Case18 トンデモと現実の狭間で
世に〝トンデモ系〟と称するジャンルが存在する……。
UFOとか、未確認生物とか、超古代文明とか、はたまた秘密結社の陰謀論だとか、とまあ、そういったいわゆる〝とんでもない理論〟を展開するものの見方や、あるいはそれを主張するデンパな人々のことである。一見〝中二病〟に似ていなくもないが、そちらが個人的な内向的妄想に終始するのに対して、彼らは外交的でより客観性を志向し、疑似科学な理論武装をしたりなんかもしているので余計始末に悪い。
だが、その明らかにイってしまっている論理展開もトンデモな人々にとっては揺るぎない真実であり、逆に我々一般人の信じて疑わない世の事象の方がむしろ事実を捻じ曲げた偽りの現実であったりもする。 つまり彼らに言わせてみれば、こちら側にいる人間の方こそ〝常識〟という名の色眼鏡をかけて世界を見ているというわけだ。
もしもあの時、その色眼鏡をかけて彼女を見ていなければ、俺と彼女の関係ももっと別のものになっていたのかもしれない……。
あれから一週間と一日後の日曜……。
俺は乙波とともにデートで再び赤毛山を訪れていた。といっても、あの林道の奥でも、また徳川埋蔵金の眠る洞窟の方でもなく、山麓に広がる赤毛山牧場への二度目の来訪である。
なんでも、この牧場で起きたという〝キャトルミューティレーション〟騒ぎに新たな展開があったらしい……ぢつは、あれは宇宙人にキャトられたのではなく〝チュパカブラ〟なる家畜を襲っては血を吸う化け物の仕業であることが判明したとかで、いつものことながら、その未確認生物を捜すと乙波が言い出したのだった。
そもそもチュパカブラはメキシコで目撃された背中にトゲのあるトカゲのような生物で、カンガルーのように後脚で立ち上がり、驚異的なジャンプ力がある云々…というものらしいのだが、乙波の仮説によると、そいつもやはりこの赤毛山に基地を持つ宇宙人と無関係ではなく、彼らが遺伝子操作で作った人工生命体なのだそうだ。
「ふう……どこまでも長閑だ……」
爽やかな春の風が吹き抜ける緑の牧場で、暖かい日差しの射す快晴の空の下、木でできた柵にもたれかかり、遠くで牛と戯れる乙波(本人としては、牛にチュパカブラの噛み痕がないか確認しているらしい…)という実に平和な景色をぼんやりと眺めながら、俺は独り、何者にも邪魔されることなく物思いに耽る……。
先日、俺と乙波は改めて事情聴取のために警察署へ呼ばれたのであるが、そこで聞かされた居住詩亜さん殺害事件についての詳しい内容にまたしても驚かされることとなった。
彼女が俺と乙波を赤毛山山中へ連れて行ったのはやはり俺の推理通りだった……堂室さんが居住さんを殺した犯人であり、さらに俺達の口まで封じようとしていたということだけでも驚きと戦慄を覚えるのにはもう充分過ぎるほどの真実であるが、彼女がルームメイトを殺害するに到ったその経緯の方が、それにもまして驚愕すべきものだったのである。
といっても動機だけを見れば、まあ、よくある三角関係の末の痴情のもつれというやつだ。やはり同じ大学に通う彼女のカレシが居住さんと浮気をし、それを知った堂室さんが居住さんと口論になった挙句、逆上して彼女を…てな具合である。
ただ、興味深いのはその浮気の発覚したシチュエーションについてだ。
殺人の起こった日の前夜、堂室さんはサークルの飲み会に出かけ、本来ならそのまま朝までカラオケに行って帰って来ない予定だった。そこで大胆にも居住さんは自分達の部屋へ堂室さんのカレシを連れ込み、彼女が留守の間に二人で愛し合って…そう。俺達青春真っ只中の男子高生ならば思わず妄想してしまうようなチョメチョメなことをしていたのであるが、そこへ運悪くもカラオケを早く切り上げた堂室さんが帰って来てしまったのである。
