一話 旅立ち?
「完成だ!これならばわたしはこの世界の先を見ることができる!」
わたしは年甲斐もなく声をあげて喜んだ。
私の名はアレク、かつて大賢者や大魔法使いとよばれていたこともあるが、いまでは死を待つだけのどこにでもいる老いぼれだ。いやだったというのが正しいか、なにせもう術が完成したのだからな。
人間の寿命は短い、魔術を使い延命を試み、成長を止めても生きられるのは150年が限界、悠久の時をいきるといわれるエルフでも倍の300年でよく生きた方だという。
永遠には生きられずいつの日か必ず死が訪れる。それが世界の定めだというように、、、
だが、わたしは永遠に生きる術を見つけた、否作り出した。
この世には永遠に近い存在がある。それは魂、生きとし生けるものすべてがもつ不可侵の要素
永きにわたる研究によりわたしは魂とはなにかを解明した。
魂とは神が作り出した霊的物質であり世界を循環し大きな役割を果たす物質であること。
一般には死後そのものの魂は地獄に落ち裁定され善い行いをしたものは天国へ行き幸せに暮らし、悪い行いをしたものは地獄で罪の精算を行いまた地上に戻され新たなる生を受ける。とそう伝わっている。
これは間違いがある、というより真実をいっていない。実際には死んだ魂は全て地獄に落ちる。優秀なものは神が地獄より救い上げ神につかえる神兵とする。優秀なものであれば善も悪も関係はない。
地獄での罪の精算とは、煮られ焼かれ切り裂かれあらゆる責め苦を受け精算が終われば再び現世へと送られ天国へ行くための試練をかせられるのだと言われている。
これも間違っている、罪の精算ではなく現世で経験した知識や思い出を魂から絞り出しているのだ。たくさんのことを経験した魂から経験を絞りだし魂を現世に来る前の状態に戻しているだけだ。吸い出す行為を生物に当てはめれば大変残酷な所業ではあるが、人魂の姿のまま思い浮かべればまるで料理風景のようだ。
ところで吸い出された知識や記憶はというと神力に変換され神に還元され貯蔵されるのだが、神がこの世界を作った理由がこれだ。
魂が集めた思い出を己の力と変え優秀な魂に仕上がれば兵として徴収する。なんと生産的な試みか。
この事実を知ったとき、利用され怒るよりも先に納得してしまった。いつまでも戦いと不条理の絶えない世界が存続することに、この世界の在り方に。
つまり魂とは神が力を得るために作り出した神力を生成する道具であり、世界とはその生成を促すからくりであった。
まあ、そんなことはどうでもいい。死んだあとのことであるし、不幸な運命を神が定めていたというわけではなかったのだから。
そうはいっても、わたしにはまだ死ねない理由があるしこれからもいきるつもりであるから利用されるのは先の話になるがな
私が作り出した術というのは魂の強化魔法という術だ。地獄で記憶を搾り取られるというのであれば絞り出されぬよう魂に鎧を被せコーティングすればよい。これだけだ。
教会の教えにより魂に関する研究の一切が禁じられていたために、資料が少なくたったこれだけの結論に至るために百年あまりを費やしたと思うと情けない。
ただ、これで死んでも記憶を失わずに済む。わたしがわたしのままいきることはできないが、新たな命としてわたしは世界の先を見ることができる。
約束を果たすことができる。
あとは転生先がどうなるかだ、スラムなどに生まれてしまえばいきるのさえ難しい。辺境に生まれては情報が限定されてしまう。転生は死んですぐ行われるわけではない、少なくとも十年はかかるとみている。生まれてすぐ死ぬのはできるだけ避けたい。
なので魔法を込めた魔導巻物や魔法道具など劣化しにくく価値が変動しにくいのもを各地に隠しておくことで転生後の金銭問題を解決しよう。奪われる可能性を考えて自衛できるものもセットで配置しておけば問題はないだろう。
隠蔽魔法を解くことができるほどの実力がある魔法使いがこなさそうなところをさがさなければな。
辺境に生まれた場合は、どうにかして王都近くまでいけば良いか。辺境には魔物が多いので自衛に役立つものを多めにいれておこう。
こうしてわたしは死ぬまでの余生を使い、世に出すには危険すぎる力を秘めた魔道具や魂に関する研究資料をダンジョンの奥深くに全魔力をもって封印した。
学院では、ダンジョンとは魔物の巣窟や隔離された空間で独自の生態系を確立した場、力あるものが己の財を守るために作った他社を排除する要塞など、何かしらの利益に繋がるが危険のある空間をそう呼ぶことになっているが、学院に通ったことのないものはダダの洞穴にゴブリンが住み着いただけのものでさえダンジョンとよぶ。もともとあやふやなものに無理矢理意味を持たせたようとしたためよけいにこじれたようだ。
わたしは自然にできたダンジョンの奥底に部屋を作り財を隠し入り口を物理的に埋め内側から封印を施した。
隠し扉ではやりての盗賊に簡単に見破られてしまうし、魔法を使い封印すれば魔力を視認できる魔法使いにばれてしまう。なので出入りができないよう完全に入り口を潰し、倒壊を防ぐために内側から封印をかけた。
いずれ使う日がくるかもしれないので残しておきたいのだ。
そのためわたしはダンジョンに閉じ込められることとなったが全魔力を使ったことでわたしの命は尽きたようだ。
眠りにつくような脱力感と深く深く沈むような感覚を感じながらわたしは、アレク・レイナードの一度目の生涯を終えた。