城塞都市防衛戦1
2021.1.27
すみません。初投稿作で話の区切りが甘かった為、旧城塞都市防衛戦を整理させて頂きました。
カーン!カーン!カーン!
魔族領と接する最前線の城塞都市で警戒の鐘が鳴り響く。 この都市では防衛の為に、3つの城壁で区分されている。
中心部にあり中枢を守る内壁。貴族や資産家、高級官僚などが住み、公的施設が存在するエリアを守る中壁。多くの市民が居住するエリアを守り、都市を囲む巨大な外壁。
「警戒レベル3でーす!!、市民の皆様は家に避難して下さ〜い!!」
「モンスターが都市に侵入する可能性がありま〜す!!」
「家に避難をお願い致しま〜す!!」
都市警備隊が巡回し、市民を家に避難させる。
「きゃあああぁぁ」
外壁を超えて侵入したガーゴイルが女性に剣を振りかざしている。
3人の警備隊員が必死に現場に向かうが間に合いそうに無い。
「くそぉおおお!!」
ニヤりと笑ったガーゴイルが剣を振り下ろそうとした瞬間。
ガーゴイルの首が飛んだ。
「迅雷剣 」
雷を纏った高速剣がガーゴイルの首を飛ばしたのだ。
「テッドさん!!」
警備隊員達は歓喜の声を上げる。
「大丈夫か?羽付が外壁を超えてきているぞ 」
「すみません。北方の大森林から大量の魔牛が向かって来ているらしくて 」
「主力軍が討伐に向かっていて兵力が足りないということか 」
ブァサ……
大きな羽音が聞こえて頭上を見ると、5匹のガーゴイルが襲い掛かって来た。
「疾風剣 連撃」
連続する高速の剣撃で、ガーゴイルが命を散らして地面に激突する。
「アライブさん!!」
警備隊員達が再び歓喜の声を上げた。
カーン!カーン!カーン!カーン!カーン!
「警戒レベル5だと!!」
「外壁地域住民の中壁地域への避難。緊急事態じゃないか!!」
騒ぎ出す警備員達。
「大森林から現れた魔牛の大群のうちの一軍、推定300匹が向かって来ています。 魔牛の突進は城門を突き破り都市内に侵入の恐れがあります 」
魔法を使った緊急放送が響き渡る。
「かなりヤバイんじゃないのか?」若い警備隊員が呟いた。
「20年くらい前に魔牛100匹が城門を突き破り、都市内に侵入した事がある 」
震える声で語り始める年嵩の警備員。
「その時は魔王が魔牛を都市に誘導して、城門を破壊させて、すぐに魔王軍も攻めて来て……」
「攻めてきて……」
「この都市は陥落した……」
カーン!カーン!カーン!カーン!カーン!
再び警戒レベル5の鐘が鳴り響いた。
「西方からリザードマンの大群の進撃を確認!! 魔牛は一時間後に、リザードマンは三時間後に到着予定。援軍要請はしておりますが、最速で3日後の予定 」
皆の顔が青ざめてゆく。
「市民の皆様は至急中壁内に避難して下さい。中壁門は45分後に閉鎖します!!」
緊急放送を聞いた年嵩の警備隊員が跪いて呟く、「もう終わりだ……」
「大丈夫だ 」
発言したアライブを皆が注目する。
「俺たちにはモビーとブービーがいる!!」
たった2人で何が出来るんだ、と口々に文句を言う警備隊員達。
しかし、それを聞いた俺はふと気がつく。
「アライブ、モビーとブービーはどこに?」
アライブは笑顔で答える。
「彼らは既に戦場に向かっている 」
城塞都市出身の勇者パーティ パーフェクトオーダーは魔牛討伐軍に参加していた。
「リーダー!!そっち行ったわよ!!」魔法使いのミーネが声を上げる。
2匹の魔牛がこちらに突進してくる。1匹の魔牛を交わして、残り1匹に双刀を向ける。
「双翼剣!!」
魔牛の角を斬りとばす。
魔力がこもった状態の魔牛は、魔力を体に纏っており非常に防御力が高いので、先に角を斬りとばすしかないのだ。
角が飛んだ状態の魔牛に盗賊のパルンがトドメを刺す。
交わした1匹は、モンクのアンジーが角をへし折ってヘッドロックを決めている。
そこへ狩人のダースクが、ハートショットを決めてトドメを刺す。
魔牛退治は角を落として、トドメを刺すという二段階の作業が必要な為に、非常に時間がかかるのだ。
とはいえ、自分達の位置する中央部は陣も厚く優勢に戦局が推移している。
ドガーン!!と爆炎が起きてミーネの炎極魔法が炸裂して魔牛を吹き飛ばす。
「これなら大丈夫か。」アンジーが低く呟いたその時に左方から悲鳴が上がる。
「緋色魔牛だ!!」
ヤバイ。北方出身なら皆知っている危険生物の緋色魔牛とは、緋色の魔牛だが大きさ強さとも段違いだ。
略して緋魔牛とも呼ばれる。
緋色魔牛は単独行動を好み、通常は群れで行動する事は無く、まして大群に属するなど・・・
唯一の例外は、モンスターの上位種である魔族の影響を受けている場合のみだ。
「左翼が突破されたー!!」
左翼方面から悲鳴が上がる。
土煙と共に魔牛の大群が、城塞都市に向かって突き進んで行く。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
城塞都市に辿り着かれたら、20年前の悲劇が繰り返えされる。
それだけは断じて許すわけにはいかない。
俺はメンバーに声をかける。
「ダースク!アンジー!ミーネ!パルン!追うぞ!!」
近くにいた部隊長から馬を借り受けた俺たちは戦線を離脱し、左翼を突破した魔牛達を追った。
俺たち5人は20年前に家族を失って孤児となり、泥水を啜って這い上がって来た。そして今大切なものは、全てあの都市にあるのだ。
・
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追いついた!!!!
