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3・グリーンウッド伯爵家の婚約者

多分、ようやく佳境です。後、少しお付き合い頂ければ幸いです。

「―――はぁ」

「マルコ兄さん、これ見よがしに溜息つくのは止めてよ」


 口では文句を言いながらも、マルコの弟であるルークは気遣わし気な視線を向けた。

 いつ見ても同じ血が流れているとは思えない麗しい兄は、物憂げな溜息をついて、窓の外を眺めている。

 その姿には多少同情心を抱いた。


 何故なら、この傍若無人を素で行く兄は先日、生まれて初めて恋に落ちて、その直後に失恋したのだから。


 流石の兄も告白直後に振られたのは堪えたらしい。兄も人間だったのだろう。一時は悪魔ではないかと本気で不安だったから、逆に人間らしい行動には安心できる。

兄が初めて恋をしたティアナ嬢との事は残念だったが、兄ならすぐに次の相手が見つかるだろう。


「兄さん、元気だしなよ。話くらい聞くからさ」

「ルーク、相談に乗ってくれるのか?」


 普段の兄からは想像もつかないような弱気な言い方に内心怯えながら、ルークは頷いた。


「まぁ、僕が兄さんにアドバイスできることは少ないだろうけどね」

「いや、そんな事はない。話を聞いてくれるだけでもありがたいさ」

「兄さん…」


 一体どうしてしまったのだろう。恋をすると人は変わるというが、ここまで極端だと正直怖い。人でなしな兄に人の心が生まれる程なんて、恋とは凄いものだ。

 そう思いながらも話を促せば、マルコは心底弱り切った様子で話し始めた。



「実は…結婚を申し込んだ翌日にティアナさんに逢いに行ったんだが…」

「振られた翌日に逢いに行っちゃったの!?」



 メンタル強すぎるだろ! 兄の精神構造、鋼鉄製か!


「え? 行くに決まっているだろう? 私はティアナさんに求婚しているんだぞ?」

「何で不思議そうな顔してるの!? 断られたでしょ!?」

「ああ。だが、断られたら諦めるなんて誰も言ってないだろう? 無理強いはしないとは言ったが、口説くのを止めるなんて言ってないしな」

「言ってないけども! 普通は一度断られたら諦めるものなんだよ!」

「そうなのか? 道理でお義父様も驚かれていた筈だ。それにしても普通の奴は一度断られたくらいで諦めるのか? 随分軟弱だな。諦めるのなんて自分が死んだ時でいいじゃないか」