それでも、居住さんは咄嗟にカレシをベッドの下へ隠れさせ、なんとかその場を切り抜けた。しばらくそうして隠れていて、堂室さんが眠った後にこっそり部屋から逃げ出す手筈だったらしい……。
ところが、ここで一つの悲劇が起きてしまった。彼女がすっかり寝入ったものと思い込み、安心したカレシがベッドの下から這い出したところ、その不審な物音に気付いた堂室さんが何も知らずに電気を点けたのである。すると、そこにはなぜか素っ裸で自分の部屋にいるカレシの姿が……彼の苦しい言い訳も虚しく、すぐに居住さんとの仲を感付かれてしまったというわけだ。
そして、夜が開けて翌一日の正午近く、居住さんを問い質したところ「別に浮気の一回くらいいいじゃん」と居直られて堂室さんは逆上。それまでは仲良く一緒に暮らしていたルームメイトをそばにあった電気コードで思わず絞め殺してしまったのである。
彼女は取り調べに応じる中で、「もしあの時、電気を点けてさえいなければ…」と、最悪の事態を招く発端となった何気ない自分のその行為を、今更言っても後の祭りではあるが、運命を呪うかのようにひどく悔やんでいたという……。
奇しくも、それはまさに乙波から聞いた都市伝説〝ルームメイトの死〟を思い起こすようなものだったのである。
だから犯行を見ていた可能性のある乙波が無邪気にもそのネタを口にした際、急に声を荒げて、あんなにも取り乱していたのだろう……。
いや、都市伝説といえばそればかりではない。あのMIBかと思いきやぢつは覆面パトカーだった黒い車とのカーチェイス……あの時、乙波が〟バックシートの殺人者〟と意味不明な言葉を口走っていたが、それについても、あの勘違いな追いかけっこを彷彿とさせるような、そうした都市伝説が実際にあるらしいのだ。
その話の筋を乙波に聞いたところによれば――
「――深夜、女性が一人で車を運転しているとね、後から一台の車がついて来ていることに気付くの。その車は時々追い付いたりもするんだけど、けして追い抜こうとはせず、そのくせ怖くなってスピードを上げても、赤信号を無視して突っ走っても、どこまでも離れることなく、ぴったりとついて来るの」
「なんか、最近、どっかで聞いたような……てか、経験したことのある話だな……」
「でね、とうとう自分の家まで来ても、その車はまだ後について来ていて、彼女がクラクションを鳴らして自分の旦那さんを呼ぶと、家から旦那さんが出て来るのと同時にその車からも運転手の男が飛び出して来るの」
「クラクションは鳴らさなかったけど……そこら辺も微妙にかぶってるな」
「それで、その男を旦那さんが捕まえて、ここで何してるんだ⁉ って問い詰めると、男はこう言うの……俺が車に乗ってライトを点けたら、奥さんの車のバックシートで人の頭がひょいと動くのが見えたんですよ…って。そこで、夫が妻の車の後部座席のドアを開けてみると、そこには見知らぬ男――猟奇的な殺人鬼がいたっていうわけだよ。後をつけてた車の人は、その女の人の身の危険を感じて、なんとか助けようとしてくれてたんだね――」
――とのことだった。
これまた、まさに俺達の勘違いとどこか似たような話である。
ま、こっちの場合、殺人鬼がいたのはバックシートではなくフロントシートだったし、〝ルームメイトの死〟と同様、この類似もきっとただの偶然の一致なんだろうけど……それとも、火のない所に煙は立たないの諺の如く、今回のように実際そういったケースの事件が起ったりすることがあったので、それをもとにこの二つの都市伝説も生まれたりしたのだろうか?
