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生まれた星の下で父は何を願う。

きらめく星の下。空を見上げて紫煙を上げる21歳。

どうも長男です。


携帯を開いて時間を確認するとすでに夜中の1時。

体をさする様に、冷えた風が吹きすさぶ。


隣には凍えて死にそうな顔をした父。

あぁ、眠るんじゃない。死ぬぞ父さん。


体をゆすって父の意識を取り戻させる。

父は重いまぶたを必死でこする。


もう。たくさんだ!畜生!全部あいつのせいだ!

言ってやる!言ってやるさ!俺のすべてをかけて!!!


僕は自分の家を見上げて言葉を放った。

強く、切なく、消えそうな声だけどあの人に届くように。聞こえる様に。






「ごめぇええんなぁあさぁあああああーいぃぃいいいい!!!!!」






事の発端は二時間前。


僕と父は二人で酒を飲んでいた。


母と飲むと荒れて結局は殴られるし。

姉と飲むと荒れて結局は殴られるし。


つまり。

結局はこうして父と僕がそろうのは何ら不思議なことでなく当然のことなのです。

自衛本能の結果なだけなのです。

生存本能なのです。あぁ。人間ってすばらしい。


お互いのお猪口にお酒をついでくぃっと一気飲み。

はぁーと息を漏らして互いに微笑む。そう、この平和な一時に乾杯。

姉は自分の部屋で僕の漫画を読みふけっているし母は風呂に入っている。

限られた時間ではあるが今のこの時間が平温である事は確かだ。

さっき時間稼ぎのために姉にはアニメのDVD、母には美容セットも渡してきた。

これでしばらくは時間が延びるはずだ。


そんな事を考えていると父が口を開いた。


「お前は体がたくましくなったなぁ。」


父さん、母が相手してくれないからって僕をそんな目で見ないでください。

下から上に視線を動かすんじゃない!

いや、嫌よあたし!興味のある男以外とは体は・・・!


「何を考えているか予想できるけど・・・」


予想できるならそんな目で見ないでくれ。いや、僕の考えが間違っているのか。


「急になんだよ・・・・・・あ、それより俺聞きたいことがあるんだよ。」


興味範囲で買ったビリーブランクス。

まったく予想外の結末であるが無駄にのめり込んでしまった。その結果、僕に与えられたプレゼントはスリムで美しい腰のラインでは無く、その辺の女子より大きい胸囲と無駄な上腕二頭筋だ。そんな事は置いておいて、本題を続ける。


「なぁ。母さんと父さん。どうして結婚したんだ?」


「・・・母さんが聞いていたらお前。死んでるな。」


僕は自分と父の分のお猪口に新しい酒を注ぎながら言葉を続ける。


「普通なら出会わない二人じゃないか。銀行員と元レディース。」


唐突な展開に目を白黒させていると父は唐突に笑い出した。

僕も何がおかしいのかわからない。

むしろ色々な意味でおかしくなったのではないかと本気で父を心配する息子がここに一人。そして父は微笑みながら僕にこういうのであった。


「父さんはな。決められた事しかできなかった。」


その言葉から始まった父と母の壮大なストーリー。僕は息を呑んで固唾を見守った。






はずだったんだけど。姉の部屋から僕を呼ぶ声がして話はさえぎられた。

父は言って来い、と手のひらをヒラヒラとさせ新しい酒を取りに冷蔵庫へと向かっていった。


タイミングの悪い呼び出しに軽くイラつきを覚えながら姉の部屋に入る僕。

ドアノブに手を掛けて姉の部屋を入る。

「どうしたの?何か用?」


姉は真剣な顔をしながら近くに寄れという。

しまった。さっきの発言を聞かれたか?ゆすられる恐怖を胸に近づく僕。

そして姉の口から言葉が飛び出した。


「このぉぼけがぁあああああー!」


とたんにベッドのから飛び上がった姉。さながらマトリックスのようだ。

そのポーズに意味はあるのか。そう思った瞬間手刀が肩にめり込んだ。


「グハァッツ!!」


短い悲鳴を上げて倒れこむ僕。その上にまたがる姉上。手にはさっき貸したDVDが握られていた。ソレを誇示するかのように高らかに上に上げて・・・。振り下ろす。

鈍い音が部屋に響く。


「ギャッ!」


ウメズカズオの漫画じゃありません。今ここで起こっている惨劇です。

姉は興奮した様子で暴言を吐く。


「り、理由を!お願い理由、がふぁっ!」


姉の膝蹴りが股間にダイナマイト。アンドジャストミート。

姉は息も絶え絶えにこう言った。

中身が違うと。中身を確かめると確かに違う。この間,間違えて借りた近親相姦のDVDだ。

だってほら。よくやるでしょ皆さん。あいたケースに別の中身入れちゃうこと。

ねぇ。よくあることじゃない。

僕だって普通のAVがよかったんだ。

ただこれは純粋に店員のミスなんだよ。




ただ。中身がよくなかった。




「はい。題名を大きな声で読みなさーい。」



「そ、それだけはご勘弁を!姉貴、金は払う!いくらだ!いくら欲しい!」



そして放たれる右膝ダイナマイト。めり込む腹にジャストミート。Yeah。チェケ。

姉は窓を開けてこちらを振り返る。その顔はさながら般若の如し。


「次は玄関のドアも開けようかぁ?」


「頼む!わざとじゃないんだ!許してください!許してください!」


繰り返される暴言と懺悔。

父はドアの外から顔を半分だけ出してこちらを覗き見ている。


来るな。


目で合図すると父はすばやくリビングへ戻っていった。

父よ。ちょっとはこう・・・ね。助ける仕草というか父の威厳というか。

そんなの関係ねぇーとばかりに姉は言葉を続けた。

言霊ってありますね確実に。ここに。

「題名を。読め。大声で。」


あぁ。さようなら僕の近隣の皆様との信頼関係。そして平穏な日々よ。

こんにちは。変態と呼ばれる日々よ。迎えるがいい。

最強の変態の誕生だ!変態王の誕生だ!そしてその王は誕生の産声を上げる。

高らかに。


「姉とHィィイイイイイイイィイイィイイイイ!!!! 」




この大声を聞きつけた母が僕を家から追い出すのにかかった時間はあっという間のことだった。一人で酒を楽しんでいた父もお守りとして巻き沿いに。

そして今に至る。



こんなはずじゃなかった。父と母の感動のストーリーが幕を開けるはずだったのに。

全米が泣いた!みたいな感じだったのに。


今。色んな意味で全米が泣いたストーリが出来上がりつつある。

僕と父の凍死という結末で。


ふふ、星が・・・・まぶしい夜だ。




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