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第二章(4)

「……じゃあさ、俺もギター練習してれば、同じようなことできるようになるか?」


 ふと、そんなことを訊いてしまう。

 もし俺もそんなことができるようになれば、かなりギターを弾くモチベーションが上がりそうだ。


「お、やる気だねー、いいねいいね。んー、でもまぁ、すぐには無理かな。ギターを弾く技術だけじゃなくて、音感も鍛えなきゃいけないから。……一応訊くけど、ダイダイって絶対音感持ってる?」


「いやまさか。アレだろ、音を聞くだけで音程が分かるっていうヤツだ」


 これは何となく知っていた。

 漫画とかアニメなんかではメインキャラが持ってたり、物語の途中で目覚めたりする能力だ。


「そうそう。小さい頃にピアノとかやってた人は持ってることもあるんだけど、そう都合良くはいかないよね」


 あははっ、と笑いながら黒峰は言う。

 確かにそんな能力があれば楽器を弾くうえでかなり有利なのは間違いないだろうが、無い物ねだりしても仕方ない。


「黒峰は絶対音感持ってるのか? さっきは聴いただけで弾けるようになってたけど」


 気になったので、俺はそう尋ねる。

 ああいう芸当ができるってことは、絶対音感を持っててもおかしくないと思ったからだ。


「んーん、ないよ? 私のは相対音感だよ」


「相対音感?」


 また聴き慣れない単語が出てきた。

 俺はオウム返しに訊く。


「そう。簡単に言うと、基準となる音と比較して別の音がどれだけ高いか低いかを判別する能力、って感じかな。これは誰でも、それこそ音痴の人でも、楽器の演奏を続けていくことで徐々に鍛えられていくから。ダイダイもギターをやっていれば少しずつ身に付いてくるよ」


 なるほど。

 さすがに一朝一夕で習得はできないにしても、練習を続けていれば希望はあるわけだ。

 そう考えると少しワクワクしてくるな。


「あー、ってか話逸れちゃったね。話を戻すけど、ダイダイは今まで、さっきのフレーズがギターの音だって知らなかったわけじゃん?」


「……恥ずかしながら」


 黒峰の問いに、俺は渋い顔でそう返すしかない。

 あんなに好きだと思い込んで疑わなかった曲なのに、そこにどんな楽器が使われているかなんて考えたこともなかったのだ。


「それは仕方ないんだよ。『これがギターの音だ!』って知識を前提として持ってないと、音楽を聴いててもどの音がギターかなんて分かるわけないんだから。しかも昨日も言った通り、エレキギターの音ってすごく多彩だから、ある程度知識や経験がないと聞き分けられないんだよね」


 そうなのか……、と俺は呟く。

 言われてみれば黒峰は弾き始める前にアンプを調整していたから、あの時にギターの音色を変えたのだろう。

 実際先ほどの彼女の音は、昨日のそれともだいぶ印象が違っていた。


「でもこれも相対音感と同じで、ギターをやってればだんだん分かるようになってくるよ。むしろ相対音感よりははるかに簡単だから。……たまーに、私でもギターの音かどうか判断に悩むこともあるんだけどね」


「そうなのか? どんな音なんだ、それ」


「んー。有名なのだと、バイオリンみたいな音とか、DJのスクラッチ音とか、電子音みたいなのとか、バイクの音だとか、ジェット機の音とか……」


 うん、俺の予想の斜め上を飛び越えていったわ。

 後半なんてもはや楽器が出せる音なのかそれは? と疑ってしまうレベルだ。


「そんな音も出せるのかよ、ギターって……。つーか、さすがにそれは極端な例だろ?」


「有名どころって言ったじゃん。ジェット機っぽい音なんか、意識して聴いてると結構あちこちで使われてるよ」


 憮然として黒峰は言うが、俺は半信半疑のままだ。

 確かに彼女が言うなら嘘ということはないのだろうが、全くその音が想像できないもんだから、イマイチ信じるに信じられない。


「って、あーもぅ、また話が逸れたぁ! とにかく私が言いたいのは、ギターを弾くようになると、今までとは違った視点から音楽を楽しめるようになるってこと! ダイダイもギター続ければ、この曲のいいところがもっともっと分かるようになるから!」


 半ギレというには言いすぎだが、痺れを切らしたように黒峰は言う。

 確かに余計なことを訊いたのは俺だが、明らかにそれを誘うような言い回しをする彼女にも責任はあると思うのだが……。


 でも、黒峰の提案は確かに俺の興味を引いた。

 今回彼女は【春擬き】のワンフレーズでそれを示したわけだが、翻って考えれば、ギターを弾けるようになればそれ以外のアニソンからも新しい発見をすることができるかもしれない。

 しかもさらに上達すれば、それらを自分で弾けるようになるかもしれない。

 果てしない道のりのようにも思えるが、先ほど彼女は自分のギター歴は二年ほどだと言っていた。

 だとしたら、俺も今からギターを始めれば、高校を卒業するまでには、それくらいのレベルに達することができるのではないか。

 楽観的すぎる考えかもしれないが、なりゆきだけで漠然とギターを弾くよりは、はるかに建設的だ。


「……あの、先輩、そろそろ本題に……。新入生歓迎会であのキモオタにギターを弾かせるって、本気なんですか?」

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