第1次戦争
朝日がカーテンの隙間から顔を覗かせている。
彼らが照らすのは美しく微笑む妻でも彼女でも綺麗に片付かれた部屋でもありません。
二日酔いで顔が膨れ上がった僕の御顔です。
どうも。長男です。
同じ体制で何時間も固まっていた為か全身が軽く痛みます。
お気に入りの煙草。マイルドセブンを口にくわえ火をつける。
口からは十二年見続けた紫煙が部屋の天井へと向かって昇っていった。
同時にため息とうめき声も漏れ出る。
すでに中年の親父と化していると思うのは僕だけでしょうか。
そんなこんなでおなかが減っている事に気づいたのでご飯探索隊に変身。
シャバダーン。
ゆっくりと自分の部屋のドアを開けリビングへと向かいますが。
目に付いたのはひとつの鍋と書置きのメモ。
鍋の中身はすでに水分をたんまりと奪われた味噌汁。
「世界には不幸な人がいっぱいいますよね。 母より。」
僕もその中の人にはカウントされているのでしょうか母よ。
ていうか計画犯だろうアンタ。
メモを丸めてゴミ箱へ。
最近母がマシな朝食を作った事が無い。
父に至っては毎日ケロッグコーンだ。牛乳の減りが早いのは父の孤独の証。
以前、母に父がかわいそうではないかと意義を申してたことがありますが。
それに対する母の答えは至極簡単なものでした。
「じゃあ母乳だったらよかったのかい。でるかしら母さん。」
茶を噴出した乳、いや父。
全力でその茶から逃走する犬タロー。
お気に入りの服に茶がかかった姉。暴走モード突入。
アンビリカルケーブルが切断された姉は誰にも止められない。
あら。
何故僕を蹴るのですか姉よ。
あっ、そこは駄目。駄目でございます姉上。
まだロクに役目も果たして折らぬ若造が多数ございます!
駄目でございます!姉上ー!
蹴り上げられた惨めな僕の息子を庇い中腰の姿勢で悶絶する僕に父が躓く。
茶を十分にふき取った布巾は母の御顔へ見事に飛び立った。
そしてその日も松永家の戦争が始まるのでした。
今日はすでに昼過ぎ。
平和な一日が僕を待ち構えています。
久しぶりに買い物でも行こうかと心が躍っています。シャバダーンw 失礼。
まず顔を洗いに洗面所へ向かうのですが途中で異物を発見。
廊下で寝ている姉でした。
普段着はおしゃれなもので様々な服をお持ちな姉ですが。
いくらおしゃれでも廊下でよだれたらして寝るのはどうかと。どうかと思いますぞ。
起こさぬ様に横をすり抜ける僕ですが足首が固定されているかのように動きません。
おかしいな。
力一杯足を持ち上げるのですが重くて上がりません。
そして後ろからは呻き声が聞こえてきます。
振り向いてはいけない。駄目だ。駄目だ。駄目だ。
足首に巻きついている「何か」は絞める力を強めてきます。
悲鳴を上げる足首に僕の心。
そして聞きたくない声が僕の耳に。
「ふふ・・・・ふふふへへへふふ」
あぁ、さようなら平和な日常。さようならお買い物。
そして平穏な日々を願ったわが心よ。
振り向くと顔の半分を髪の毛で隠した姉が足に巻きついていました。
うわ言の様におなかが減ったを繰り返しながら力を強めてきます。
観念した僕はそのまま姉をリビングまで引っ張り母の残した鍋を姉の目の前に置きました。絶望の表情の姉。どうでもいいがよだれを拭け。頼むから。
ていうか今鍋の中に入らなかったか?
味噌汁が完全に食物の欄から離れ、今後の僕の予定が決定された瞬間でした。
baby boy
私はここにいるよ。どこもいかずにまってるーよ。
晩御飯を作る僕の後ろで姉がずっと口ずさみます。
何か新しい呪いの様に聞こえるのは僕だけでしょうか?
どうか明日は僕の時間がありますように。
胸の奥に強く願って僕は今もカレーのお守りをしています。