誘導して来たらしい 」
「そうか、エタールは街道を南下する人々を利用して、騎士王国に誘導して来るとみるか 」
「うむ 」
「悪魔だな……まぁ、魔族支配地域の出身者は皆が知っている事ではあるが……」
「3号、お主には頼みたい事がある 」
「わかっている。第3隊の本隊は殿に急行出来る位置に居よう。大蛇が現れた場合は大蛇の牽制に向かう 」
「うむ、中央に位置する我々本隊も大蛇に向かう。第1、第2、第3隊と本隊で大蛇を抑えて、残りの隊で避難民の避難を進める予定だ。その場合は騎士王国からも避難民の救援が来る手筈だ 」
「わかった、俺は行く 」
「頼んだぞ、3号 」
「お互いにな……」
3号はシュラオンの本陣から離れて、第3隊の元に向かった。




