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ルヴァンシュの姫騎士  作者: しえら
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還撃の魔刀士Ⅰ

刀の交わる音だけが空間に響く。

お互いに互角…という風ではなく、少年の素早く鋭い連撃を少女が防ぎきっているという具合だ。

少女の顔には笑みが、そしてまた、少年の顔にも笑みが。

少年の刀による連撃が終わると後ろへ跳び、少女から距離を取る。

「並大抵の攻撃では勝つどころか、勝ち筋すら見せてはくれませんね」

今までの攻撃すら並大抵とは思えないほどの剣技をしてみせた少年はそう言う。

「全てをこの技にかけます。あなたには、真正面から受けていただきたい」

少年の言葉に少女が笑顔で「いいよ」と返す。

その返事に少年は微笑むとすぐに真剣な表情に戻る。

「ありがとうございます。僕はあなたとこうして刀を(まじ)えられたことを光栄に思います」

そう言うと刀を手持ちの鞘に収め左足を後ろに下げ腰を落とし低い姿勢をとる。

少年は刀の柄を手でしっかり掴む。

風雷(ふうらい)流第一奥義」

少女は右足を半歩だけ後ろにずらすと刀を顔の前で構える。

「【抜刀刹牙(ばっとうせつが)】」





部屋の中に太陽の光が降り注ぐ。

下着姿の少女はキャリーバッグの中から何かを探しているようだ。

「あれー、制服どこだ」

少し探した後それを見つけた少女は、綺麗に着るべく大きな鏡の前へと移動する。

その時窓の外にいた少年が自分の方を向いているのに気付く。

「うわぁぁぁ!」

焦ってカーテンを閉める。

顔を赤らめながら少女は制服を着ると鞘を持ち家を出る。





暖かい春の日差しが降り注ぎ、心地よい風が髪を撫でる。

「ふわぁ〜、いい天気」

伸びをしながら呟く。周りには同じ制服を着た女子生徒が大勢歩いている。そして大概の生徒が何かしらの武器を所持している。見えるだけでも帯刀したり、スカートから覗く銃だったり小型のナイフだったり。

友達、出来たらいいんだけどなぁ…。

そんなことを思いながら道を歩いていると

「あれ?ねぇねぇ、そこの君!」

それよりやっぱりみんなが武器を持っているって違和感があるなぁ。

「ちょいちょい、無視しないでよ」

肩をポンと叩かれ即座に体が反応し後ろにいるであろう人の足をすくいにかかる。が——

「うおっと!いきなりなになに!?」

ギリギリのところでジャンプされ(かわ)される。躱されたことに驚き、そして自分がしたことに少し後悔する。

「あっ、ごめんなさいっ!つい体が反応しちゃって…」

頭を下げると同時に自分の攻撃が躱されたことが頭にモヤモヤを作り出す。

「肩叩かれただけであの反応って怖いよ!」

頭を上げて肩を叩いた人物を見るとそこには一人の少女が、周りにいる女子生徒と同じ制服を着て立っていた。

「まぁそれよりさ、君が噂の転校生とやらなのかい?」

左右の髪の長さが非対称なその少女はこかされそうになったのを二の次にしてそんなことを聞いてきた。

「噂のっていうのは果たして私かどうかはわからないけど、転校生であるってことは正しいよ。けどどうしてわかったの?」

気になるのはそこだ。初めて見たから、なんて理由とは思えない。私が今日から通う学院は全校生徒三千人を越える大きな学校だ。年齢も六歳から十八歳までと幅広い生徒がいる学院で、まだ会ったことがない生徒なんてそれはたくさんいるだろう。だとしたら私が転校生だとわかった理由が分からない。

