100年前の大戦編32 出立
「烈火!! 」
デクストの極炎魔法がガーゴイルの集団を巻き込んで燃え上がる。
デクストは右手で額の汗を拭った。ガーゴイル自体は弱いモンスターだが、いかんせん数が多すぎる。このままでは遠からず魔力が尽きてしまうだろう……予定よりだいぶ早いが後陣と交代の必要がある。空からは次々とガーゴイルが降りてくる。
「デクスト殿!! 」
エルフのサーバントが呼びかけと共に矢を射る。
「ぐえっ!!」
デクストの後ろから襲いかかろうとしていたガーゴイルに矢が突き刺さった。
「サーバンツ殿、助かりました 」
「デクスト殿、魔力は持ちますか? 」
「いや、そろそろヤバいですな。ランティ殿に撤退の進言をしたい所です 」
「うわぁあああ 」
フィフが大声で叫びながら駆け寄って来た。その背後には10頭ほどのガーゴイルが迫って来る。
フィフはデクスト達の元に辿り着くと、振り向いて爆弾を投げつける。
ドガーン!!
ガーゴイル達が砕け散った。
「二人共、どうしたんだい? 」
「フィフ殿、ランティ殿はどちらにいます? 敵の数が多すぎるので、一度城に戻って体制を立て直したいのです 」
「さっき、ヴァルグと一緒に蛇の頭の方に向かっていたけど……そうだね。オイラも賛成だ。ランティ達の所に行って……痛たたたっ!! 」
フィフの右足に激痛が走る。何か黒っぽい物が右足に取り付いている。
「サーバンツ殿、ガーゴイルを頼みます。
フィフ殿!! 動かないでください!!纏炎 」
デクストは自らの右拳に極炎魔法を纏い、フィフの右足に取り付いている物を掴む。ジュッと燃え上がる黒い物体。フィフの右足は血塗れになっていた。
サーバンツはガーゴイルを撃ち落としながらフィフの足を横目で見る。
酸か?……サーバンツは小さな小瓶を懐から取り出した。「デクスト殿、エルフ特製の塗り薬です!! 」小さな小瓶をデクストに放り投げる。
左手で小瓶を受け取ったデクストは、火を消した右手で蓋を開けて、フィフの右足に薬を塗り込む。
「フィフさん、痛そうですが少し我慢して下さいね 」
「???」
激痛に耐えるフィフの目に、デクストの後ろの何かが黒く盛り上がるのが見えた。フィフは激痛に耐えながら声を絞りだす。
「デ……デクスト……後ろ……」
振り返るデクストを黒い山が覆いこむように倒れこんで来る。
「烈火!! 」
振り返りざまに極炎魔法を放つデクスト。黒い水の様な山がグニャっと歪んで魔法を躱す 」
「な!! 」
そのまま黒い水の様な山がデクスト達を覆いこむかに見えた瞬間。
「紅炎!!」
真紅の炎が燃え上がり、黒い水の様な山を燃やし尽くす。
「ナレジン先生!! 助かりましたぞ!! 」
ナレジンとイルスが上空から降りて来た。
「デクスト……ああいう不定形の敵には絞らずに面で攻撃しろと教えたはずじゃぞ 」
「す、すみませぬ。そうでした。つい……威力を出そうと焦ってしまいました 」
「まぁまぁ、ナレジン殿。時間が無いので後にしましょう 」イルスがナレジンの肩に手を置いた。
「そうじゃな。デクスト、騎士王国の城壁地帯までの撤退が決まった。まずは城まで戻るんじゃ 」
「わかりました。それでは皆を集めて……」
二人から目を離してイルスは考える。今の敵は一体何だったのかと……
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城内
「騎士王様!! 」
「おぉっ、ナイト。戻ったか 」
「はい 」
「ナイト班はリヤやティーダ殿達を連れて、第1陣で出立じゃ。先陣を頼む。リヤ達はもう裏門に集まっておる。ついたら直ぐに出るのだ 」
「わかりました。騎士王様達は……」
「儂は殿の第3陣を務める。儂達は必ず大蛇を食い止める。必ずだ 」
騎士王は厳しい顔で、ナイト班の面々を見渡す。
「お主達は、リヤやティーダ殿を必ず城壁地帯まで送り届けるのだ。たとえ他が全滅してもお主達が城壁地帯まで辿りつければ人族に希望は残る……
後ろに何があっても振り向くな。前だけを見て進むのだ。……エイド 」
「はっ!! 」
エイドが前に出る。
「今まで長きに渡って儂を支えてくれて感謝しておる。今度は同じ様にナイトやリヤを支えてやって欲しい 」
「承知致しました。騎士王様 」
エイドは強く頷いた。
「ナーシュ殿、ジーン殿、フラット殿。ナイトやリヤを頼みます 」
頭を深く下げる騎士王。
「はっ、命に代えまして 」
3人も深く頭を下げた。
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城壁上にて
「光瀑布!! 」
リアムの光の弓の連射が、ガーゴイルを次々に撃ち落とす。率いるエルフ達も射撃を続けている。
「リアム様、ナレジン殿やイルス殿がランティ班を連れて戻って来たそうです 」
伝令兵がリアムの元に来る。
「わかった、第1陣はまだ出立中だな 」
「はい、3000の兵が騎馬隊と馬車での出立ですので……」
「シャード殿達に伝えてくれ。第2陣のエルフ部隊は後方で出立中の第1陣の援護射撃に移る。私は一度騎士王の元に向かう。私が戻り次第、エルフ部隊も第2陣の元に行こう 」
「承知しました 」
伝令は一礼してシャードの元に、リアムは部下に指揮を任せて騎士王の元に向かった。