ああ、そうそう。火のない所に…といえば、この一週間で新たにわかった新事実が他にもあったのだ。
あの目之頭公園の蓬莱池で目撃されたホッシー。あれは二、三日前に、市民の通報を受けた地元交番巡査と市の公園管理課職員の手で無事捕獲された。
といっても、無論、首長竜の生き残りなどではない。ぢつはあれ、飼い主がうっかり逃がしてしまった海イグアナを、ただ単に見間違えたものらしい……。
んなもん、どうすりゃ見間違えるんだ? とも思ったが、まあ、あの背中のトゲトゲを水面に出てして泳いでる姿を遠目から見れば、確かにノコギリ状のヒレがある怪物に見えなくもないか……蓋を開けてみればなんのことはない。「幽霊見たり枯れ尾花」というやつだ。
しかも、ホッシーに関しての話はそれだけで終わらない。ぢつはそのイグアナが、あの側溝で目撃されたというワニの正体でもあるらしいのだ。
なんでも最初、その逃げたイグアナは住宅街の側溝に迷い込んだみたいなのだが、それが流れ流れてあの公園の池まで辿り着き、それぞれの場所での目撃譚から一方は〝側溝のワニ〟伝説に、もう一方は〝蓬莱池のホッシー〟伝説になったということのようだ……つまり、ホッシーと側溝のワニとは同一のものだったということである。
まったく、人騒がせにもほどがある。見間違えた方も見間違えた方だが、飼い主も一旦飼うと決めたんだったら、ちゃんと責任を持って最後まで面倒を見てほしいものだ。
ま、そんなオッチョコチョイさん達への文句はともかくとして、そう言われると確かに辻褄が合うし、なるほどお…って感じではあるが……しかし、これにはさらに後日談があったりなんかもする。
すったもんだの大捕り物の末、イグアナを捕まえた巡査と市の職員が名乗り出た飼い主にそれを返してやったところまではよかった。ところがその翌日、今度は飼い主の部屋に泥棒が侵入し、せっかく返って来たのも束の間、そのイグアナは何者かによって盗まれてしまったのである。
ほんとに、なんともツイてないとしかいいようのない飼い主であるが、もしかしたら、そんな単純なことでもないのかもしれない……。
その飼い主が被害届を出す際、警察に語った話によると、そもそもその海イグアナは赤毛山へハイキングに行った時に草むらで動かなくなっているのを見付け、爬虫類好きだった彼が拾って来てペットにしたものなのだそうな。
だが、その撮影した写真を馴染みのペットショップ店員に一目見せたところ、爬虫類に詳しいその店員は「なんか、イグアナとはちょっと違うような…」と、訝しげな表情でコメントしたらしいのだ。しかも、嘘か真か飼い主の言うには、そのイグアナは時々、後ろ脚二本だけで立って歩くこともあったとかなんとか……。
イグアナのようだけどイグアナじゃない、二足歩行もする爬虫類……背中のトゲトゲ……拾った場所は赤毛山……もしや、それこそが乙波が現在捜索中の〝チュパカブラ〟であり、宇宙人が生み出したという人工生命体だったりとか……。
それが、何かの拍子に赤毛山の秘密基地より脱走し、彼らが必死になって探していたところ、ホッシー騒ぎでその所在が掴めたために飼い主のもとより回収したのだとしたら……あ、いや、乙波ならそう考えるかもしれないと、ちょっと思っただけのことだ。別に俺がそんな風に思っているわけではない。
ま、とりあえず、そんなありえない妄想は置いといてもう一つ。ここ赤毛山に眠るとされる徳川埋蔵金についても、それに関わる奇妙な事件がやはりこの週の頭に発覚した。
堂室さんの逮捕後、当然、そのニュースは全国的に話題となり、居住さんの遺体捜索をする警察や事件の取材に来たマスコミ連中によって、静かな山中は再び喧騒に巻き込まれることとなった。俺と乙波もそんなわけで、しばらくはマスコミから逃れるのに大変だったのであるが、それよりもそんな騒ぎの最中、あの俺達が発掘を行った洞窟の方へなんとなく廻ってみた記者の一人が、その入口が崩れて埋まっているのを偶然発見したのである。
