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俺とグルメと妖怪と  作者: 夜桜満月
2/10

出会い2

「河童ってあの妖怪のか? 何言ってんだお前。確かにあの水掻きはおかしいけどよ。」


「確かにあの男の子は人間、だけど河童があの子の魂に憑依しているの。今は不完全だけど時間が立てば完全に河童の姿になるわ」


 確かに男の子の右手だけでなく左手も水掻きになっている。

 つまりあの子は幽霊に憑かれている状態みたいなもの。

 そしていずれ完全体河童になるってことか。


 ……てか何だよこの状況!!

 ほんの三十分くらい前までスローグルメライフをエンジョイしてたってのに。

 何でいきなりこんなファンタジーなことになってんだよ!


「もう分かったでしょ? アイツはアタシが引き付けておくから、アンタは早く逃げなさい」


「ダメだ。まだお前に遠野バーガーを弁償してもらってない」


「ハア!? アンタ自分で何言ってるか分かってるの? この場にいたら怪我するだけで済まないわよ」


「例えそうだとしても、俺は遠野バーガーを弁償してもらうまでお前から絶対離れん!」


 どれだけ怒鳴られようと場違いだろうが、これは俺のポリシーだ。

 絶対に譲らない。


「……はあ、分かったわよ。もうアンタの好きにしなさい」


 数秒後、女は俺の答えに納得したのか呆れたのかは知らんが、この場にいることを了承してくれた。


「ってことはこの場でやるしかないってわけね」


 女は急に立ち止まり、大きなバックを地面に降ろした。

 今、この場は回りに人っ子一人としていない。ここで河童をどうにかするつもりなのだろうか。

 小学生の男の子、もとい河童は急に立ち止まった俺たちを警戒してか、一定距離離れたところで足を止めた。


「アンタはアタシの後ろにいなさい」


 言われた通り、女の後ろに周る。

 そして女はバックから一本の刀を取り出した。

 一メートルはあるだろう太刀。刃には白虎や朱雀などの紋様が刻まれている。


「神器、日月護身剣(にちげつごしんのけん)


「おいおい何だよその刀は?」


「これは妖怪退治に使われる神器の一つ。妖怪だけを斬る刀」


「妖怪だけをか?」


「ええ。だからあの子が傷つくことはないわ」


それは助かる。

 河童を倒したのはいいが男の子も血まみれなんてのはごめんだ。


「はあああああっ!」


 女が声を上げ刀に力を込める。

 すると白い光が刀に流れ込んでいく。

 おそらく霊力というやつだろう。


 このまま刀全体が輝くのかと思ったが、特に変化は無し。

 霊力も刀の表層部分で留まっているような気がする。

 それともこれが普通なのだろうか?


 だが妖怪退治に関しては俺は完全に素人。この場は彼女を信じるしかない。

 俺は全てが終わった後、遠野バーガーを弁償してもらえばいい。うん。これでいい。


「……大丈夫。あれだけ修行したんだから。今回は絶対に大丈夫……」


 女は自分に言い聞かせるように呟いた後、勢いよく息を吸い河童に突進した。

 霊力を込めた刀を河童目掛けて振り下ろす。


 その一撃を河童は赤黒く硬質化した両腕でガードする。

 しかし勢いよく振り下ろされた刀は易々とそのガードを打ち砕いた。


「ヤアァァァァァァァァア!」


 がら空きとなった河童の胴体を刀で突く。

 もらった!!

 素人の俺でさえ勝利を確信し小さくガッツポーズをとった。しかし――――


「え!?」


 効いて、ない!?

 河童はピンピンしている。


「ウソ!? な、なんで、なんで?」


 渾身の一撃は河童の腹部に少し傷をつけただけだった。

 何でだ。その刀は妖怪を斬ることが出来るんじゃなかったのか?

 河童はニヤリと口の端を吊り上げると、女に向かって突進を開始した。


「…………何で…………兄様や姉様は易々と使いこなしてたのに……あんなに修行したのに……なんで、なんでなの!!」


 刀を持つ両腕はブラリと下がり目線を下に向け、何事を繰り返し呟いている。

 マズイ。完全に戦意喪失してやがる。


「おい!危ないぞ避けろ!!」


「…………やっぱりアタシじゃダメなの? 兄様や姉様と違ってアタシは出来損ない……」


 河童が近くに迫るも、女は未だに呆然と立ち尽くしている。


「おい、聞いてるのか!! ……クソッ!」


 俺は咄嗟に女と河童の間に割り込んだ。


「うぐおおおおおおおおお!」


 河童の突進を体全体で受け止める。

 ど、どんな馬鹿力なんだよ、コイツは……

 体格に合った力にしろよ、クソッ!


「あ、アンタ、何して……ってアタシ、アタシ」


「ようやく気付いたかよ……ってうおおおおお!」


 河童の突進を抑えきれず、吹き飛ばされガードレールに激突する。


「ガハァッ」


 クソッ……もうお前妖怪やめて相撲取りになれよ……

 河童が再び突進の体勢を取る。

 もう一度あれを喰らったらさすがにヤバイな……


「やめなさい! コイツは関係ない。……だからアタシが相手よ」


 女が俺を庇って前に出る。


「もう大丈夫。アンタは絶対にアタシが守るから……」


 何が大丈夫なもんか。お前、そんな状態で本当に俺を守れるのかよ。

 女の刀を持っている両腕は震えていた。

 いや腕だけじゃない。両足もだ。


 そして当の河童は完全体まであと少し。

 元の男の子の面影は無く、頭には皿みたいなものまで出現している。

 これで背中に甲羅が出来たら河童完全体の完成だ。


 ……ああ、ここで物語に出てくる主人公なんかは俺に任せろとか、お前だけでも逃げろなんてカッコイイことを言うのだろう。

 だが俺は違う。むしろ、今すぐ逃げ出したいくらいだ。

 ただ二人でコイツ相手にどこまで逃げ切れるか。


 そしてこのまま何もしなければ、俺がこれからの人生で味わうことが出来たであろう多くのグルメは全ておじゃんだ。

 ならもうやるしかない……


「おい、そこから動くなよ」


「え、何…………ってアンタいきなり何して!?」


 反論を無視して俺は女の刀を握っている両手を上から握り締めた。

 当然後ろから抱きしめている形になっているため、女は顔を真っ赤に染めて俺を睨んでくる。

 俺もかなり恥ずかしいが今はそれどころではない。


「いいか! 今から俺もお前と一緒に戦ってやる!」


 


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