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氷の魔王編1

「くくく、くっくっく……遂に、遂に大魔王様より、魔王を名乗る事を許された…… 」


 真っ暗な夜の中で宙に浮く男。肌が透き通る様に白いが、見た目は人とほとんど変わらない。


「さて、私の支配予定地はあの村か。みすぼらしい村だが……まぁ、いい。私の力で発展させて、いずれ町、最終的には国に変えてみせる 」


 男は強く(うなず)くと、闇に姿を消した……




 その村の名はマイナー村。人口200人余りの山中にある小さな村。主要な産業は猟師と木こりである。


「お〜い、アライブ。イノシシがそっちに行ったぞ!! 」


 山中で若い黒髪の男が、もう1人の男に声をかける。


「任せて!! 」

 金髪の青年が弓を構えて、猪の眉間(みけん)に狙いを絞って弓を引いた。


 ズドン!!矢が猪の眉間に突き刺さり、猪はその場に倒れこんだ。


「さすがアライブ。この前、領都(りょうと)で受けた冒険者登録試験で一番になっただけあるな 」


「弓は子供の頃から引いているからね。そういうテッドだって障害物持久走の試験は一番だったじゃない 」


「ふふん。水たまりがあったり、落とし穴があったり、バナナの皮が落ちてたり……普段から運が悪い俺を、あの程度では止められない 」


 黒髪の青年は笑顔になった。地味な顔ではあるが整っている。


「そうだね。巻き込まれ体質のテッドの異名は伊達じゃないもんね。さぁ、明日の晩御飯はイノシシ鍋だ。みんなが待ってる、急いで帰ろう 」


「おう!! 」


 金髪の美青年と黒髪の地味な顔の青年はイノシシを抱えて村に向かった。その頃、村では呼ばれてもいない客が広場に村人達を集めていた。




「こんにちわ。皆さん。私の名前はフリーチェ、今日からこの村の支配者になったものです 」


「新しい村長? 」

 小さな女の子が首を傾げる。


「え、ワシは聞いておらんぞい 」

 白いひげの老人が前に出た。


「村長、居眠りしてばっかりだからクビになったんじゃない 」


 ワイワイと盛り上がる村人達。


 パン!!


 フリーチェは手を叩いた。


「お黙りなさい。村長などと言う下っぱ役人と一緒にしないでもらいたい。私の名前は小魔王(しょうまおう)フリーチェ。いずれ、大魔王になる男です 」


「し、小魔王? 」


「くくく、先日、大魔王様より、魔王を名乗る事を許されたのです。まずはこの村を発展させて、街に変えてみせましょう。

 皆さんには死にものぐるいで働いてもらいますよ。私はまったり小魔王ライフを楽しむのです 」


「馬鹿な事を抜かすんじゃねぇ!!」

 ガタイの良い男達が前に出る。その手に斧を持った木こり達だ。


「何が小魔王だ。村長と変わらねーじゃないか!! 」


「何ですと!!このフリーチェ様を村長扱いですと!!」フルフルと震えるフリーチェ。


「やっちまえ!! 」


 木こり達が一斉にフリーチェに駆け寄る。


 しかしフリーチェは落ち着いて、右手を横に伸ばし奇妙な動きを始めた。


「空黒く、大地よ凍てつけ!!氷雪魔法!!氷の大地(ランド オブ アイス)!!」


 手を前方に掲げるフリーチェ。


「!!! 」


 木こり達の動きが止まる……そして、ゆっくりと身体を確認する。異変無し。


「びっくりさせやがって!! 」


「愚かなり木こりABC以下略。言葉一つで敵の動きを止める私は、まさしく天才 」


「ふざけんな!! 」

 怒った木こり達が斧を振り上げてフリーチェに迫る。


 そして勢い良くすっ転んだ。


「くくく……足元が凍っているとも気がつかずに……」


 木こり達に近づくフリーチェ。


「そうですね。貴方達には力仕事をしてもらわねばならないので殺すわけにはいきません……そうだ。あの魔法で良いでしょう 」


 フリーチェは木こり達に右手を向けて、左手を奇妙に動かす。


「青き事、深き海のごとく、白き事、雪山の如し、氷雪魔法!!背中が寒い(バックイズコールド)!! 」


 急激な背中の冷えに震えだす木こり達。


「くくく……私への悪意に反応して寒さが増すようにしました。貴方達は一生、私の言いなりです。まぁ、私を倒す事が出来れば魔法は消えるのですが、そんな悪意を持ったら寒さで死んでしまいますよ 」


 そして、フリーチェは村人達を見渡した。


「皆さんには……そうだ。あの魔法にしましょう……

 ただ、その前に……」


 フリーチェは村長を見つめる。


「こんな小さな村に村長は2人も入りません。元村長として氷のオブジェになって下さい 」



 ・

 ・

 ・


 翌日、村の入口


「なぁ、アライブ。なんだろう?この変なオブジェは。村長が氷の中に入っているぞ 」


「う〜ん……何だろうね。リアルだね。銅像の代わりに氷のオブジェを作ったのかな…… 」


「だったらキリッとした顔で作れはいいのに。すごいビックリした顔で作られても困るぞ 」


「誰かに聞いた方が早そうだね。おーい。ウォレン君!! 」


 アライブは、近くを通った10歳くらいの男の子に声をかけた。


「あ、あ、アライブさん、テッドさん 」


 疲れ果てた少年がやって来る。


「何なんだ?このオブジェは? 」


「なんか魔王を名乗る変な魔族が現れて、村長の座を奪って、村長を氷漬けにして、みんなを山から出られなくなる魔法まで……」


「何だって!! 」


「その魔族は今、どこに 」


「なんか、まずは巨大なリゾート村にするとか言ってて、今日はスキー場を作りに行くとかで山頂に行ってます 」


「スキー場を作る? 」


「はい、『普段使っている魔法がショボく見えるのはケチだからじゃない、大事な時に大魔法を使う為だ 』とか言ってました……『くくく……私は本当にすごい魔王なのです 』って 」


「魔王か……冒険者成り立ての俺達だけでは厳しい相手だな 」


「一度、領都に行って応援を呼ぶしかないね 」


 ウォレン君の顔色が曇る。


「でも……村長の氷のオブジェの魔法の魔力調整に失敗したらしくて……永遠に氷の中で生きられるはずが、あと一週間の命だって、残念ですって…… 」


「え??一週間?? そんなに短いの?? 」


「はい…… 」

 泣きそうになるウォレン君。


「どうしよう?テッド。領都から応援を呼んでくる時間は無いけど、僕たちだけで勝てる相手では無いと思う…… 」


「……村長を見捨てる事は出来ない…… ウォレン君、奴の話をもっと聞かせてくれ 」



 ・

 ・

 ・


 スキー場を作り終えたフリーチェはご機嫌だった。魔力を大量に使用したが、絶景の中のスキー場が出来たのである。

 人々をワンサカ集めて奴隷にして、さらに村を発展させるのである。夢の第一歩が完成した。


 村長の屋敷に入り執務室に戻ったフリーチェは机の上の紙を見て驚いた。


『木こりは預かった。返して欲しくば、スキー場をよこせ。中魔王(ちゅうまおう)より 』



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