「いや、だって初めて見る顔だし」

そこにいた少女は少し深く考えたものをばっさりとたった一言で切り捨てた。

「え…本当にそれだけ?」

「うん」

目の前の少女が笑顔でそう答えることに驚きを覚えた。

「もしかしてなんだけど、君、全校生徒の顔と名前覚えてたりする?」

普通の人では絶対にできないであろうことをしているのか、恐る恐る聞いてみる。

「まぁね、フェルタのことなら知らないことは(ほとん)どないよ。一応フェルタの中では一番の情報屋だと自負してるしね」

その答えには先ほど以上の驚きと恐怖を覚えた。

さっきの回避行動の速さといい、驚異的な、脅威的な情報保有能力といい、敵に回したら一番厄介なタイプだなぁ。

「ふふっ、なるほどね。つまり私が初めて見る顔だから転校生だと分かるっていうのは当然のことなんだ」

「そうそう。まぁ事前に転校生が今日から来るっていうのは知ってたからそれも付け足したら案外簡単に分かることだよね」

いや、そもそも三千人以上の生徒を覚えている時点で半端ないけどね、なんてことを思ったが言うのも(わずら)わしくなってやめる。

「とてつもなくすごいね、君は」

「なのは」

「え?」

何を言われたかが理解出来ずに腑抜(ふぬ)けた返事をしてしまう。

羽島(はねしま)なのは。名前だよ」

羽島ってあの…?だったら生徒全員を覚えているのにも納得がいくけど。

そう思ったが流石に名前を聞くだけなのは失礼と思い

「あ、私は桜雪(おうせつ)舞蝶(あげは)。舞蝶って気楽に呼んでよ」

「おっけー、舞蝶。思ったより気さくだね。私のことは呼び捨てでいいよ!気になったことはどんどん聞いてくれたまえ!」

そう言うのでえっへんと胸を張るなのかに聞いてみる。

「それじゃあなのは、さっそくなんだけどなのはの羽島っていうのは」

「思ってるとおり、だと思うよ」

質問が最後まで聞き取られる前に答えられる。

この反応を見るにおそらくこれまでにもたくさん聞かれたのだろう。

「やっぱりそうなんだ。情報屋してるって言ってたからもしかしてと思ったけど」

羽島家というのは総合情報系のお家柄の一つだ。国家という堅苦しいものが数十年前に世界のあちこちで解体され、国と言われるものがなくなった今の時代、それぞれの土地は、その土地で最も権力のある企業や名家の名前がつけられている。中でも羽島というのは全国に権力が広がっている有数のお家柄だ。本家があるのはこのフェルタのすぐ東隣で、その地域は羽島と呼ばれている。全国に広まっているのは情報系のお家柄であるが故。他の地域の地名となっている企業や名家との争いが起こりにくいということが理由として存在する。それゆえ羽島分家がある地域の情報は羽島本家にも伝えられるので、実質全ての情報を羽島本家が持っていると言っても過言ではないくらいだ。

そんな家の娘だったら情報の扱いにも長けているだろうし納得がいく。

「まぁねー、とりあえず学院に向かおうよ。舞蝶のクラスも気になるしねー」

そう言うと周りの女子生徒が進む方向と同方向に足を進める。

それを追いかけるように少し早足でなのはに近づき

「ねぇなのは。私となのははもしかして同じクラス?」

私のいきなりの問いかけになのはは驚いたようだった。

それもそのはず。クラスが気になると言ったのに同じクラスかどうかを聞かれたら驚くのは当然の反応だ。

「ど、どうしてそんなこと?私今クラス気になるって言ったばっかだよ?」

「うん、そうだけど今は隠したよね?表情と感情を強引に、生満力(ラノン)で」

すると目を丸くしたなのはは

「…へぇ、よくわかったね」

答えたなのはの視線は鋭いものだった。

「うん、まぁ私の生まれ持った特技みたいなものでね。生満力の大まかな動きが見えるんだよ。さっきはなのはの体全体に広まったのを見えたからね」

生満力には色々な使い方がある。今のなのはみたいに何かを強引に変える…変えてしまうことや自分の手持ち武器に流し込み威力を増大させたり形を変えたり。扱いの上手い人だと何も無い状況からそれを作り出すことができる人もいるらしい。

何にせよ生満力はあらゆる場面で使用される。それを見えるというのは時にいいこともあり、時に悪いこともある。

「なーるほどねー、納得納得、そっかそっかー……へへん、ちょぉ〜っと興味湧いちゃった。ねぇ舞蝶、多分今は仮の寮を借りていると思うんだけど、多分今日生徒会に仮じゃない寮を決めるように言われると思うんだよ。その時にB-305って言ってくれない?」

なんだろう?そこに何かあるのかな?

