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俺とグルメと妖怪と  作者: 夜桜満月
4/10

再会

ああ、眠い、眠すぎる!


 学生なら学園の授業、社会人なら仕事が始まる一週間でもっとも憂鬱な日だ。

 それに加えこの眠気で体が動きたくないと悲鳴をあげている。

 本来なら昨日たっぷり休んで英気を養っておくはずだったのだが、警察を恐れるあまりほとんど眠れなかった。


 くそ! 全てあの赤髪女のせいだ!


 事の始まりは土曜日、遠野市に出かけた俺は河童? に追われている赤髪の女と出合い、散々な目に合わされた。

 食べようとした遠野バーガーは台無しにされ、妖怪とのバトルに巻き込まれ、最後は警察に追われる始末。

 今でも警察が俺の身元を割り出し、もうすぐこの家にやってくるのではないか心配だ。



 …………とりあえず朝飯でも食べるか。

 いつまでも怯えていても仕方ない。

 ここは朝飯で少しでも元気を出そう。


今日のメニューはトースト、目玉焼きにサラダにコーヒー、それにとっておき、ホップの若芽ウインナーだ。

 土曜日、あの事件に巻き込まれる前に買っておいたホップの若芽ウインナー。

 これは遠野産のホップの若芽を岩手県産のポークに練りこんだものだ。

 普通にボイルしても美味いのだが、ボイル後に表面をキツネ色に焼くのが俺のおススメの食べ方。


 若芽ウインナーを一口でいただく。

 うん。ジューシーな豚肉本来の美味さと、ホップの風味が口の中で見事に絡み合う。

 これは普通のウインナーには出せない味だ。

 多分ビールのつまみとして最高の品だろう。

 まあ俺は未成年なのでこの楽しみは将来にとっておこう。



 時刻は七時三十分、ちょうどいつも学園に向かっている時間だ。

 洗い物を終わらせ、カバンを持ち玄関へと向かう。


 ピンポーン!


 靴を履いていると突然、来客を知らせる音が鳴り響いた。

 誰だ!?


 自慢じゃないが俺に友達はほとんどいない。

 だからこの家を訪れる者は業者、勧誘がほとんどだ。

 しかもこの早い時間、知り合いである可能性は皆無に等しい。

 ってことはとうとう警察が俺を逮捕しにやってきたのか!?

 いや、新たな新聞勧誘かもしれん。


 様々な考えが頭に浮かんでは消え、中々ドアを開けることが出来ない。

 ドアの前で何をするでもなく、うんうんと唸っていると――――


 ピンポーン、ピンポン、ピンポン、ピンポーン!


 くそ! 連打してきやがった。

 もはや俺に選択肢はないのか……

 ええい! ままよ!

 覚悟を決め、ドアを開く。


「遅い! ドア一つ開けるのに一体何分かかってるのよ!」


「お前は…………あの時の妖怪女!」


 俺より少し低い背格好、それにどこにいても一目を引くこの紅色の髪。

 間違いない。こいつは俺の遠野バーガーを台無しにしたあげく、厄介事を押し付けてとんずらしたあの女だ。


「誰が妖怪女よ! アタシの名前は神楽坂桜琴(かぐらざかみこと)! この前そう言ったでしょ」


「ああ……そうだったな。で、その神楽坂さんが俺に何の用だ? 元より何でここが俺の家だと分かった?」


「今のご時世、名前さえ分かれば住所を割り出すなんて簡単よ」


 情報型社会恐るべし……

 それと土曜日の俺よ……何でこんな奴なんかに名前を教えてしまったんだ……


「家の件は分かった。で結局俺に何の用だよ?」


「そんなの決まってるじゃない。学園に行くのよ。アタシと一緒にね」


「は!?」



「いや~アタシも調べた時は驚いたわ。まさかアンタも同じとこに通ってるなんてね」


 ……なんでだ。なんでこうなった。

 俺と神楽坂は今、二人で通学路を歩いている。

 今朝会った時、なんだか見覚えのある制服を着ているなとは思ったが……

 まさかコイツも同じ学園に通っているとは……


 俺の家から学園までは歩いて十分程度とはいえ、コイツと一緒だとわずかな時間であっても、何か厄介事に巻き込まれそうで怖い。


「なあ、お前の家には警察来たか?」


 もし神楽坂に再び会ったら聞こうと思っていたことだ。

 元はといえば刀を振り回していたのは神楽坂一人で、俺は巻き込まれただけにすぎない。

 まあ、最後の方は俺も協力はしていたが……


「警察? ああ、その事なら大丈夫よ。本家のほうが手をまわしてくれたから」


「本家?」


「うちと警察はちょっとした繋がりがあってね。あの件は揉み消してもらったの。だから心配しなくていいわよ」


「本当か!? はあ……これで安心して眠れるな」


 よく分からんが、どうやら俺が捕まる心配は無くなったようだ。

 これでようやくいつものグルメライフに戻れるってことか。


「さあ、着いたわよ」


 神楽坂と話している間に学園に着いたようだ。


 私立織音(おりおん)学園。

 鳴櫻市(めいおうし)の中でも比較的大きい、俺と神楽坂が通っている学園だ。


「アンタ、何組だっけ?」


「2-Bだ」


「そっ。アタシは2-Aだから。あ、大事な話しがあるから放課後、教室で待ってなさい。それじゃね!」


「はあ!? ってお、おいちょっと待て!」


 神楽坂は言うだけ言って、走り去ってしまった。


 話しがあるから放課後、待ってろだと……

 神楽坂が言うことだ。どうせろくでもない、もしくは厄介事に違いない。

 となれば選択肢は一つ!


 素早く学園を出て、喫茶店でお茶でもしよう……

 俺はそう固く決意し、自分の教室へと向かった。

 








 




 






 

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