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俺とグルメと妖怪と  作者: 夜桜満月
3/10

出会い3

「ハア!? 一緒に戦うって……アンタがいたところでどうにもならないわよ! いいから手を放してアタシの後ろにでも隠れてなさい」


「イヤだ」


「どうしてよ!?」


「お前、その腕と足で本当に勝てると思ってるのか?」


「――――ッ」


 こうして一緒に刀を握っているのにも関わらず、コイツの両腕と足の震えは治まっていない。

 俺が支えていなければ今にも崩れ落ちてしまいそうだ。


「そんなのやってみなければ分からないじゃない!」


 やれやれ強情なヤツだな。

 勝てるわけがないと自分が一番分かっているだろうに。


 ……いや、これは俺を気遣っているのか。

 せめてもの虚勢を張って俺を安心させようと。

 ったく……


「いいから少し落ち着け。深呼吸しろ」


「こんな時に何言ってるのよ!」


 俺の参戦を警戒してか、河童も距離を保ちこちらの様子を窺っている。

 時間的にもこれがラストチャンスだろう。


「いいか。今、お前は一人じゃない! 俺も一緒にいる!」


 腕の震えがわずかに治まる。


「お前が感じている感情、緊張、焦り、恐怖、責任感、正義感、それら全て今だけ俺も一緒に背負ってやる! この先の結果がどうなろうとも俺も一緒に受け止める! だから、恐れるな! 分かったか?」


「~~ッ!! な、な、何カッコつけてるのよ……バ、バカじゃないの」


 さっきよりも顔を真っ赤にして女が反論してくる。

 だが両腕と足の震えはもう治まっていた。


「おい、いけるな?」


「…………ことよ」


「は?」


「桜琴よ。おいとかお前、じゃなくてアタシの名前は神楽坂桜琴(かぐらざかみこと)よ」


「桜琴! いけるか?」


「当然!」


 桜琴が刀に力を込める。

 だが最初の時と違い、光がどんどん強くなり最終的には刀全体が輝きはじめた。

 これは成功したのか?


「何、コレ……いつもより全然強く光ってる……」


 光り輝く刀を見た河童は焦ったのか、俺たち目掛けて突進してきた。

 河童が俺たちに迫る瞬間――


「今よ! 左に跳んで」


 サイドステップで突進をかわす。


「いくわよ!」


「おう!」


 今度はこちらが河童に突撃を仕掛ける。

 河童は急ぎ、後ろを振り返るがもう遅い!

 二人で河童の胴体目掛け、思いっきり刀を振るう。


「くたば、れええぇぇぇええええええ!!」


「ヒョアアアアアアアアアアアアアア」


 河童が奇妙な鳴き声を出す。

 手応えはあったが、やったのか?


「まだよ!」


 河童、もとい小学生の男の子から黒い煙みたいなものが上がっていく。

 そして徐々に赤く変色した皮膚や水掻きが、人間のそれへと戻っていった。

 

「河童の魂が……出たわっ」


 桜琴が言い終わると男の子の真上に円形の黒い靄状の物が出現する。

 あれが河童の魂というヤツか。

 そして河童から解放された男の子はその場にゆっくりと倒れこんだ。

 妖怪以外は斬れないとのことだったから、多分命に別状はないだろう。


「ちょっとコレ持ってて」


「お、おいどこ行くんだよ」


 桜琴は刀を俺に押し付けて、自分のカバンの元まで駆けていった。


「あったわ」


 桜琴がカバンから取り出したのは、とても分厚い紫色をした一冊の本だった。

 そしてパラパラとページをめくり、空中に何らかの印を結び始める。


「封印!」


 桜琴がそう叫ぶと、河童の魂、黒い靄が本に一瞬で吸い込まれていった。

 目を閉じ、パタンと本を閉じる桜琴。


「終わったのか?」


「ええ……これでおしまい……ううっ」


「お、おい大丈夫か」


 桜琴が崩れ落ちる。


「大丈夫、少し疲れただけだから。それよりアンタのおかげで無事封印できたわ。ありがと」


「礼はいい。おい、動けるか? もし大丈夫そうなら遠野バーガーを……」


「そういえば、まだ聞いてなかったわね。アンタの名前は?」


神宮尊(かみやたける)だ」


「尊、ね。覚えたわ」


「俺の名前なんてどうでもいい。それより早く遠野バーガーを」


 そのために助けたんだからな。


「はいはい。慌てなくてもいくらでも買ってあげるわよ…………ゲッ、ヤバッ」


「ゲ?」


 桜琴が俺の後ろを見て、河童と対峙してた時よりも焦った表情になる。

 なんだ、どうした?


「おまわりさん、あの二人です! あの二人が刀を振り回してあの子を襲ってました」


 嫌な予感がして後ろを振り向くと、そこには俺たちを指差している女性と警察官がいた。

 まさか一部始終を見られてたのか!?

 マズイ! 事情を知らない人が見たら、俺たちはただの子供を襲った犯罪者だ。


「おい桜琴、何とかしろ…………っていねえ!!」


「ゴメン、尊。後はアンタ一人で何とか切り抜けて~」


 アイツ、いつの間にあんな所まで。

 てかさっきの疲れた発言どこいった!


「おい桜琴! 待てコラァ!」


「あコラ、君止まりなさい!」


 桜琴と俺と警官の追いかけっこが始まる。


「あ、そうそう。尊、今日はありがと。また会いましょう」


 そう言って桜琴は次の分かれ道を曲がり、完全に姿あ見えなくなる。


「また会いましょう、か」




「………………ふざけんな! 誰が会うかああああああ!! てか俺の遠野バーガー返せえええええ!!!」



 これが俺、神宮尊と神楽坂桜琴の最初の出会いだった。





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