Case11 アブダクション
世に〝トンデモ系〟と称するジャンルが存在する……。
UFOとか、未確認生物とか、超古代文明とか、はたまた秘密結社の陰謀論だとか、とまあ、そういったいわゆる〝とんでもない理論〟を展開するものの見方や、あるいはそれを主張するデンパな人々のことである。一見〝中二病〟に似ていなくもないが、そちらが個人的な内向的妄想に終始するのに対して、彼らは外交的でより客観性を志向し、疑似科学な理論武装をしたりなんかもしているので余計始末に悪い。
だが、その明らかにイってしまっている論理展開もトンデモな人々にとっては揺るぎない真実であり、逆に我々一般人の信じて疑わない世の事象の方がむしろ事実を捻じ曲げた偽りの現実であったりもする。 つまり彼らに言わせてみれば、こちら側にいる人間の方こそ〝常識〟という名の色眼鏡をかけて世界を見ているというわけだ。
もしもあの時、その色眼鏡をかけて彼女を見ていなければ、俺と彼女の関係ももっと別のものになっていたのかもしれない……。
「ハァ……」
翌日の朝、昨日にも増して疲労感漂う顔で登校して来た俺は、とぼとぼと力ない足取りで教室へと向かいながら、今日何度目かとなる大きな溜息を吐く。
乙波とつきあいだしてからまだ半月ほどしか経たないというのに、俺はもう彼女とつきあうことにほとほと疲れ果てている。
彼女がトンデモな説を信じ、話が噛みあわないくらいならばまだいい……だが、そればかりかここ二週間というもの、俺は〝デート〟という名の自主的なトンデモ調査研究に引っ張り回され、最早、乙波と二人で非公式なオカルト研究会状態である。
ああ、ちなみにうちの高校には今のところオカルト研はない。いっそ、ほんとに設立してしまった方がまだ少しは不毛さも薄れるというものだ。
でも、「デートはわたしの行きたい所へ連れてってくれる」という条件でつきあいだした手前、こちらから誘いを断るわけにもいかないし……やっぱり、彼女とつきあうのには無理があるのかなあ……。
「あ、上敷くん、おはよう!」
と、そんな青春真っ只中な問題に悩されつつ教室の前まで到達した時、ちょうど件の乙波が小走りに駆け寄って来て、なにやら弾んだ声で俺に挨拶をした。
「あ、ああ、お、おはよう……今日はなんだか、いつにも増して楽しそうだね……なんかあったの?」
タイミング良くというか悪くというか、噂をすれば…な感じで現れた彼女に、俺は自分の心を見透かされないよう、どぎまぎしながら誤魔化して尋ねる。
「うん! まさにその通り何かあったんだよ!」
すると、乙波は目をさらにキラキラと輝かせ、俺の鼻先にぐっと詰め寄ると、まるで水を得た魚の如く能弁に語り出した。
「ほら、入学式の日にわたしがUFOの編隊を見た所に建ってるマンション! あのマンションで女性が一人行方不明になってるらしいの! しかも、行方がわからなくなったのは四月一日――つまり、あの入学式の日なんだよ! こんな偶然あると思う? そんなの都合良すぎるよ!」
「あの……どうして、それで浮かれてるのかな?」
異様にテンションの高い彼女に、僕は恐る恐る重ねて質問をする。となりのマンションで女性が失踪したらしいことはわかったが、その事件になぜ乙波が興味を示しているのかが皆目見当つかない。
「アブダクションだよ! アブダクションケース!」
「あぶらかたぶだら?」
「違うよ! ア・ブ・ダ・ク・ショ・ンだよ! UFOに遭遇した人間が宇宙人に誘拐されるっていうアレだよ! きっと、その行方不明になったって人はあのUFOに連れ去られたに違いないよ!」
……なるほど。いつもながら、こちらの想像をはるかに上回るこじつけだ。だが、それなら彼女がはしゃぐのも納得できる……いや、そのアブダクなんとかだというのは納得できないけど。それに、そんな人が行方不明になってるってのにはしゃぐのは不謹慎だろ?