「怖い怖い! いや、だって婚約者がいるって言ってたでしょ!」

「ああ。そう言っていたが、それがどうかしたのか?」

「どうかも何も! 婚約って結婚の約束をしているって事だからね!?」

「それくらい知っているさ。だが、約束しているだけなのだろう? 結婚してないじゃないか」

「これからするんだって!」

「でも、まだしてない。それに例えもう結婚していたとして、それが諦める理由になるのか? 自分が死ぬか、その人がこの世界からいなくなるまでチャンスはあるだろう?」


 兄はキョトンとしている。

 いやいや、待って待って。何かおかしいから。


「…兄さんは多分世間と大きくズレてると思うよ」

「そうなのか。だが、別に私は困ってないからどうでもいいことだな」


 前向き過ぎるだろ。メンタル最強か。


「それより、ティアナさんの事だ。初めて結婚を申し込んだ日から毎日訪ねているのだが、一向に良い返事がもらえなくてな」

「毎日通ってるの!?」

「だって、いい返事が貰えないから」

「いい返事が返せないから断ってるんでしょ!?」

「色々な贈り物を渡しても困った顔をされるばかりで…先日はティアナさんに似合いそうだと思ってこのネックレスを贈ろうとしたのだが、やんわり返されてしまったんだ」

「何これ宝石何個ついてるの! いくらしたの?」

「え、百個くらいだったかな…値段は大体この国の国家予算三年分くらいだな」

「馬鹿なの!?」


 ルークにそう言われ、マルコはムッとする。


「馬鹿とは何だ、馬鹿とは」

「馬鹿だから馬鹿だって言ったんだよ、馬鹿兄さん! 婚約者でもない男からこんな高価なもの受け取る訳ないでしょ! 見返りに何を要求されるか分かったものじゃない!」

「別に見返りなんて…ただ、私と結婚してくれればそれでいいのに」

「それが見返りを要求してるんだよ!」


 ルークに怒鳴られ、マルコは肩を竦めた。

 流石のマルコも、こう何度も断られていれば、自分のやり方がまずい事には薄々気がついているのだ。

 ただ、どうしたらいいのか分からない。

 誰も信じないだろうが、マルコはただティアナに幸せそうに笑って欲しいだけなのに。




『愛しています、ティアナさん。決して苦労はさせません。私と結婚して下さったら、貴女に一国の王妃同様の暮らしをお約束します』


 恭しく跪いて愛を囁いても、ティアナは困った顔をするばかり。


『私の何が気に入らないのでしょうか? 貴女が言うのならどんな男にだってなって見せます。平民である事がお嫌ですか? それならば、いくらでも爵位を手に入れましょう。それとも商人な事がお嫌いですか? それならば、貴女が望む仕事をしましょう。貴方が望むのなら、望んだだけ叶えて見せますし、欲しいものは何だって手に入れます』


 どんなものを捧げても、ティアナは首を振るばかり。


『貴方が好きなんです。どうか、この手を取ってください』


 懇願しても、ティアナは泣きそうな顔をして謝るばかり―――。




「ルーク。私は今まで生きてきて、私ほど優れた男はいないと確信している」

「うわ、凄いこと言い始めたよ。自意識過剰もここまでくると清々しいね」

「だが事実だ。実際、どんな立場の人間であっても、私の思うままに動かすことが出来た。だけど、ティアナさんだけは違う。彼女には私の容姿も、能力も、財産も、何一つ通じない」


