マッドマキシマム編2
セントラル大陸北部から南西部に向かう街道には大勢の難民が溢れていた。マッドマキシマムなる武装集団が地域一帯の都市や村を占拠、破壊し、人々を追い出していったのである。
「の、喉が渇いたわ……」
先程、町から追い出された年配の女性がふらふらしながら倒れこんだ。
ピーっ!!
甲高い笛がなった。女性の元に銀髪で赤マントのソフトモヒカンがやって来る。髪型は少し残念だが、目を見張る美形だ。その手には水筒があった。
「マダム、これを飲んで下さい 」
ゴクゴクと水を飲むマダム。
駄目かな……銀髪のモヒカンは胸ポケットから警笛を取り出した。彼は警笛を口に加えて強く吹き込んだ。
ピッピッピー!!
騎馬に乗ったモヒカンが近づいて来る。
「どうしました?シルヴァルト様 」
「うん。こちらのマダムは体力の限界だね。近くの馬車まで送り届けて欲しい 」
「畏まりました 」
騎馬のモヒカンはマダムを乗せて走り去って行った。
シルヴァルトは騎馬を見送ってから、生命力探知の魔法を唱えた。周辺1km内には敵はいない。しかし、避難民の中で体力が尽きかけている人々が増えている。
元々、無理に無理を重ねた計画ではある。しかし問題を前に放置は出来ない。今、自分の権限で出来る事は……
「副隊長、来てくれ 」
「はっ 」
紫色のモヒカンの優男が近づいて来る。彼のモヒカンは前にしなだれて片目を隠している。
「シュラオン様に伝令を頼む。今日の移動の中止依頼だ。当初の予定より少し早いが避難民の体力が厳しい。各隊は、各所の避難民キャンプの警護に、我々第7隊はキャンプ地に着く体力の無い人々の救護や移送を受け持つ 」
「畏まりました。シルヴァルト様 」
副隊長は一礼をして去って行った。
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「もぅ、ダメだ……」
幼い子供を背負った男性がふらふらしながら座りこんだ。
覆面マスクのモヒカンが、大柄な2人のモヒカンを連れて近づいて来る。
「悪いな。こんな道の真ん中で休まれたら、皆の迷惑になるんだよ 」覆面マスクのモヒカンは座りこんだ男性のアゴを掴み上げる。
男性は悔しさに震え上がる。
「けっ、悔しいんだったら強くなるんだな 」
覆面マスクのモヒカンは子供を男性の背中から引き剥がす。
「父ちゃん!! 」
子供が叫び声を上げる。今にも泣き出しそうだ。
覆面マスクのモヒカンは大柄な黒髪のモヒカンの背中に子供を乗せた。
「アーガイ!子供を離すなよ。ウーガイ!親父を背負え。3km先に避難民キャンプが用意しているはずだ。
二人でこいつら送り届けろ!! 」
アーガイはゆっくりと首を振る。
「モヒー・カーン様、我々は一番隊隊長であり、切り込み隊長である貴方の護衛です。置いてゆくわけには行きません 」
「けっ、俺に護衛なんていらねーよ!!とっとと行きやがれ!! 」文句をつけながらモヒカンを後ろにズラすモヒーカーン。
「俺様のモヒーカッターの切れ味を知りたいのかよ……」モヒーカーンはモヒーカッターを取り外し、ゆっくりと舐める。
カッターとは名ばかりのモヒカンを舐めるモヒーカーンを見て、背中に寒気を感じるアーガイとウーガイ。
「わかりました。送り届けたら、すぐに戻って参ります。どうか無理をなさらずに 」
「とっとと行けや!! 」
モヒーカーンは二人を怒鳴りつけて、モヒカンを地面に叩きつけた。
けっ、イライラさせやがる。何もわかっちゃいねーぜ。チンタラする暇はねーんだよ!!
「隊長!! 」
「おう!どうしたリッキー副隊長 」スキンヘッドにモヒカン風の入墨を入れた男が隊員を引き連れて、近づいて来る。見かけはヤベーが仕事の出来る男だ。
「避難民の街道への誘導が終わったぜ。俺達が街道の一番後ろだ 」
「ご苦労だった。じゃあ、とっととキャンプインするとしようぜ!! 」
「おう!! 」
リッキーとモヒカン達が声を合わせた。
モヒー・カーン達は黙々と森に挟まれた街道を南下する。途中で動けなくなった人がいたら、隊員に背負わせているのでスピードはゆっくりだ。
先程すれ違った7番隊の救護騎馬隊員からの情報だと、最寄りのキャンプ地には1000人近い人々が集まっているらしい。
「狼煙だ!! 」隊員の誰かが叫んだ。キャンプ地と思われる辺りから緊急要請の狼煙が上がっている。
「隊長!!あれを!! 」
リッキーが街道から離れた森を指差す。
森の木の上から何かが飛び出している。
「ド、ドラゴンが……さ、三匹?」
巨大なドラゴン達はバキバキと森を破壊しながらキャンプ地へと向かっている。ドラゴン達の周りには黒い何かが纏わり付いていて姿がハッキリしない。
「よく見えねーな。なんだあれ? 」
「なんか……モヤモヤした黒い霧みたいなのがついてねーか? 」
「まさかドラゴンゾンビじゃねーのか、あれ 」
騒めき出す隊員達。
「隊長……」
「どうだリッキー?」
「奴らはドラゴンゾンビだ。俺達にかなう相手じゃない。だが、ドラゴンゾンビ達がキャンプに着けば……
避難民達は皆、食い殺されちまう……」
「隊長、援軍を呼んできましょう!! 」
「そうだ、俺達にかなう相手じゃねーよ!! 」
「最初から全員助けるなんて無理だってわかってたんだ。俺達の死に場所はここじゃねーよ!! 」
「隊長、ここからじゃどちらにしろ間に合わない。援軍を呼びに行くか、避難路の確保に回るしかない 」
モヒー・カーンは皆を睨みつける。
「馬鹿野郎……もう一つ手があるじゃねーか……」
モヒー・カーンはそう言いながら、ゆっくりとモヒカンを後ろにずらした……