「い、いや、いくらなんでもそれはないでしょ? もしほんとにUFOがあのマンションの上を飛んでたんだとしても、同じ日に行方不明になったのはただの偶然…」
「ううん! ぜぇ~ったい、宇宙人による誘拐だよ! その証拠に黒尽くめの男達も学校の周りをうろうろしてるし。きっと、わたしがUFO目撃したの気付いてて、マスコミとかに口外しないように監視してるんだよ!」
これもいつも通り常識的に意見する俺だったが、そんな俺の口をトンデモな反論で即座に封じ、彼女はさらに妄想へと拍車をかける。
「黒尽くめ……ねえ……」
黒尽くめの男達――メン・イン・ブラック、略して〝MIB〟とも呼ばれている、UFOの目撃事件が起きた後、目撃者のもとを訪れては口止めをするという謎の人物達だ。
映画にもなったので俺も知っている。なんでも、アメリカ政府の秘密機関だとか、いや彼ら自体も地球外生命体なんだとかいろいろ言われているらしいが……日本でもお目にかかることなんてあるのか?
「まさかあの時、アブダクションまで起こってたなんて……ついにわたしの身の周りでもそんな事件が起こったか……ああ、こうしちゃいられない! てことで、今日の放課後調べに行くよ! それじゃ、また後で」
「え? あ、ちょっ、調べに行くって……」
そんなMIBに関する素朴な疑問に捉われている俺を放置し、乙波は何やらブツブツ独り言を呟くと、また突拍子もない企てを口にして走り去ってしまう。
「………おいおい、勘弁してくれよぅ…」
その、これまでのものを遥かに凌駕する迷惑極まりないデートのお誘いに、去り行く乙波の姿を飲み込んだ同級生達の往来を眺めながら、俺はしばし廊下の真ん中で呆然と独り立ち尽くしていた……。
「――今は昔、竹取りの翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使いけり……」
そうして、よりいっそう乙波との交際を考え直したくなるような出来事に朝っぱらから遭遇してしまう俺だったが、一時間目の古典の時間、彼女の言っていたことがすべて妄言でもないことを知ることとなる。
「…………ん?」
それは、クラスメイトの読む『竹取物語』をBGMに、ぼんやりと窓辺の席から外を眺めている時のことだった。三階にある俺達の教室からは校門の辺りを見渡すことができるのだが、その校門の前に黒いロングコートを着た男が二人、立っていたのである。
あれは……ひょっとして、乙波の言ってた……。
映画で見たように全身黒尽くめというわけではないが、どちらも黒いコートの下にもダークスーツを着込み、確かにMIBを彷彿とさせるような黒っぽい格好だ。遠くてよくは見えないものの、どちらも短髪で、三〇代~四〇代くらいのように覗える。
まさか本物のMIBじゃないだろうけど、だとすると、あれは一体……。
予備知識を持って見るためもあるだろうが、それでもこんな時間帯に、働き盛りの男が高校の前をうろちょろしてるというのはいかにも怪しい……ま、学校関係者か生徒の身内という可能性もなくはないけど、それにしては何やらきょろきょろと辺りを気にしているみたいで、その挙動もどうにも不審である。
……一体なんなんだ? ……ほんとに乙波の言う通りアブダクなんとかが起きたってんじゃないだろうな……。
「おい、上敷。どこ見てるんだ?」
だが、そこはかとない不安をともなった俺のそんな疑問は、不意に教師の声で遮られることとなる……って、別に格好つけて言うほどのことじゃない。ようはただ他所見していたのを見咎められたのである。
あ! ヤベ……。
「そんなに暇か? じゃあ、今度はお前に読ませてやる。続きを読んでみろ」
そのいかにも国語といった感じの三十代男性教師・空窪荘司は、嫌味にそう言うと朗読の続きを命じる。
「え、あ、はい……えっと……」
「翁、言ふやうからだよ」
無論、MIB(?)に気を取られてまったく聞いてはおらず、とりあえず立ち上がるも慌てふためく俺だったが、となりの有尾が口元に手を当て、親切にも小声でそう教えてくれる。
「え、えっと……翁、言ふやう、我、朝ごと夕ごとに見る竹の中におわするにて――」
有尾のおかげでなんとか危機を脱することができた。彼女には心の底から感謝である。今度、水泳後の栄養補給に最適なスポーツドリンクの五〇〇ミリペットボトルでも奢ってやろう。
「よし。もういいぞ。だが、これからはちゃんと授業に集中するようにな。じゃ、次は誰にしようかな? と……」
「ふぅ……」
朗読をすませ、安堵の溜息を吐きながら腰を下ろした俺は、もう一度、窓の外へと視線を向けてみる。だが、その時にはもうすでに、黒尽くめ達の姿は校門の前より消え失せてしまっていた。
ま、忽然と消えたわけでも、UFOから発せられた光線で船内に吸い上げられたわけでもなく、ただ単にどこかへ歩いて移動しただけなんだろうが……あいつらはほんとに何者だったんだろうか?