群れの後尾にやっと追いついた!!!
「ミーネ!!」
俺は爆炎の魔術師ミーネに極大の一撃をかますように声をかける。
ミーネはSランクの全体攻撃呪文の詠唱を始める。
「ダースク!!」
ダースクは威力の高いブレイクショットの連続打ちを開始する。
トドメを刺すのは無理だが、少しでも手傷を負わせる事が出来ればいい。
僅かでも時間を稼ぐ事、少しでも敵を減らす事が今出来る最善だ。
パルンとアンジーはミーネの護衛に回っている。
「滅せよ!!極炎獄龍波!!!」
ミーネの腕から真っ赤な炎の龍が飛び出して、魔牛の群れを蹂躙する。
「ぶぉおぉおぉ!!」
「ぶぐぁあああ!!!」
魔牛の悲鳴が各所で響き渡る。
300匹のうち、50匹にトドメを刺して50匹に手傷を負わせた感じか?
ミーネは魔力を消耗し青ざめた顔をしている。
1日1度が限度のSランク魔法なのは知っている。
しかし心を鬼にして聞かねばならない。
「ミーネまだ打てるか?」
「命を削ってでも、後1回は打つわ。」
ミーネの魔法に脅威を感じたのか、数頭の緋色魔牛がこちらに突進してくる。
「双翼剣!!」
くそっ、硬い、角が折れない。
ヒビは入っているのにしぶとい。
「ブレイクショット!!」
ボキッ!!
ダースクが角にブレイクショットを決めてくれたので、すかさず緋色魔牛の首を斬りとばす。
一頭はアンジーが力づくで押さえており、
5頭ほどをパルンが赤い布で引きつけて、遠くに離れて行っている。
青ざめた顔のミーネが再度呪文の詠唱を始めたその時に悲劇は起こった。
緋色魔牛を抑えていたアンジーが、後方から来た緋魔牛に弾き飛ばされたのだ。
パルンが悲鳴を上げる。
「右翼も突破されたみたいだ!!後方から緋魔牛が・・・」
「関係ないわ!!私達は自らの責務を果たすのみ!!滅せよ!!極炎極龍波!!」
ミーネは腕から真っ赤な炎の龍を放つと力尽きて倒れこんだ。
再び炎の龍が魔牛の群れを蹂躙する。
「ぶぉおぉおぉ」
「ぶぐあぁあぁああ」
魔牛の悲鳴が響き渡る。
最初の群れの半数だけでも行動不能に出来るか?
5頭の緋魔牛に追われていたパルンは緋魔牛、魔牛合わせて50頭近くの魔牛に追われている。
パルンを除いて俺達は、魔牛の大群に完全に囲まれていた。
「アンジー、ダースク、俺たちはここでミーネを守るぞ 」
「うむ」
血塗れのアンジーが短く答える。
「あぁ、わかっているさ 」
ダースクはいつもクールだ。こんな時でもだ。
「パルン!!お前はこのまま離脱して城塞都市に備えるように伝えるんだ。俺たちは僅かでも時間を稼ぐ 」
「駄目だ!!リーダー!!みんな死んでしまう・・・俺だけ生き残っても、どうすりゃいいんだよ!!」
「俺達は常に最善を尽くす。それがパーフェクトオーダーだ。パルン、お前の最善を尽くせ 」