その様子を俺もテレビで見てみたが、確かに崩れた岩が入口を塞ぎ、俺と乙波が行った時とはまるで違う姿になり果てていた。その後の調べによると、どうやら俺達が訪れたその翌週の日曜にそんな無惨な有り様になってしまったらしい。
まあ、それだけならば、「ああ、よかった。一週遅れて行ってたら危ないところだったよ」と冷や汗をかくだけですんだ話かもしれない……ところが、崩落原因を調べた地質の専門家の話によると、どうもそれがただの自然崩落ではないようなのだ。
崩れ方を見るに、なんだか爆破されたような痕跡が認められるらしいし、実際、それを発見した記者も微かに火薬の臭いが残っているように感じたと証言している。いや、そればかりか、おそらく崩落が起きたと思われるその日の夜、ドーン、ドーンと間隔を開けて二度、何かの爆発するような音が山の方でするのを近隣住民が聞いていたりもするのである。
あたかも、誰かがあの礫で埋まった洞窟の奥壁に発破を仕掛け、何かをその奥から取り出した後に再びダイナマイトで入口を塞いだかのように……。
間近で乙波のデンパを浴びまくっている内に感化されてしまったのかもしれないが、こうしていろいろなことが重なってくると、さすがに穿った見方もしてみたくなるというものだ。巷で云われている噂や伝説、あの一週間あまりの間に起こったことの時系列などを複合して考えてみるに、ある一つの筋書きが見えてきたりもする……。
即ち、洞窟を爆破して埋蔵金を掘り出したのは市の経団連の連中であり、あの週の火曜に開いていた月例会議は、実は埋蔵金発掘の計画を密かに練っていたものなのかもしれない……では、なぜ彼らが埋蔵金の在処を知っていたのかといえば、かつて、あの洞窟を掘ったという資産家有志達の一団こそが、現在、経団連となっている組織を立ち上げた者達なのではないだろうか?
発見したのに公表していないのは、もしそうと知れれば、所有権の問題でほとんど国に持って行かれてしまうからだろう。そして、近々手に入るその莫大な資金があったが故に、彼らは昨今の不景気で冷え込んだ市の経済活性化のため、自分達の経営するフライドチキンやハンバーガーの店で半額セールを開催することにしたのだとしたら……。
それと、奇しくも埋蔵金が掘り出されたと思しき日曜の夜、うちの高校で目撃されたという〝廊下を行進する兵隊〟の幽霊だ。
その幽霊の一団が向かった先には校長室がある……もしも、その発掘した大量の金塊を隠すのに、あの校長室の大鏡の裏にあった金庫の中へ運び込んだのだとしたら……いや、校長室だけじゃない。あのベートーベンの裏や階段の下、それにかつてプールの底にあったという謎の扉の中も、ぢつは経団連が密かに作った、こうした時のための隠し金庫だったんじゃないだろうか?
ってことは俺達がこの前見た時、あの扉の向こう側には時価四千億円にも上るかの有名な徳川埋蔵金が……あの校舎は五十一銀行の寄付で建てられたという話だが、その銀行の頭取も代々経団連の中心的メンバーになっている。世間の目を欺くために、高校の隠し金庫を使おうと考えることだって当然……。
……いや。そんなわけないか。ちょっと妄想が過ぎたみたいだ。俺も自分の気付かぬ内に、そうとう乙波の影響を受けてしまっているらしい……こりゃ、しばらくトンデモなデンパを遮断して、まともな論理的思考を取り戻さねばならんな。
だが、ただ一つ。どう考えて不可解でならないのは、俺の家を訪れたあの〝黒尽くめの男達〟のことだ。
俺は確かにあの二人の男に会って、現実に話をして、乙波の身辺警護を依頼した。それは間違いない。
それなのに、古場警部に聞いてもそんな刑事は知らないというし、あの犯人逮捕の時も先日行った警察署でも、彼らの姿を見かけることは一度としてなかった……じゃあ、一体あれは誰だったのだろうか?