そして、昼休み……そんな俺や乙波の見た〝黒尽くめ〟達の正体は、意外なところから明らかとなる。
「上敷、たまには一緒に飯食い行こうぜ!」
「悪い。先役があるんでな」
四時間目のチャイムとともに騒然とする教室の中、昼食に誘ってきた伴野を俺はそう言って軽くあしらう。
「チッ、また例のカノジョとラブラブなランチタイムかよ~。最近、つれないぞ、お前。ぜったい、すぐに別れると思ってたのによ~」
「しかし、君もよく続くねえ。僕が知る限り、天音乙波との交際時間は君が最長記録保持者だと思うよ?」
顔をしかめ、もてぬ男のひがみ丸出しに文句を言う伴野の傍らで、やはり一緒に食うつもりだったらしい後合が感心したようにそう口を開く。
「そうなのか? ハァ……なんて忍耐強い男なのかと、自分で自分を褒めてあげたくなるような歴史的偉業だな。前におまえらの言ってたことが、今ではものすごく実感できるよ」
「フフ…いろいろと噂聞いてるよ? 上敷くんも何かと大変だねえ~」
後合の記録認定に肩を落として俺がボヤくと、まだ席にいた有尾もニタニタと笑いながら話に参加してくる。
このイヤらしい笑顔……なんだか妙に愉しそうだ。先程、助けてもらった恩もあるので何も言えないが、そうやって他人の不幸を蜜の味にしないでもらいたい。
「まったく、みんな他人事だと思って……ああ、そういえば有尾、おと…いや、天音って、女子の間ではどんな風に見られてるんだ?」
まるで噂好きなご近所のおばさんのような顔をしている有尾だが、その顔を見ていてふと、俺はずっと気になっていることを訊いてみようと思い到った。
有尾に限らず、この頃になると、俺と乙波のトンデモな交際模様は都市伝説並の伝播スピードで全校生徒達の間に知れ渡っていた。発信源はわかっている……唯一、俺がそのことをボヤいた相手――ここにいる伴野である。ったく、このおしゃべり野郎が……。
そのお蔭で外見のカワイさから常に十位以内にはつけいていた乙波の男子人気ランキングも一気に急降下し、まあ、寄ってくる虫がいなくなって結構なことではあるものの、果たして彼氏としては喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら……。
ま、それはそうと、そんなわけで女子達から見た乙波の印象というものもちょっと気になったのである。体育の時に一緒になるし、有尾の社交性ならその辺のことにも詳しかろう。
「うーん……ま、普通かな? 男子が言ってるほど評価は低くないし、逆に高いわけでもないからね。ほら、女子っておまじないとか占いとか、そういったオカルトっぽいもの好きだから。男子より話合うんじゃないかな?」
俺のその質問に対して、有尾は少し考えた後に冷静に分析してそう答える。なるほど……ちょっと十把一絡げ感はあるが、確かに男子よりは女子達の方が一般的にトンデモ属性に親和性があるのかもしれない。
だが、それを聞いてちょっと安心した……いくらカレシといえど、年頃の女子高生が女友達と一緒にお昼も食べず、俺なんかとばかり食べているので少し心配になっていたのだ。もしや、トンデモな思考が災いし、誰も友達がいないのではないかと危惧していたのだが……。
「でも、ちょっと浮いてるって感じはあるかな? 親しい友達がいないっていうか」
しかし、俺が安心したのも束の間、続けて有尾はそう付け加える。
「表面上はみんな普通に接してるんだけどね。別に不思議ちゃんとかじゃないし、女の子が興味持つような話題も普通に通じるし……だけど、やっぱりよく話してみると、ちょっと理解できないところとかもあるんだよね。世界観が違うっていうのかな?」