 通じないんだというマルコは悲しそうであり、どこか嬉しそうだった。

 それを見て、ルークは不安になる。


「…まさか、ティアナ様が靡かないから気になってる訳じゃないよね?」

「それは違うぞ、ルーク!」


 懐かない猫のようだから興味を惹かれているのかと不安に思って聞けば、マルコはキッパリとそれを否定した。


「私はティアナさんが靡かないから好きなんじゃない。好きになったティアナさんが私の表面だけを愛してくれる人じゃない事が嬉しいんだ」


 そう言い切った後、マルコは途方に暮れた顔をする。


「私は彼女に愛されたい。だが、どうすれば彼女が喜ぶのか分からなくて困っている」


 甘い愛の言葉も、高価なドレスや宝石も。

 今まで知り合った女性はウットリとした顔で受け取り、とても喜んでいたのに、ティアナには困った顔ばかりされる。

 そう言ってマルコは溜息をついた。

こんなに弱っている兄は初めてで、ルークも何とか力になってやりたいとは思う。

 だが、この兄がこれほどまでに言い寄っても靡かないとなると、最も可能性の高い事は一つだけだ。

ルークは言い辛そうに呟く。


「…やっぱり、婚約者の事があるからじゃないのかな? ティアナ様は婚約者を愛しているんだよ、きっと」

「いや、それはない」


 控えめに言えば、マルコは又してもキッパリと言い切った。


「彼女と婚約者の『伯爵子息』とは政略的な婚約をしているだけだ」

「何で分かるの?」

「分かるさ。調べさせたからな」


 忌々し気に舌打ちして、マルコは口元を歪める。



「ティアナさんの婚約者という垂涎の立場を手に入れながら、そのカス野郎は別の女に夢中になっているのだから」



★★★★★



 ティアナ・ホワイトハート男爵令嬢には格上の婚約者がいる。


 相手はホワイトハート男爵家の上役にあたり、男爵家が借金をすることになったグリーンウッド伯爵家の唯一の跡取りで、名前はテオボルト・グリーンウッド。

 褐色の髪に青い目、整った容姿を持ち、いかにも貴族といった風貌の騎士見習いで、年齢はティアナより一つ下の十七歳になる。

 ティアナとは三年ほど前に婚約したのだが、彼には幼い頃からずっと親しくしている女性がいた。


「女の名前はジーナ。歌劇団で歌姫をしている平民だ。派手な美貌でパトロンも多いみたいだな」

「つまり、ティアナ様の婚約者もパトロンって事?」

「男の方は恋人だと思っているだろうが、女からしたらそうだろうな。かなり貢いでいるらしい」

「うわ、最悪。婚約する前ならともかく、ティアナ様と婚約してからも関係は続いてるって事だよね? 結婚する前からそんな有様なら、それを理由に婚約破棄できそうなもんだけど」

「借金の事があったから男爵も大きく出られなかったんだろう。そもそも、この婚約は伯爵が強引に推し進めたもので、息子の方は乗り気じゃないどころかティアナさんを疎んでいる始末だ。それならそうでさっさと身を引けばいいのに、中途半端に逆らって、ティアナさんを束縛するとは万死に値する…ん? もしかして、コイツが死ねば全て丸く収まるのでは…」

「兄さん、殺人で収めようとしないで! あれ? そもそも何で伯爵はティアナ様を息子の婚約者にしたんだろう? 男爵家は格下だし、ホワイトハート男爵家は裕福でもないでしょう? 跡継ぎの妻にするには利点が少ない気がするんだけど…」


 話を聞いていたルークが首を傾げれば、マルコは意外そうな顔をする。


「ほぉ、お前でもそれくらいは気付くか」

「いちいち腹が立つなぁ」

「お前が言う通り、一般的に考えれば明らかに伯爵に旨味は少ない。いや、少ないどころか、自分の家へ嫁がせれば身内になる訳だから、折角搾り取れている金も取り辛くなるだろう。だが、それでも伯爵はそれをした。なんでだと思う?」

「分からないよ。伯爵のやってる事は滅茶苦茶だ」

「私はこう思う。―――これは伯爵による復讐だと」

「復讐?」


 ルークが首を傾げれば、マルコは頷いた。



「グリーンウッド伯爵には、ホワイトハート男爵が憎くてたまらない理由があるんだよ」



 そう言って、マルコは唇を歪める。


「憎いって…どういう事?」

「全てはティアナさんの亡くなられた母君がホワイトハート男爵と出逢った事から始まる。彼女はとある公爵家の長女だった。とても美しく聡明な方で、いずれは婿を取り、公爵家の跡を継ぐ筈だったんだ。だが、そうはならなかった。男爵と出逢ったからだ。彼女は婚約者だった侯爵家の次男との婚約を破棄し、家から勘当され男爵家に入った。大恋愛だったらしい」

「へぇ、あの人の好さそうな男爵が意外だね」

「その婚約破棄された侯爵家の次男が、現グリーンウッド伯爵だ」

「え!」

「伯爵は格下の男爵にまんまと婚約者を取られたのさ。その上、婚約が破棄されたことで、公爵にもなり損ねた」

「うわぁ…それはちょっと可哀想だね」

「可哀想なものか。自業自得だ。伯爵は若い頃、結構な美男子だったらしく、色々な女性と浮名を流していたらしい。婚約者だった公爵令嬢はそんな婚約者に頭を悩ませていた。ただでさえ、公爵家を継ぐ事に重責を感じていたのに、頼れる筈の相手が火遊びに夢中。期待され続けた彼女は追い詰められていった。それこそ死を考えるほどに。その時、彼女を救ったのが若き日の男爵だった。公爵令嬢は男爵に感謝したが、男爵は彼女に対して何も望まなかったらしい。それが余計に彼女の救いになったのだろうな。無償の愛。私には絶対無理だが」

「見返りを求めない兄さんとか怖すぎるよ」

「どういう意味だ」

「だって、無償で何か出来るの?」

「無理だ。想像しただけで鳥肌が立った」

「それでこそマルコ兄さんだよね」

「何か引っかかるが、とにかくだ。彼女は男爵に恋をして、どうしても彼と共に生きたいと父である公爵に願い出た。当然、却下だ。男爵家の者に公爵家は任せられない、どうしてもというなら勘当するからお前が家を出ろ、と」

