彼らの話と私の話
前回の後半部分、大分変更しました。
まだ書きはじめたばかりでPVは少ないですが読んでくれた人がいれば、再度読んで確認して頂ければ幸いです。
大筋の設定は考えていますが、詳細部分は曖昧なので、今後も修正する事があると思いますが、できる限りそうならないように頑張ります。
場を改めて話すと言う事で、不本意ながら焚き火をしている場所の丸太に座り向かい合っている。
お互いに居心地の悪い空気感が漂っている。
その空気をどうにか断ち切り話し始めた。
「では改めて。俺はカイン。黒鷲と言う名前のパーティの一人で、リーダーを務めている。」
そう語ったのは、短い黒髪でガタイの良い三十代くらいの男。
私が駆けつけた時に既に気絶していた一人。
そして、切り掛かってきた張本人。
「私はこのパーティで弓や魔法を使う後方支援役。名前はサリア。よろしくね。」
明るい金髪で、尖った耳が特徴的。
女性らしい体型で背は低めだろうか。
この人もあの時既に気絶していた一人だ。
よろしく。といわれてもそんなつもりはさらさらない。
「自分は前衛のリカルドです。」
一番背が高いだろうか。
茶髪で爽やかそうな見た目。
二十代前後だろうか。
彼らの中で一番若い。
「で、名前教えてくれるか?」
「ない。」
「えっとナイ…ちゃん?」
「違う。名前が無い。」
一瞬顔が曇るのが見えた。
名前が無い。
そう言えばそう言う反応をされるだろう。
わかっている。
でも本当に私に名前はない。
「ナルって呼べば良い。そう言われてた。」
代わりにナルと呼ばれていた。
当時の記憶はあまり思い出したくないが、一時的に呼ぶだけなら我慢しよう。
「そうか。なら今後そう呼ぼう。でだ。まずは重ねて謝らせてもらう。さっきはすまなかった。」
その言葉に三人揃って頭を少し下げている。
その後彼らが話した内容は次の通りだ。
まずは切り掛かった事について。
人じゃない魔素を感じたという事。
それが膨大な量でそんな物が近付いてくるという事で警戒していた。
人の魔素なら波長から分かるから間違えるはずもないのだが、感じた物が大き過ぎて見逃したのだろうと言っていた。
そしてアルとエルを見て彼らからあれ程の魔素を感じないが確かに多くの魔素を持っているようで彼ら二匹分を一つと勘違いしたのでは?という話になった。
怪我が治るまで。の内容としては、カインが肋骨を数本やっているらしい。
何故そんな体で切り掛かってきたのかを問いたい。
ともかく、元々盾役じゃないリカルドが、後学として盾役を勉強したいという事で、盾役をやっていたらしい。
だが、この森に踏み入った時に魔物を引きつけきれず、サリアへと突進して行った。
サリアを庇う為にカインが割り込みモロに攻撃を受けたとの事。
吹っ飛ばされた先で当たりどころが悪く気を失ったらしい。
サリア自身も骨はやってなくとも打撲をしている。
彼ら側の話はその程度だ。
「今度は君の話を聞いても良いか?」
「何で?」
「君がここに俺たちが居ていいと許してくれようがくれまいが、聞いていた話と大分違うものでな。場合によってはここ一帯についての情報も報告しないとならないかも知れない。」
その言葉に私への影響をふと考える。
が、影響は出ない。
ここ一帯の情報が無さすぎる故に少しでも情報を持って帰る事と、伏せるべき事は伏せて置く事を約束しようと言われた。
ある程度は答えてもいいだろう。
そう思いその旨を伝える。
「ありがとう。」
「ならここからは私が聞こうか。」
「頼んだ。」
彼らはアイコンタクトを取りながら、ここから先はサリアが話す事になった。
女同士なら警戒も薄れるかも知らないという事だろうか。
「この森の噂。ナルちゃんは知ってる?」
「噂?」
「そう。ここは魔女の森って呼ばれてる。十数年前までは特別な名称は無かった。なのにいつからか魔女の森と呼ばれ始めたの。」
「魔女・・・」
「もともとここはリグァーテの森の奥地。なんて呼ばれてた。なのに奥地の事を魔女の森と呼ぶようになった。魔女に会えば呪いをかけられる。とか、災いを呼ぶから森に住まわせた。とか色々。」
「知らない。この森で人に会ったのは初めて。」
「なら、魔女はあなたを指してる・・・?」
「だとしたら、見た目の情報と一切共通点が無いぞ。」
「自分たちが聞いてるのは醜い年寄りだと。」
「でも噂は噂でしょ?間違いのない噂なんていくつあるのやら。」
魔女。
嫌な響き。
思い出したくないのに引き出されてくる。
呼吸が薄くなるのが感じられる。
落ち着け。
彼らが敵意を持って言ったわけじゃないだろう。
「どうかした?大丈夫?」
さっきまでの怒りはどこへ行ったか。
心が暗く染まる。
顔が青ざめてしまっているのだろう。
彼らに心配されてしまった。
「だいじょうぶ。」
どうにか平静を取り繕う。
彼らに見せていいのだろうか。
思い出したくない過去が少しずつ蘇っていく。
いや、見せてしまって嫌われてしまえばいい。