まさか、本当にMIB⁉ ……いや、そんなバカなことが……あ、でも、あの二人、妙に人間離れした動きしてたし、夕暮れ時の香りに混じって、MIBが現れた時にするっていう硫黄の臭いを嗅いだような気も……。
「ダメだあ~! チュパカブラの噛み跡見付からないよ~。もしかして、襲われた家畜は政府の秘密機関とかが回収しちゃってるのかな?」
そうして最後に残った最大の謎について俺が考え込んでいると、いつの間にやらすぐ目の前まで来ていた乙波が疲れた様子で愚痴をこぼした。
「……ん、どうかしたの?」
「わっ! …あ、い、いや別に……ちょっと、あの二人の男について考えててさ。ほら、うちに来たっていう黒尽くめの……」
気付かず思考に没頭していたところを下から覗き込まれ、突然、眼前に迫った円らな瞳にびっくりした俺は、少々どぎまぎしながら思わず本当のことを口走ってしまう。そんな話題を乙波に振っては、また話がトンデモ方向に混沌化してしまうというのに……。
「ああ、あの二人ね……言おうかどうしようか迷ったんだけど、ま、もう知ってる上敷くんにならいいよね……実はね、あの人達、うちにも来たんだ」
「ええっ⁉」
だが、乙波は俺の想定した予想範囲を遥かに凌駕し、また、とんでもない報告をさらっと笑顔でしてくれる。
「き、来たって……あの、全身黒尽くめの? サングラスかけた? ノッポとメタボの?」
「うん。その二人組のMIB」
俺は目をまん丸くして乙波に確認を取るが、彼女は考える間もなく、もう一度、首を大きく縦に振ってみせる。
「うちに来たのは堂室さんが捕まったあの土曜の夜遅くだよ。なんか、その前の日に上敷くんとこにも行ったって言ってたけど、こっちでも最初は刑事の振りしてたよ。この前、上敷くんが刑事さんに話してたのって、あの二人のことだったんだね」
話の内容は多分にトンデモであるが、その口振りからして、どうにも嘘や妄想でも、幻覚や勘違いでもないらしい……。
「で、でも、どうして……」
何がどうなってるのかさっぱりわからないが、とりあえず俺は頭に浮かんだその疑問について尋ねてみる。あの失踪事件は宇宙人の仕業なんかじゃなかったし、事件はとっくに解決して犯人も捕まってるっていうのに、一体、なんの目的があって彼らは乙波のもとを……。
「それはもちろん、わたしが見たUFOの編隊について、誰にも言わないよう口止めするためだよ」
だが、訝る俺を他所に、乙波はさも当然とでもいうかのように俺の失念していたトンデモ系にとっては当たり前すぎるその答えを口にする。
「どうやらあのUFO、ものすごく重要なミッションに関係するものだったみたい。わたしが思うに、最近ここら辺でUMAの目撃情報多いし、もしかして遺伝子操作で新種の生物を作る実験でもしてたんじゃないかな? だから唯一の目撃者であるこのわたしに脅しをかけてきたんだよ。あの失踪事件のおかげで警察やマスコミの目もわたし達の周りに集中してたしね」
そうか、あの失踪事件のことばかりが頭にあって、すっかりそのことを忘れていた……そもそもMIBはUFO事件の揉み消しに現れる存在だったんだ……だが、それじゃあ、やっぱりあの二人組は本当に……
「それでもそんな脅しなんかに屈せず、彼らの存在を世に暴露してやるつもりだったんだけどね……ま、結局、あれはアブダクションじゃなかったし、もししゃべったら、わたしだけじゃなく、わたしの大切な人達にも危険が及ぶって脅されたからね。しょうがない、あのUFOの編隊飛行については内緒にしておくことにするよ。正論くんに何かあったら大変だからね」
唖然とする俺に、またも乙波はさらっと恐いことを微笑みながら言ってくれる。
あ、でも今、ものすごく怖いことと一緒に、なんか、とってもうれしいことも言われたような気が……。
俺は背中に嫌な汗をかきながらも、なんだかポワっと心に春が来たような気持ちになる。
「あ! 今なんか変なのがいた!」
と、俺が相反する二つの条件反射に襲われていたその時、不意に乙波が茂みの方を見つめ、そう大声を上げて走り出した。
「もしかして、チュパカブラかも~っ!」
「…………ふぅ…」
そうして無邪気に牧場を駆け回る子供のような乙波の後姿に、俺はもうそれ以上、この答えの出ぬ不毛な問題に取り組むことをいい加減放棄する。
……ま、乙波の言うトンデモな話が嘘だろうがほんとだろうが、そんなのはもうどっちだっていいか……こんな風にいつも彼女が傍にいて、毎日がこうして愉しければ……。
「お~い! ちょっと待ってよ~!」
俺はそう思い直すと、どこまでもトンデモな彼女の後を追って、清々しい晴天の下を自分も一緒に走り出した……。
(トンデモな彼女とのつきあい方 了)
To Be Continued?