やっぱり……それは以前、後合から聞いた結論とよく似ている。今では俺もまさにその通りだと思うところである。やはり女子達の目から見ても、乙波は〝エイリアン〟に映るらしい……見た目はスーツ着たオッサンなのに、ぢつは地球外生命体かもしれないというMIBと一緒だな……。
「上敷くんの方こそどうなの? なんか今までの彼氏と違って交際長く続いてるみたいだけど、彼女とつきあってて、そういうとこで衝突したりとかしないの?」
老婆心ながら再び乙波の行く末について不安になっている俺に、今度は有尾の方が妙に真剣な眼差しになって訊き返してくる。
「……あ、ああ、まあね。衝突とまではいかないけど、やっぱりついてけないとこなんかは多分にあるかな。今朝だって、となりのマンションでアブダクなんとかが起きたって言うし、黒尽くめの男達が学校の周りをうろちょろしてるなんてことまで言ってるし……ああ、それは俺も見たんだったか……」
突然、有尾に訊かれ、心が違う所に行ってしまっていた俺は、焦って一時間目に見たMIBっぽい人物のことまで思わず口走ってしまう。
「あ、いや、その、別に俺はMIBだとは…」
そんな発言をしては俺まで乙波に感化されたのかと誤解を受けかねない。自分のうっかりに気付き、慌てて否定する俺だったが……
「ああ、あの黒いコート着たやつらだろ? あれ、刑事らしいぜ? なんでも、この辺りで聞き込みしてるんだとかなんとか」
「え? ……刑事?」
予想外にも俺の言葉を拾って、伴野がそう口を挟んできたのだった。
「らしいね。僕の友人も朝、声を掛けられたって言ってたよ。近くで女子大生が行方不明になったんだってさ」
後合もそれを継いで、伴野の話を証明するようなことを口にする。
行方不明? ……それって、まさか乙波の言っていた……。
「そうそう! ここのとなりのマンションで、ルームメイトと二人で住んでた女子大生が突然、失踪したみたいなんだよ。いなくなったのが四月一日だって言ってたから、かれこれ一週間以上経つんじゃないかな? それで警察も捜査しだしたってとこね」
その上、さらに有尾までがその話題に乗り、乙波が話していた事件についてより詳しく語り出すではないか!
なんなんだ? この突然のリンクは……。
「ああ、だから事件性も考えて、ここらで何か目撃したやつがいないか聞き込みしてるってわけだ」
「うん。その声掛けられた友人もそんなこと言ってたよ。僕らが登校した時にはもうしてなかったけど、早い時間帯には生徒にも聞き込みしてたみたい。彼も部活の朝錬で登校時間がすごく早いからね。もし何かの事件に巻き込まれたんだとしたら、人気のない深夜か早朝の可能性が高い……聞き込み対象としては、僕らみたいな怠惰な連中よりも活発な部に入ってる子の方が好ましいってところかな?」
有尾の言葉に伴野も頷くと、後合がさらに自分なりの解釈を披露し、よりいっそうその話を確かなものとする。
予想外な方向へと逸れた話に驚く俺だったが、これでようやく、あの〝黒尽くめ〟達の正体について得心がいった。
なるほど……あれは刑事だったのか。それならばあの暗めな服装も、校門の前で周囲を窺っていた不審な行動も納得がいく。
なんだ。蓋を開けてみれば、トンデモでもなんでもない常識的な話だ。まあ、女子大生の行方不明事件ってのは非日常的な話題ではあるが……やっぱりMIBなんかじゃなかったじゃないか! ……あ、いや、別に俺は乙波の話を信じてたわけじゃないけどな……。
「にしても有尾、やけにその事件のこと詳しいな。どこでそんな情報仕入れたんだよ?」
「そう言われてみれば……僕の友人もルームメイトと住んでることまでは知らなかったよ?」
