還撃の魔刀士Ⅱ
教室から出ると、そこら中にある案内表記を見ながら生徒会室へと向かう。
さすがは三千人以上を収容できるほどの大きさである、道案内図や案内表記がいたるところに存在しており、これなら道に迷う心配もないだろう。
確かB-305だったよね。
今朝なのはに言われた寮の部屋番号を思い出しながらしっかりと歩みを進める。
迷いなく生徒会室の前へとたどり着くと、大きなドアに少し気が引き締まるのを感じた。
ドアをノックすると中から「どうぞ」と言う声が聞こえる。
「失礼します」
そう言うとドアノブを掴み、回してからドアを押すがドアは開かない。
少しの間押したり引いたりいろいろしてみるがびくともしない。
「すいませーん、ドアが開かないんですけど…」
と言うと中からは
「あら、もしかして転校生の方ですか?」
「はい」
「それは申し訳ありません。知らなければ無理もありません」
中からそのようなことが聞こえるとさっきまでびくともしなかったドアがすーっと開く。横に。
「えぇっ!?」
「ふふっ、初めての方はよくそのような顔をされます。このドアが横開きだなんて、普通は思わないですよね」
そのような顔とはおそらく目を丸くして口を開いている顔のことだろう。
「しかもこのドア、外側からは両方のノブを回しながらではないと開かないんですよ」
少し呆れた表情で
「それはちょっと面倒くさいですね」
と言うと、それに完全同意のようで
「全くです。会長がこうしろと言うものなのでこうなりましたが、生徒会の身としては毎日ここに来るので、少し面倒で」
この異様なドアについての肯定的な意見がなく、否定的なことばかりを言っていると
「もうそろそろドアの悪口はやめてくれない?なんか悲しくなるから」
中から聞こえてきた声にどこか不自然な悲しさを感じ、声が聞こえてきた方に目を向ける。
「へぇー、君は生満力に敏感なようだね」
一瞬でそのことに気付かれ驚きを隠せないでいると
「まぁまぁそんな驚かないでよ。私はちょっとアレだからさ」
そんな発言に付け加えるようにして目の前の女子生徒は言う。
「会長はフローリアントで一番生満力の扱いに長けている、と言われているんですよ」
「そうなんですか。すごい人なんですね」
「まぁ私の生満力操作に気付いた君もなかなかだと思うけどね。そんなことより早く中に入りなよ」
そう言われると先程まで前にいた女子生徒がドアの横によけ、中に入るように手で促している。
従うように中に入ると女子生徒はドアを閉め、大きな机の傍に寄る。
それとほぼ同じタイミングで椅子が回転し、先程までの声の主がようやく姿を見せる。
椅子の上に体育座りをしていたのは、十二歳くらいと思われる少女だった。
「私はフェルタ学院の生徒会長、リア=トータ=サリア。まぁ気軽にリアとでも呼んでくれ、舞蝶ちゃん」
さっきまで君と呼んでいたのがいきなり名前に変わり、少しだけ場の空気が軽くなる。
「ま、とりあえず残りの手続きを終わらせようか。副会長、頼んだよ」
リアはそう言うと机の傍に立っていた少女が、机の上のものを数品手に取ると近づいてくる。
「はい、これが生徒用端末と生徒証バッチ。友達との連絡とかはこの生徒用端末でできるので、やり方とかは誰かに聞いてください。学院からの公式メッセージも届くので、一日に一回は確認するようにしてください。緊急用に生徒会への回線接続というのがありますが、それは押しただけで繋がるので、いたずらに押すのはやめてください。それと生徒証バッチ。これは制服につけてください。見えるところならつける場所はどちらでも構いません。基本生徒は胸につけているのが多いみたいですね」
二つのものを同時に受け取ると生徒用端末を制服の内ポケットにしまい、バッチを手にして一つ質問する。
「ありがとうございます。ところでこの生徒証バッチっていうのは何に使うんですか?」
「はい。生徒証バッチは学院の施設を利用するに当たってのパスコードみたいなものです。つけていないと一部の施設が利用できないこととなる可能性もありますのでお気をつけください。また実践演習の授業でも使用します。それともし、学院の誰かと決闘するとなった時にも使ったりします。」
「決闘…ですか?」
「はい。主には学院内での序列を上げるために行うことが多いですが、模擬戦だったりあるいは私怨だったりで行われることもあります」
私怨…そこまで恨みを買うなんてなかなかないんじゃないかと思いつつも、頷いて納得する。
「なるほど、ありがとうございます」
「じゃあ最後にですけど、寮をどうするかを決めてください。今お住みのところで構わないならそれでも構いませんが」
そう言われて今朝のなのはの台詞を思い出す。
「それなら——」
*
生徒会室での手続きを終わらせC1の教室への帰り道につく。
それにしても大きい建物だなぁ、なんてことを思いながらも一度歩いた廊下を歩く。
しばらくは案内表示必須だなぁと思いながら歩いていると、
「あっ!君!ちょっと!」
後ろを振り向くとそこには大柄な青年に追いかけられている青年がいた。
「一生のお願い!僕と決闘してくれないかい!?」
見ず知らずの人に決闘をお願いするなんてどうなのだろう、と思ったがそれほどの事情なのだろうかと考えるとここは受けてあげた方がいいのかな?