「で、出ちゃったと」

「そうだ。出ちゃった訳だ。あっさりと。脅すつもりで言った公爵は大慌てだったが、令嬢の意志は固かった。結局、公爵家は彼女の従兄弟が継ぎ、彼女は男爵夫人となった」

「演劇になりそうな話だね」

「そうだな。今度、脚本家に話して、脚本にして貰おう」

「無駄がない!」

「まぁ、そんな訳で男爵たちはめでたしめでたしとなった訳だが、めでたくないのは伯爵だ。彼は婚約者を放って遊び回ってはいたが、彼なりに公爵令嬢を想っていたらしい。間抜けな話だが、婚約者を妬かせたいと軽い気持ちで遊んでいたら、本命を男爵に取られ、婚約を破棄されてしまった訳だ。愛しい人を男爵に取られた彼は、その後、伯爵家へ婿入りした。わざわざ格下の家へ入ったのには訳がある」

「もしかして、グリーンウッド伯爵家がホワイトハート男爵家の上役だからとかじゃ…」

「よく分かったな。伯爵は男爵に復讐する、それだけの為に伯爵家に婿入りしたんだ。そんな歪んだ思いで妻に娶られた伯爵令嬢は伯爵から愛されることもなく、夫婦仲は冷え切っていて、妻は跡取りを生んだ直後に愛人と出て行ってしまっている。そんな親を見て育った息子との仲も良くない。それもあって、息子は余計に父親が勝手に決めた婚約者に反発しているんだろう」

「なるほどね。ん? あれ、ちょっと待って。伯爵が男爵を嵌めて借金を作らせたのは確かに復讐になるだろうけど、ティアナ様を息子の婚約者にするのは何で? 男爵側からすれば格上の家と繋がるって悪い事じゃないよね?」

「恐らくそれも復讐の一環じゃないかとは思う。伯爵は男爵を自分と同じように絶望させたいんじゃないかと思う。ホワイトハート男爵家は男爵とティアナさん以外もう誰もいない。大切な娘を取り上げ、男爵を孤立させ、最終的に男爵家を断絶させるのが目的なんじゃないかと推測するが…」

「何それ、酷い!」

「あくまで憶測だがな。状況からそう考えられるというだけだ。人の行動は読めるが、人の本心は私でも読み切れない。人は時に自分さえも欺く。時に真逆の事を同時に考える。全く面倒なものだ」

「それだけ情報を集めてればほぼ確定だと思うけどね」


 面白くなさそうにそう言うマルコに、ルークは肩を竦めた。

 完璧主義な兄は理解できない不可解なものを厭う傾向にある。

 人の感情など、真っ先に切り落とす人間だ。けれど、それが変わりつつある。


「…これもティアナ様のお陰かな」

「ん? 何か言ったか、ルーク」

「いや、別に」

「そうか? ん? もうこんな時間か。そろそろホワイトハート家に行かなくては。今日のティアナさんへのプレゼントに意見を聞かせてくれ。この珍しい目が光る黄金のカラクリ像をどう思う?」

