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砂時計

私は不老不死であり、大学教授だ。

生まれは1914年の現在104歳。第一次世界大戦開戦の年だ。

それなりの山あり谷あり紆余曲折の人生を歩んできた。

しかし人生は思わぬ方向へ舵を切る。

いつ人の範疇を超えて何故このような体になったのか原因は未だに謎であり、両親はとっくの昔に死んでしまっていて聞くあてもない。

しかし確かにいつのまにか私は不老不死と化してしまっていたのである。



それに気づいたのは梅雨時期の土砂降りの日だった。

道路がひどく濡れており足を滑らせ盛大に転んでしまった時だ。

全身をひどく打ち、手のひらを擦りむき引っ掻かれたような傷ができてしまい物凄くすごく痛かった。しかも恥ずかしかった。

絆創膏買わなきゃとか考えているその時段々と傷が段々と消えていくのである。

タオルが乾く様をタイムラプスで撮るようにみるみる治っていった。勿論痛みも引いていく。

「何じゃこりゃああああああああ!」

歩道のド真ん中で大声で叫んだのはいい思い出だ。

それからというもの、病気や怪我、老化や死とは全くの無縁の存在となり世間一般的な不老不死としての道を歩んでいくこととなった。




話を現在に戻そう。

私はなんだかんだあって今大学教授をしている。私の事を不老不死だと知っているものは大学内に一人だけいて、その人のおかげで教授という大層な職を与えられている。

歴史文化を主に教えており、104歳分の知識と経験を総動員して研究に励んでる何とも健気で可愛い不老不死のおっさんなのだ。




今日もせっせと自分の部屋でエニエスロビー編片手に仲間の大切さを感じている。

「失礼しまーす...って何やってるんですか教授」

入室してくるや否や私の趣味に不満でも持つかのような、いや絶対持ってる呆れた表情をしている彼女は新田未来子大学2年生。私の生徒である。

偉いことに毎回講義にはちゃんと出席しているのだが、テストの点数は芳しくなく講義中いびきかいて気持ちよく寝てたり私が見てない(と思っている)瞬間お菓子を素早く食ったりする小学生みたいな子なのだ。

「提出課題持ってきたんで置いときますね。」

そう言って立ち去ろうとしたその時私はある重要なことを思い出した。

「まて新田。お前今回のテストやばいぞ......留年...かもな」

新田が壊れたゼンマイで動くタイプのおもちゃのようにゆっくりとこちらを振り向く。

「へ?私......解けてませんでした......?」

「解けて無いから言ってるんですよ新田さん......」

諭すように言った。

しかし私はすごくすごく優しいのだ。

「レポート倍にしてやるからそれでせいぜい留年回避するんだな」

新田は泣き目で

「生きだい!!!」

とか言って部屋から出て行った。




その後、私はタバコを買いに通りを挟んですぐのコンビニに行った。

箱の下部に書いてある有害性を説く文を読んで不老不死だからタバコは有害じゃありませーんとか思いながら帰っていると、新田がある男となにか話しをしていた。

スーツ姿の外国人。

案の定英検三級の新田は英語を喋れず謎のジェスチャーを繰り出しながらタジタジしていた。

見兼ねて声をかけようとしたその時、いきなりスーツの男が新田の腕を引っ張り出した。

新田は

「あわわわわ」

とか言いながらされるがままだ。

私は思い切り外国人を蹴り飛ばした。

これは正当防衛だ。

新田がこのまま連れ去られるのはまずい。彼女にはレポートを書いて貰わないと私も色々面倒なのである。

「何なんだお前!警察呼ぶぞ!」

怒気を含みながら聞いた。

新田が外国人が落とした何かをひろった。

よく見ると砂時計だった。白色の砂が入っていて上には1919年と書かれている。

「あっそれはダメだお嬢さん!」

吹っ飛ばされた外国人がやけに慌て始めた。

新田はそんなこと御構い無しに

「わぁ砂時計いいですねー昔割って中の砂出てきて部屋砂だらけになっちゃったことあるんですよーちょっと遊んでもいいですか?」

新田はそう言ってひっくり返した。

砂がさらさらと所々キラキラ光りながら落ちる。

その瞬間辺りが光に包まれた。しばらくすると建物が建てられる映像を逆再生しているかのような光景が広がり、そしてまた辺りが光に包まれ私達は気を失った。





目が醒めるとそこは金色で埋め尽くされた西洋風のゴージャスという言葉がここで生み出されたかのような場所にいた。

楕円形の立体的な彫刻がいくつかあり、豪華絢爛な作りになっていて馬にまたがった黒服の騎士が大衆を踏みつけている何とも痛々しい絵が壁に飾ってあった。

「なんすかここ?教授......なんかしました?」

懐疑的な目で新田はこちらを見る。

「何もしてねぇよ!...ったくなんだここは.......」

辺りを見回し、ピンときた。

「まさか......戦争の間?うそだろ?」

「え!!あのヴェルサイユのバラのやつですか?」

情報源はともかく正解だ。

「意味がわからん。さっきまで大学前に居たよな?」

「はい。で私が砂時計ひっくり返したらなんか辺りが光に包まれてあったかくなって今に至ります。」

なんじゃこいつ。

取り敢えず外に出てみるか。

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