貴方の守りたいリアル、私の守りたいリアル ――プレートメイル編・第三章
まず、この世界では『平均2センチ厚、最も薄いところでも1センチあるプレートメイル』が装備可能なんだ!
どうしてって?
これは思考実験だから、そういう質問は野暮ってもんだぜ!
勇者「ついた! ここが魔王の玉座!」
戦士「皆、油断するなよ!」
盗賊「それはアタシの台詞よって……やけに静かね」
??「それは私が配下から、絶対の信頼を得ているからだよ、勇者たちよ!」
バーン!
勇「でたな魔王め! って……えっ?」
戦「凄く……大きいです……」
盗「な、なんなの? よ、鎧のオバケ!?」
なんと玉座には、『平均2センチ厚、最も薄いところでも1センチあるプレートメイル』を装備した魔王の姿が!
ババーン!(二回目)
盗「こ、こんなの見掛け倒しよ!」
戦「馬鹿! 止めろ!」
先手必勝とばかり、ロングボウで魔王を射る盗賊!
だが、その矢は――
カーン。ポテ。
盗「そ、そんな! アタシは力一杯に射かけた! しかも真正面へ――それも装甲な薄そうなところへ当てたのに!」
戦「駄目なんだ! 詳しい計算は省くけど……中世後期レベルの弓、火縄銃、クロスボウでは、厚さ1センチの鋼を撃ち抜くことはできない! 角度とかと無関係に!」
勇「Ω<ナ、ナンダッテー!? ならば、ここは……俺の『勇者の剣』で!」
戦「無理だ! 止めろ!」
渾身の力で剣を振り下ろす勇者!
だが、魔王は避けようとすらしない!
ガチン! ポキン!
勇「あばばば……世界に一本しかない勇者の剣が!」
戦「薄い部分でも1センチだぞ? 基本数ミリの剣が耐えきれるわけないだろ! しかも、同じ素材同士で!」
盗「ちょっとまって! じゃあ……アンタの斧は?」
戦「似たようなもん……というか、柄は木だ。折れちまう」
勇「よ、予備の槍! 予備の槍なら!」
戦「弓やクロスボウと変わらん。例えクリーンヒットしようと、貫通させるのは無理だ」
盗「と、トンカチ! アンタが偶につかう、あの化け物みたいなトンカチは! あれは全部が鋼でしょ?」
戦「打撃武器か……こればっかりは実験するしかないんだが……打撃武器ってのは、打撃面積の大きさに威力が反比例する」
勇「つまり?」
戦「ハンマーは鎧に当たり、そのエネルギーは鎧と魔王の身体が接している部分へ分散して伝わる。ようするに打撃面積が大きくなり――結果としてダメージは低くなるんだ。さらに魔王を押し戻す動きへも転嫁される。鎧は全く凹まないだろうし、そっちへのロスは大きいだろうな」
盗「もっと短く!」
戦「何十発も叩けば、もしかしたら倒れるかもしれねぇ。あるいは何百発か」
さらに簡潔にいうならば、彼らは攻撃方法を失ったのだ、全て!
絶句! もはや三人は絶句するしかない!
魔「くっくっくっ……死刑執行書へ署名は終わったかね? ――それでは死ぬか?」
言い捨てるや剣を抜き、魔王は殲滅を始める!
そして逃げ回る一方な勇者たち一行!
勇「お、おかしいよ! こんなの絶対おかしいよ! だいたい、どうして魔王はあんな鎧を着て動き回れる! 推定で300キロオーバーだぞ!」
戦「そんなこと言っても……これ、そういう思考実験だし!」
盗「あっ! いいこと思いついた! アタシ、毒を持ってる! この毒を目のところから流し込んでやるのよ!」
勇「はぁっ!? 伝説に残るべき勇者対魔王の決戦で……決まり手『毒殺』!? だいたい、どうやって流し込むんだよ!」
戦「……それには、いいアイデアあるぜ? 三人がかりで押し倒すんだ。三人に勝てるわけないからな!」
勇「そんなホモの集団レイプみたいな方法は嫌だぁ!」
これが……プレートメイル絶対ロマン主義者の……夢見た世界?
もちろん違うと思います。
作者は分厚い鎧といわれると『ダイの大冒険』とか連想してしまうタイプですが……あの作品が荒唐無稽かというと、実のところそうではありません。
いくつかの例外(例えばヒュンケル初戦)はあるものの……伝説の鎧だろうとオリハルコン製のリビングスターチューだろうと、折れたり、砕かれたり、斬られたり。
結局のところ鎧側も凄いけど、武器側もハイスペックなので釣り合いは取れています。
想像するに、おそらくプレートメイル絶対ロマン主義者の理想はあれでしょう。
創作としては悪くありません(我ながら成功した先達の作品に、凄い上から目線だ)し、作者も嫌いじゃないです。
同じように現実路線のプレートメイル考察も、結局のところ「普通に接近戦武器や弓でも倒せるよ。専門家がクリーンヒットさせなきゃ駄目だけど」という結論で、バランス位置は似たようなものでしょう。
リアル路線の世界で「プレートメイルは分厚いんだぜ」といっても――
超人が大活躍する世界で「プレートメイルは1ミリ程度」といっても――
不満は爆発してしまいます。
……おそらくそういうことなんじゃないかなぁ?
そして自分が主張し守っている世界観を理解してなくて、終われないという。
しかし、少なくとも作者は、プレートメイルの騎士が登場したら投了するしかない世界観が好きになれそうもありません。
史実でも違いましたし、可能な限りに自分でも愛せる世界の創作をしたいと思っています。
また義務的にジャンプ超人主人公を要求されるのも不愉快です。
そして!
いろんな世界観があって、いろんなバランスがあります。
そして現物や史実の考察は、世界観のリアリティ維持に立つからやってる訳で、つまりは――
現実世界は『プレートメイルは平均1ミリ厚程度』って設定なだけですから!
皆さんのロマンや幻想は、壊れていません! 安心してください!