そうすれば早く出ていくだろう。
少しの我慢。
そう。少しの我慢で後はいつも通りの日々に帰る。
それでいいじゃないか。
左腕を覆っていた皮の手袋に手を掛ける。
「魔女。と呼ばれるのは多分これ。」
震える声と震えた体でその左腕を彼らの目に晒した。
その差し出された左腕を見て、彼らは息を飲む。
呪いに染まった左腕。
その色は人の肌の色をしていない。
酷く禍々しく暗い色。
見ているだけで怖気が走る。
「これは・・・いや。サリア。どう見る。」
「・・・見た感じ宿主の魂を貪り闇に落とす呪い。なのにその効果が発揮されてないのか、どこかに流れてるのか、とても不自然に感じる。後、これ。」
サリアが指さしたのは呪われた範囲とそうでない白い肌をした境目。
丁度二の腕の半ばくらいに、リングのように生え並ぶ鱗。
「鱗・・・なんでこんな場所に?」
「分からない。けど、龍の鱗だとしたら?」
「人の身に鱗を授けたなんて聞いた事がないが。」
「それもそうだけど、龍鱗持ちだと仮定すれば、こんな少女が、魔物二匹を従えてこの森で生き延びられるとしたら、理解できる根拠だと思うけど。」
「確かに・・・そうかもな。」
「でも、龍の鱗を授けられているのに呪いが晴れない。それはどう見るのですか?」
「鱗に関して私も全て知るわけじゃないわ。でも、くすんだ色。それがキーだと思う。不完全な契約をしたのかも・・・」
「龍との契約が不完全なままに鱗をその身に持つってのか?」
「多分。専門家じゃないから、あくまで憶測よ。」
「これもまた仮定だが。不完全な契約だとヤバくないか?」
「ええそうね。不完全な契約は、身を滅ぼす。龍の力を受け入れるための術式がかかってないままに流れ込み続ければ・・・」
「内側から崩壊する。」
どうして彼らは驚きはしたものの冷静に分析しているのか。
怖がって逃げてくれればよかったのに。
彼らの話は私の腕を観察しながら。
そして、私の耳に届くか届かないかの声量で話し合われている。
逃げてくれない。
それはどっちを意味するのだろう。
私を敵とみてここで戦う事になるのか。
それとも。
いや、一度切り掛かられた。
警戒は緩めない方がいいだろう。
そうは言いつつも、怒りはあの時点で消えていて、それが帰ってくることもない。
寧ろ心の中は不安が支配している。
そんな不安げな私をよそに彼らがこっちへと向き直る。
話し合いが終わったらしい。
「ナル。どうやら君の状態は危険だ。できれば、俺たちと一緒に森を出て欲しい。」
彼らが話し合っていた内容を簡潔に聞かされる。
そして、呪いは聖女しか解くことのできない強力な物であるという点。
解いても龍の契約を正さなくてはなんにせよ先はないと言われた。
自分の身が危険な状態。
そんなつもりはないのだが、自覚症状が出たら、もう数日。というところまできたと言えるだろうと言われた。
「長く生きて何になる?」
その言葉に彼らが眉をひそめる。
「多分五才。そのころに森に放り出された。生きているのは運がいいと思う。けど。この森が全て。他に何も知らない。」
私はそう続けた。
何も知らない。
長く生きて何になるのか。
死ぬのは怖い。
だから生きてきた。
でも、長く生きて何を求めるのか。
長く生きて何をするのか。
その日その日を生きているだけの私は、明日を求めた試しがない。
森を出る。
正直簡単な話だ。
貧しい生活をしなくとも、森を出て人の世界で生きればいい。
記憶のどこかに冒険者や傭兵というものならば技術次第で誰でもなれると覚えている。
そうなればいいだけの話だ。
ならば何故今までそうしなかったか。
生きることに必死だった当時は泣きながらもその日を生き抜いていた。
森への知識が増えて、当然のように生きられるようになって、心的に余裕が出来てきた。
それでも森を出ようと思えなかった。
忘れていても、深層心理がそうさせていた。
人の営みの輪の中に私は入ってはいけない。
災いを呼ぶのだと、そういわれていた。
魔女だと。呪いの子だと。
彼らの口から魔女と言われて思い出され始めたあの日の記憶。
思い出されただけならまだしも、外へ行こうと誘われる。
不安が恐怖に変わり始めている。
「いや、今こんな話をするべきじゃないか。ナル。俺たちは、怪我が治るまでここにいていいか?」
そうだ。今は彼らがいていいかどうかだ。
外の話は忘れてしまえ。
暗くなっていた心をどうにか切り替えよう。
彼らが私の心配をしてくれているのは分かった。
本心で言っているのは分かった。
謝っていたのも本心から。それで間違いないだろう。
私の邪魔をされなければ、一旦は置いてもいいだろう。
「分かった。治るまで。いればいい。」
「すまない。感謝する。図々しいが、外に出る話を考えておいてくれないか?怪我が治って森を出ていくまでに。」
「・・・約束できない。」
そういうと彼らが声をかけようとしてきたので、私はその話から逃げるように森へと入っていった。