ブレインマッスル ウィザーズ編1
南部都市サウザーに向かう予定のウルフンは、グレティ姫と共に調練場に向かった。そこではグレティ姫直属の秘密部隊が待っている。南部都市サウザー救援に共に向かうのである。
調練場の扉が開き、グレティとウルフンの姿が現れる。2人1組で組手をしていた隊員達の動きが止まった。
ブァサッ!!
『 頭戦士 』
『身体軍師』
の旗が左方で上がる。
「ブレインマッスル〜 」
隊長代理の大声が響き渡る。
『「『「『ウィザーズ!! 』」』」』
総勢100名を超える隊員のハモリが調練場に響き渡った。
「姫様、お待ちしておりました 」
ガタイの良い筋肉質のスキンヘッドの男が前に出た。その顔の頬には大きな刀傷があった。
「ブーマー隊長代理、調練は順調みたいね 」
「はっ、地獄のトレーニングを繰り返して、鉄の心を持った魔法使いを更に鍛えておりまする 」
「ちょい待ち!皆さん、魔法使いなんか!! 」
ウルフンは頭は戦士で身体は軍師部隊の皆を見渡す。
「ふふふ、ウルフンさん。彼らは騎士王国の魔法使いなの 」
「信じられへんな……ムキムキ集団やないか 」
白いTシャツ、黒い長ズボンが筋肉ではち切れんばかりとなっている隊員も多い。そうで無い方が少数派だ。
「彼らは元々優秀な魔法使い。しかし、レベルが上がれば上がるほど成長が鈍化してしまう段階まで成長してしまったの 」
「確かに、50点を70点にするより、90点を100点にする方が難しいわな 」
「しかも、魔法使いは前衛の戦士達が破れた場合、死傷率が一気に上がってしまうの。魔法で全距離で戦えるSランクの魔法使いなんてほとんどいないわ 」
ウンウンと頷くブレインマッスル ウィザーズ。
「近距離の乱戦になった場合は部隊ごと全滅する事も多いの。もしくは恐怖に負けて、味方を置いて逃げだす事も……私は悩んでいました 」
グレティ姫は遠くの空を見上げる。
「そんな時でした。モビー様とブービー様の会話が聞こえてきたのです……
『ブービー先生、戦士の理想形の"頭は軍師で身体が戦士"とは、頭脳明晰な戦士の事でしょうか 」
『そうですね。冷静沈着な戦士は貴重ですからね。どうしても、最前線で戦う戦士は興奮気味で熱くなってしまいやすいですからね 』
『では、冷静過ぎる魔法使いは脳みそが筋肉ぐらいが丁度いいんでしょうか? 』
『モビー君。それは面白いかも知れませんね 』
『頭は戦士で身体は軍師部隊……なんてどうでしょう? 』
……私はその話を聞いて思い付いたのです。頭脳明晰な戦士部隊と、不屈の根性を持った魔法使い部隊を……」
グレティ姫が語り終わり、ブレインマッスル ウィザーズの面々を見渡した。
ブァサッ!!
『 頭戦士 』
『身体軍師』
の旗が右方で上がった。
「ブレインマッスル〜 」
隊長代理の大声が響き渡る。
『「『「『ウィザーズ!! 』」』」』
総勢100名を超える隊員のハモリが調練場に響き渡った。
ウンウンと頷くグレティ姫。
「ちょ、ちょい待ち。名前はよくわからへんけど、実力の方はどうなんや?魔法使い部隊単独で行動して大丈夫なんか? 」
「ブーマー隊長代理。ウルフン様にアレを見せて差し上げて下さい 」
「畏まりました、姫様 」
ブーマー隊長代理は部下を呼んで何か指示を出した。
1人の隊員が前に出て来る。
ボサボサの髪に無精髭。少し眠そうに見える。武器を持っているようには見えない。
ブーマー隊長代理は部下に指示を出す。
「格闘戦用ゴーレムAランクを出してくれ 」
「格闘戦用ゴーレムAランクって何や? 」
「戦士ランクAに匹敵する格闘戦能力を持つゴーレムですわ。ウルフン様 」
「魔法使いでAランクの戦士に格闘戦は無謀やないんか? Aランクの戦士って熟練の達人クラスやないか 」
調練場の扉から3mはあろうかという大きな金属製のゴーレムが出てきた。
「ちょい待ち!!さすがに無理やで。普通の戦士でも勝ち目が無さそうやで 」
「ふふふ、ウルフンさん。彼の名前はムサイ。年は39歳。万年魔法使いランクCの冴えない男だった 」
「人の話を聞かんかい!! 」
「でも彼は変わった……」
「いや、変わってない気がするで 」
「ふふふ、見た目じゃないわ。彼はブレインマッスル ウィザーズと出会って心が変わったのよ 」
「どういう事や? 」
「これ以上の説明は不粋ね。ブレインマッスル ウィザーズに言葉はいらない。ただ実行あるのみ 」
「大丈夫かいな。戦士や剣士だって武器や防具無しでは相手にならんで。ましてCランク魔法使いじゃ無理やないか 」
「試合開始!! 」
審判役の隊員が開始の合図を出した。