「ドン引きだわ。置いていけ」



★★★★★



 ここ最近、日課が増えた。


 ティアナは溜息を零しながら外を見る。

 辺鄙な場所にあるホワイトハート男爵家へ訪れるものは少ない。婚約者でもめったに訪れない程だ。


「…まぁ、テオボルト様は元々滅多に来られませんけど」


 クスリと笑う声もいつもより明るくて、自分で恥ずかしくなってしまう。

 こんな風に誰かが訪れる事を楽しみにするのは、母が亡くなってから初めてかもしれない。本当は楽しみにする資格など、自分にはないのだけど。

 爵位も低く、見目も良くない自分のような娘にあんな夢のような出来事があるだなんて信じられなかった。


「マルコ様のような素敵な男性に愛を囁かれるだなんて、まるでお伽噺のようね」


 物語のヒロインになったようで、とても胸が高鳴った。

 マルコがどんな意図をもっていたのかは分からない。もしかしたら、からかわれているだけなのかもしれない。

 それでもティアナはマルコに感謝している。とても素敵な夢を見せて貰ったのだと。

 だが所詮、夢は夢。いつか醒める時が来る。

 それはまだ先かもしれないし、今日かもしれない。

 それでも、まだ先であって欲しいと願う自分を浅ましいと思う。

 お茶を飲んで、笑い合う。夢のような時間をくれる彼に、ティアナは好感を持っていた。

 美しい人だと思うし、立派な人だと思う。けれど、何よりも自分を楽しませようと心を砕いてくれる様にときめきを感じる。

 けれど、一生涯見る事はなかっただろう宝石やドレスを差し出されても、彼女は受け取る訳にはいかない。―――彼女はマルコのお姫様にはなれないのだから。


 小さくため息をついた時、呼び鈴が鳴った。


 彼女は直ぐに立ち上がり、玄関へ向かう。

 急かす様に何度も呼び鈴を鳴らされ、少し駆け足で扉を開けた。


「はいはい。いらっしゃいませ………え?」


 扉の前にいた人物を見て、思わずティアナは驚く。

 そこにいたのは、にこやかな笑顔を浮かべる美丈夫ではなく、不機嫌な顔をした青年だった。


「何だ、その顔は。婚約者がわざわざ来てやったというのに」

「あ、申し訳ありません。驚いてしまって…ごきげんよう、テオボルト様」


 ティアナは直ぐに歓迎するように笑顔を浮かべる。

 その笑顔を見て、テオボルトはふいっと顔を逸らした。


「来て頂けて嬉しいですわ。何か御用でしょうか?」

「用がなければ来てはいけないような口ぶりだな」

「いえ、そんな事は…」

「…まさかとは思ったが、噂は本当だったのか?」

「噂、ですか?」


 呟くように言ったテオボルトの言葉に、ティアナが首を傾げる。

 そんなティアナを睨むように、苦い顔でテオボルトは言った。



「お前が婚約者ではない男と一緒にいるという噂だ」

「え」



 ティアナが絶句していると、その姿を見てテオボルトはあからさまに表情を緩める。


「何だ、やはりデマか。父が様子を見て来いと煩いから来てみたが…お前に男がいるなんてありえないとは思っていた。もしかして、余りにもオレが来ないから寂しすぎて自分で噂を流したのか?」

「いえ、そんな…」

「全く仕方がない奴だな。一応、お前はオレの婚約者という立場だ。見っともないマネはやめろ。今度からもう少し来てやる。だから…」

「あ、あの…」



「いえ、来なくても大丈夫ですよ。ティアナさんには私がいますから。寧ろ、邪魔です」

「え?」



 オロオロとするティアナに気付かず、どこか満足げに言葉を紡ぐテオボルトを遮って、威圧的な声が響いた。

 テオボルトが振り返れば、そこには花束を抱えた見慣れない美丈夫が全く笑っていない目を細めている。


「初めまして、『一応』、『今のところは』ティアナさんの婚約者さん」

「誰だ、お前は?」

「私はマルコ・ブラックベール。覚えて貰う必要はありませんよ。私もあなたの名前を覚える気はありませんから」

「な…っ!」


 絶句するテオボルトに、マルコはうっそりと笑う。


「もう噂になっていたんですね。中々早かった。噂は本当ですよ。ティアナさんと一緒にいたのは私。ティアナさんの求婚者です」

「はぁ!? 何を言ってる! ティアナはオレの…!」

「ええ、知っていますよ。貴方はティアナさんの婚約者『だった』男だ」

「貴様…っ!」


 殺気立ったテオボルトに、マルコは自信に満ち溢れた笑みを更に深めた。



「でも、そろそろご退場頂きたい。貴方では力不足でしょう。―――ティアナさんの婚約者に相応しいのは私だけですから」



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