そんな考えを巡らせているうちにも、大柄な青年が近くなって来る。
仕方ない、か。
「よくわかりませんがいいですよ。その代わり、後でなにか奢ってください」
そう言うと目の前で膝に手をついていた青年は、本当に嬉しそうに
「それくらい全然!君の名前は?」
「桜雪舞蝶です」
そう言うと直ぐに青年は
「我、心音刀夜は汝、桜雪舞蝶に決闘を申し込む」
その言葉とともに、手に持っていた生徒証バッチから青い光が放たれると、目の前に文字が浮かび上がる。
【決闘】【非序列認定戦】
心音刀夜様からの申請があります。
承認しますか?
承認 不承認
と書かれた画面が映る。
立体投影の技術は少し前に開発されたばかりなのに、もう実用化してるなんてすごいなぁと思いながら、承認のところを指で抑える。
画面に【本人認証中】という文字が浮かび上がりおよそ二秒程度でその文字が消えると、変わりに【時間設定】という文字が浮かび上がる。
「時間は君がいける時で構わないよ」
「私は昼までならいつでも構いません」
昼の実践演習に間に合うのなら大した影響はないだろうし。あっ、でもお昼ご飯の時間を考えたらあまり昼間近だと困るかも。
そうも思ったが
「そう?なら十五分後に第二闘技場でよろしく頼むよ」
そう言うとちょうど刀夜に追いついた大柄な青年の方を向き
「いやーごめんね。今日はこの子と決闘するから」
それだけ言うと走って直ぐに去っていく。
なんか大変そうだなぁと思うとともに、この大柄の人とどうしてそれほど戦いたくないのだろうかと疑問が生じる。
「くそっ!またかよ!」
そう言うと大柄な青年は、走ってきた廊下を歩いていった。
廊下に立っていても仕方がないので、すぐそこだったC1の教室へと戻る。
教室に入るとなのはとケイトは談笑していた。
ケイトが先に帰ってきたことに気付くと、
「おかえりなさい。お疲れ様でした」
「ただいま。疲れてはないけどね」
そう言うと、自分の机に置いた刀を手にとり
「あのさ、第二闘技場ってどこかわかる?」
そう尋ねるとなのはが不思議そうに、
「知ってるけどどうして第二闘技場に?」
そう聞かれたのでさっきあった出来事を二人に話す。
*
「またやってたんだあの二人」
第二闘技場の前にたどり着いた頃には、少し前の出来事を話し終えるところで、なのはが呆れた様子で言った。
「またって、そんな頻繁にあるの?」
あんなことが頻繁に起きているのなら、心音さん大変そう。
「一日一回見ますよね、あの騒ぎ」
「えぇ…」
ケイトの言葉を聞き、心音さんに同情の念が湧く。
「心音刀夜は強いんだよ。強いからもちろん序列も高い。序列は勝った方と負けた方の序列が入れ替わるからね。だから大柄の方…スリートって言うんだけど、スリートは序列を上げる為にずっとあんな感じなんだよ」
「序列ってこの学院での強さのことだよね?」
「そうだね。まぁ得意不得意とかがあるから、必ず序列の高い人が低い人に勝つなんてことはないけどね」
つまりは、そのスリートという人は心音さんの序列と入れ替わりたいと思っているってことなのか。それって心音さんの序列がある程度の高さであるということなのかな?
「ねぇなのは。心音さんの序列ってどれくらいなの?」
そう聞いたところで胸につけた生徒証バッチが光を投影する。
「あっ、ごめん。あと二分で決闘開始らしいから私行くよ」
そう言うと舞蝶は闘技場の中へと走ってかけていった。
消えていった舞蝶の姿を見送る。
「心音刀夜。フェルタ学院序列第一位——」
「舞蝶さん、大丈夫でしょうか?」
心配そうな顔をしてケイトが言う。
「大丈夫だとは思うけど…。いつもと同じ決闘なら、心音刀夜は生満力を使わないし、怪我人もせいぜい切り傷程度しか出たことないからね」
読んでくださった方々、ありがとうございます。
次話もでき次第投稿しますので、よろしければぜひ、お願いします。