ようやく謎が解け、胸のもやもやも晴れてスッキリしていると、伴野と後合がそんな素朴な疑問を有尾にぶつける。確かにこの前のプールの時もそうだったが、有尾は各方面において何かと情報通だ。
「そりゃあだって、あたし、同じマンションに住んでるんだもん」
「…………えええっ!」×3
だが、有尾はさも当然というように、情報通かどうかなど最早問題ではない、これまた驚愕の新事実をさらっと明かしてくれた。
「同じマンションって……なんで最初にそのこと言わなかったんだよ⁉」
「だって訊かれなかったもん。あれ? みんな、あたしの家知らなかったっけ?」
驚きの声を上げる俺達を他所に、文句をつける伴野にも有尾はケロっとした顔でそう答えている。
「初耳だよ! っーか、じゃあ、おまえの家、学校のとなりか⁉ なら寝坊し放題じゃねえか⁉ くぅ~なんて羨ましい環境なんだあっ!」
「いやあ、近すぎるってのもそれはそれで面倒なんだけどね……ま、そんなこんなで、うちにも刑事さん達が聞き込みに来たんだよ。うちは三階だから、その行方不明になった人のいた五階とは離れてるんだけどね。いなくなった日に誰か不審人物を見なかったか? とか、何か不審な物音を聞かなかったか? とか……ま、月並みな質問だね」
「なるほどね。どおりで詳しいわけだ。で、有尾さんとこでは何か気付いたこととかなかったの?」
「ううん。それが全然。事件のこともだし、そんな人がいたなんてことも訊かれるまで知らなかったぐらいだから。ま、もしかしたら玄関ですれ違ったりしたことはあったかもしれないけどね」
羨ましがる伴野を軽くあしらい、その詳しい理由を教えてくれる有尾だが、続く後合の質問に肩をすくめると、そう言ってふるふると首を横に振る。
まあ、近所つきあいなどほぼないに等しい現代社会にあっては……しかも団地暮らしともなれば、いくら同じマンションといえどもそんなもんなんだろう。にしても、まさか有尾があのマンションの住人だったなんて……ほんとに奇遇といおうか運命の悪戯といおうか……まったく、なんという偶然の一致なんだ……。
ハァ…これを乙波が知ったらどうしよう……放課後調べに行くとかなんとか言ってたけど、行ってもオートロックで玄関すら入れないだろし、どの部屋かわからなければ諦めて帰るだろうと踏んでいたのに、これでは有尾の力を借りて、なんの苦もなくすんなり目的地へ行き着いてしまう……いかん! それだけは絶対にいかん! 乙波と有尾の接触はなんとしてでも避けなければ……。
「ねえ、今の話ってとなりのマンションで女子大生が失踪した事件のことだよね?」
だが、そんな想定外にも発生した不安要素に俄かな焦りを覚え始めた矢先、額に手を当てて項垂れる俺の頭上数十センチの距離で、不意にどこか聞き憶えのある女の子の声が聞こえたのだった。
ま、まさか……。
「お、乙波⁉ ……い、いつからそこに?」
視線を上げた俺がそこに見た顔は、そのまさかの人物のものだった。
マズイ! いつからそこにいたのかは知らんが、今の話を確実に聞かれた。せめて有尾がそのマンションの住人だと気付いていなければいいのだが……。
「ねえ、その話、もっと詳しく聞かせてくれないかな?」
慌てふためく俺のことなど目にも留めず、乙波は真っ直ぐに有尾を見つめて尋ねている……その顔はいつも以上に真剣だ。興味ある分野ド真ん中な事件を前に限りなくガチである。
「……?」
プルプルプルプル…。
こちらを向き、怪訝な表情で無言の問いかけをする有尾に対し、俺は高速で首を横に振ると、何も言うなと目だけで合図を送る。
「アハぁ~…」
だが、そんな俺を見た有尾は、その顔にニタリと悪魔のような笑みを愉しげに浮かべるのだった――。
To Be Continued?




