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蔦と茨

 何か言いたいが言葉がまとまらないらしい父親の視線を無視して、蔦姫は海彦を促し、自分はさっさと出口へと向かった。

 海彦は退出の礼儀として琥珀童子に軽く一礼すると、蔦姫の後に続いた。

 屋敷を出た。

 外には門番役の鬼が二人いて、それに押し留められる形で、蔦姫と瓜二つの双子の妹がそこにいた。

 身体的な差は、並べて見比べてみれば妹のほうが微妙に猫背な印象があるぐらい。

 あとは、服装が大きく違うだけ。妹の茨姫は袖の無い短衣を乱雑に羽織ったのみで、端正な顔立ちには似合わぬほどの筋肉を持った四肢がむき出しだった。その手足は、今日も山野にいたことを示して土に汚れていた。

 外見的な差は、そのくらい。妹の土汚れを落として、衣服を着替えさせ、背筋を伸ばさせれば、双子の見分けはほとんどつかないだろう。

 あとは、時折見せる滑稽な言動をさせなければ。

 と、蔦姫は思った。

 茨姫は海彦に気がついて駆け寄り、言った。

「し、心配したぞ。

 待ち合わせの場所に来ず、諦めて帰ってみれば、村にいるなどと」

「すまない。他の鬼に見つかってしまって、流れで連れて来られてしまったんだ。だが、君の父上と話ができてよかったよ。話したいと思っていたんだ」

「いったい何の話をしていたんじゃ」

「君を嫁にもらう算段をつけてきた」

「ぅあ?」

 きょとん、と、茨姫は目を丸くした。それから、一瞬で頬を紅くした。

「はうああああ!?」

 なんて滑稽な顔、と蔦姫は思った。双子だから同じ顔だけど、私はあんな顔はしない。あんな間抜けな声も出さない。

 海彦が言った。

「嫌だったか?」

「いや、いやいやいや、いきなりすぎじゃ、海彦!

 物の道理というもんがあるじゃろ。いろいろすっ飛ばし過ぎじゃ」

 赤い顔でしどろもどろした後、最後に、ものすごく小さな声で付け加えた。「そ、そりゃあ嬉しいけども」

「君は可愛いなあ」

「うぅ……」

 茨姫は、上目遣いで海彦をにらんだ。どう見ても、怖くなかった。

 蔦姫は、苛立った。

「海彦、さっさと要点を伝えなさい。

 この村は、あなたを歓迎するつもりはありません。

 イバラとの仲を認めさせたいなら、さっさと出発しましょう」

「出発? どこへじゃ?」茨姫が、不思議そうに姉を見た。

「ああ、実は……」海彦が、事のあらましを茨姫に説明した。

 茨姫は目を丸くして聞いていた後、言った。

「海彦と、ツタの二人で?」

「ああ、そういう話になった。

 どうにか宝を手に入れて、君の父上に認めさせてみせるよ」

「……」

「どうした?」

「ああ、えっと、じゃな。

 ……。

 なんでツタとなんじゃ?

 例えばじゃ、ウチが一緒に行くんじゃいかんのじゃろうか」

「あなたをもらうための条件なのにあなたが一緒では、順番が合わないでしょう」と、蔦姫。「なんですか、駆け落ち気分ですか」

「か……駆け……」

 茨姫はまた顔を紅くして言葉に詰まった。

 本当に苛々する、と蔦姫は思った。

「そして、他にこの村で人里に行けるような者は私しかおりません。

 男鬼たちは皆、目立ちすぎます。私なら、笠をかぶり角だけ隠せば、なんとかなります」

 茨姫は、気落ちした顔をした。よっぽど海彦のことが心配らしい、と、蔦姫は思った。

「……なるべく早く、戻ってきますよ。

 これまでだって、海彦が来るのは月単位だったでしょう。

 次に海彦が来れば、その後はずっと一緒にいられると、そう思って待っていなさい」

「……」

 何か不安げな茨姫の様子に肩をすくめて、蔦姫は海彦に言った。

「舟はいつもの場所ですよね。行きましょう。

 イバラ、あなたも見送ってくれるでしょう?」

「……うん」


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