そう思いながらも、何もわからずどこかに入れられるくらいならと思い

「わかったよ、B-305だね。それでだけどクラスは?」

気になっていたことを聞いてみると

「一緒だよー!これから舞蝶はC1所属ってことになるね、よろしくー」

くる〜と一回転し前屈(まえかが)みになったなのはが言う。そこに付け加えて

「それにしても舞蝶……Eくらいかな?」

なのはの視線は顔ではなくもう少し下の方を向いていて見ているところはわかったが、何も言わないことにした。





「というわけで今日からC1の仲間になる桜雪舞蝶ちゃんよ、みんな仲良くしてね」

C1担任の(ひいらぎ)雪歩(ゆきほ)教諭が今日からこのフェルタ学院に通うこと、名前、得意武器をざっと紹介してくれた。

「よろしくね、みんな」

そう言い軽く頭を下げると教室のあちこちで男女が「よろしくー」や「早く戦ってみてー」と言っているのが聞こえる。

顔を上げるとその中で二人、こちらに向かって手を振る人物と、目線が合うと丁寧にお辞儀をしてくれる人物が。

前者は知っての通りなのは、後者についてはわからないが悪い人ではなさそうな、そんな感じの人物だ。

「そうそう舞蝶ちゃん、後で生徒会室の方に行っといてね。まだ最終手続きが終わってないらしいから。それと席はなのはちゃんの隣ね。朝からなのはちゃんに頼まれた席なんだけど、もしかして知り合いだったりするの?」

頭の上にクエスチョンマークをつけても違和感がないであろう雪歩の仕草ににこりと笑いながら

「はい、今朝通学路でお会いしまして」

「なるほど、それにしても朝いきなり舞蝶ちゃんのことを話題にされた時はびっくりしたわぁ。でもそういうことなら納得ね。じゃあ座ってくれる?」

雪歩のその言葉に頷くとなのはの隣の席へ向かう。なのはの席は一番後ろの窓側から二番目。そしてなのはの廊下側の隣は先程目線が会った時にお辞儀をしてくれた大人しそうな少女。そういうわけだから私の座る席は一番端っこ、教室の隅ということになる。いい席だ。

手に持っていた刀の鞘を机において座ると

「じゃあ今日は休み明けの一対一実践演習だから昼までは各自の好きなことをして過ごしててね。舞蝶ちゃんはもしわからなかったらなのはちゃんにでも聞いておいてね」

そう言って教室から出ていく雪歩を見届けながら

「席を隣にするなんて思わなかったよ」

「興味湧いたって言ったでしょ?私が興味湧いたのってこのフェルタで三人だけなんだよね。だからこそ興味が湧いたなら攻めるよ!」

拳を握り椅子の上に片足を乗せて一人で盛り上がるなのは。

「三人ってあと二人はどんな人なの?」

気になったことを言うのが既に癖になってしまっていてつい聞いてしまう。

あまり詮索(せんさく)されるのを好かない人も少なくないのでこの癖は直したいのだけど、なかなか直らない。

しかしなのははたいして嫌がる様子もなく答える。

「一人は全然話す機会もないし全然置いとくとして、もう一人は私の隣のこの子」

そう言うとなのははその隣の少女のところへ行き少し話した後少女と共に戻ってくる。

そしてその少女の肩に手を乗せ

「この子はケイト=アルファーナ」

「ケイト=アルファーナです。是非、よろしくしてください、桜雪さん」

そう言うと深く頭を下げる。

「ご丁寧にありがと。よろしくねケイトさん。私のことは舞蝶でいいよ」

「わかりました、舞蝶さん。私のこともケイトとお呼びください」

「わかった、ケイトね」

お互いの挨拶が済んだところで話をなのはに戻す。

「で、なのははなんでケイトに興味が?」

そう来ると予想していたのだろうか、なのはは口の前に人差し指をたてると

「ちっちっち」

と言いながらその指を左右に振る。

「それは自分の目で確かめたらわかるはずだよ」

「なにそれ。まぁそっちの方が楽しみでいいか。あっ私昼の実践演習までに生徒会での用事済ましてくるよ。早めに終わらせておきたいし」

少しがっかりしながらもワクワク感があることも否めず、なのはに言い返しはしなかった。

「じゃあ帰ってきたら実践演習のこと教えるね」

「私もお役にたてたらと」

二人とも優しくて本当によかった。

友達ができなかったらどうしようかと思ったけど…。

これはなのはのおかげかな。

そんなことを思いつつ二人に

「ありがと。じゃあ行ってくるね」

そう言うと教室から出ていった

いかがでしたでしょうか?

まだ冒頭なのであまり深い内容はありませんが、これからストーリーが進むにつれて深く、面白い内容にしていきますのでよろしくお願いします。

投稿ペースはなるべく早く、生活リズムを崩さないくらいでいこうと思っています。

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